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援農者が集まる和歌山・下津町「みかん援農プロジェクト」 人手確保のポイントを聞いた

援農者が集まる和歌山・下津町「みかん援農プロジェクト」 人手確保のポイントを聞いた

果樹収穫の人材確保は季節労働性への対応が課題。他産地・他作物とのバッティングも避けられません。和歌山県の下津町の一地域では、全国各地を渡り歩く援農者と農家が産地ぐるみで良好な関係を育む「みかん援農プロジェクト」で11月から12月の収穫期を乗り越えてきました。一方で援農者の多様化に労働条件やハード面の整備が追いつかず、援農の手が行きわたらない状態に。次なる一手を、プロジェクト事務局の代表に伺いました。

援農者たちと歩む、みかんの郷

和歌山県北西部の下津町(海南市)は、紀伊水道に面した人口約1万5000人の町。温暖な気候を活かしたみかん栽培が盛んで、隣接する有田市や有田川町とともに全国屈指のみかん産地を形成しています。その歴史は約400年前にさかのぼり、現在も農地が町の面積の約半分を占め、ほとんどの農家がみかん生産に携わるなど、地域の暮らしと深く結びついています。

みかん農家の高齢化が進む中、下津町の一地区を「援農キャラバン」が訪れるようになったのは2015年のこと。全国各地で農家を手伝いながら旅をする若者の自主組織で、11月から12月までの収穫・出荷の最盛期に十数人が集まり、空き家を改装したシェアハウスで共同生活を送るようになりました。

この「援農キャラバン」の活動をベースに、下津町で食品加工などの六次化産業を手がける大谷幸司さんが、収穫期の人手不足に悩む地域のみかん農家と全国の若者をつなぐ「みかん援農プロジェクト」を2017年に立ち上げました。その翌年には受け入れ農家とともに加茂川協議会を組織し、その事務局として援農希望者の募集、面接、農家とのマッチング、住居の手配などを一手に引き受けてきました。

代表の大谷 幸司さん(撮影:黒岩正和さん)

双方の関係性の満足度で、リピート・紹介を増やす

加茂川協議会が人材確保で重視してきたのは、受け入れ農家と援農者、双方の満足度です。丁寧な面談やヒアリングにより農家と援農者の人柄を踏まえたマッチングで、リピートや紹介、口コミにつながる良好な関係性を築いてきました。当初は農家8戸、援農者数十名だった活動が、2020年には農家40戸、援農者延べ70人に達し、以降この数字を維持しています。

現在では援農者の過半数を経験者やその紹介者が占め、リピーター率は3割弱。下津町や有田市を拠点にして季節労働をする半移住者が十数人ほどに増え、みかん収穫期以外にも消毒や剪定を頼める関係性ができました。

そんな中、2023年はチャレンジの年になりました。かつては旅人が主だった援農者が、コロナ禍以降、働き方の変化で多様性を帯び、他の産地との季節労働者の獲得競争も激化。加茂川協議会では、運営のマンパワーや住宅の不足による機会損失を改善するため、2023年度の産地間連携事業に参画。事務・広報の専任スタッフを臨時雇用して下津町の魅力を発信し、従来50人だったシェアハウスの定員を60人まで増やすことで援農者の確保に臨みました。

また、援農とは別枠で、高原キャベツ産地の群馬県嬬恋村から4人のカンボジア人技能実習生を受け入れる新たな試みもあり、厳しい中でも延べ68人の援農者を確保することができました。

技能実習生を受け入れる初の試み、多様なニーズを再確認

こうして迎えた2024年度シーズン、大谷さんは新たな課題を口にします。「援農者の話を聞くと、求人の条件が年々上がり、賃金面で他産地に流れているように思います」。

事務局では、この課題を受け入れ農家に共有して時給を上げてもらえるよう働きかけるとともに、強みである援農希望者が下津町に入ってくる魅力を最大化する取り組みに注力。「援農参加者にとって、楽しかった、出会いがあったなどの体験が、満足度につながると思います」と大谷さん。自身が経営するカフェ「KAMOGO」で交流会を行うほか、コミュニティスペースとして主体的に集まれる場づくりをしてきました。

これらの施策によって、2024年度は昨年度を超える100人の応募があり、76人が下津町でみかんの援農に従事したものの、限界も見えてきました。
「一番の悩みは援農者用の住居不足です。受け入れを希望する農家さんが増えていますが、キャパシティがあってこれ以上新規の受け入れ先を増やせない状況です」と大谷さんは心苦しさを滲ませます。昨年度の事業で整備したシェアハウスは個室仕様で定員60人です。援農者が延べ60人を超えたのは、シーズン中の入れ替わりやカップルや友人の相部屋利用によるものです。

「住環境の面でも必ずしも満足できるものではありません。フリーWiFiやテレビなどの要望がありますが、11月と12月の繁忙期だけのためにそこまでコストをかけられません。暖房器具の確保や燃料代の負担増も課題です」と大谷さんは厳しい台所事情を明かします。

また、前年参加したカンボジア人技能実習生4人のうち、2024年度にリピートしたのは1人のみ。「受け入れ農家さんは『また来てほしい』と満足度が高く、技能実習生も下津町でのみかんの仕事に満足してくれていますが、しっかり働いて稼ぎたいという要望に応えることができません」と大谷さん。嬬恋村のキャベツは雨天でも収穫しますが、和歌山のみかんは雨が降れば仕事はありません。

実際、2024年は雨が多かった分稼げなかったことや、みかん収穫終了後の1月からキャベツのシーズンが始まる翌年3月末までの仕事を提供できないことが課題として残りました。

みかんの時期、援農者が戻りたい場所になる

これらの課題を前にして、大谷さんは「これからも援農参加者の満足度を上げることを最優先に取り組んでいきます」と語ります。

また、事業を通して産地間の連携が強化され、2024年度は嬬恋村から新たに10人の技能実習生を迎え、合計11人が従事しました。技能実習生受け入れのノウハウも蓄積されつつあります。今後は、嬬恋村をはじめ複数の産地とのつながりを模索して、技能実習生にもリピートしてもらえる産地を目指すことが、加茂川協議会の基本方針です。

人材確保の課題は、ハード面の改善や賃金アップだけでは解決しきれません。「だからこそ、みかんの郷・下津町の魅力を伝え、丁寧なマッチングにより産地・農家・援農者のより良い出会いを創出する必要があります」と経験知をもとに語る大谷さん。

そして、「自由なライフスタイルを優先する働き方を選ぶバックパッカーと季節労働はリンクすると思います。そんな人たちにとって居心地のよい関係性を築いてリピートにつなげていく」と抱負を述べます。

次シーズンの人材確保に向けて「みかん援農プロジェクト」は動き続けています。

【取材協力】
加茂川協議会
みかん援農についてはこちら

【農業労働力産地間連携等推進事業に関するお問い合わせ】
株式会社マイファーム
農業労働力確保支援事務局

MAIL:roudouryoku@myfarm.co.jp
TEL:050-3333-9769

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