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企業が行う農福連携のメリットや課題は? 企業現場のリアルを語る!【農福連携座談会VOL.3】

農福連携を企業ではどのように取り組んでいるのか? 特例子会社制度を活用し進める先駆的な優良事例を紹介。一般社団法人日本農福連携協会の顧問である濱田健司(はまだ・けんじ)さんがモデレーターを務めながら、参加者たちがその効果や課題など現場のリアルを座談会形式で語り合いました。

【プロフィール】※濱田さん以下、五十音順
■濱田健司さん

 alt= 一般社団法人日本農福連携協会 顧問 / 東海大学 教授
障害者・生活困窮者・高齢者等が地域の農林水産業などに従事することで地域を活性化する農福連携、さらに多様な主体の連携する農福+α連携の取り組みについての研究が専門。

■内山拓也さん

 alt= 株式会社モエ・アグリファーム 代表取締役社長 
モエ・アグリファームは熊本県に拠点を置く、セイノーホールディングス株式会社のグループ会社。約18ヘクタールの農地で「真と心のオーガニック」を目指し、野菜を生産する。

■片板弘礎さん

 alt= CTCひなり株式会社 副社長執行役員
CTCひなりはIT企業の伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)の子会社。東京、大阪、名古屋、浜松に拠点を持ち、浜松での農福連携事業のほか、オフィス関連事業、IT関連事業、カフェ・販促事業を展開。227名の社員の内、155名が障がいのある社員。静岡県浜松市にあるオフィスでは、38名が契約農家より農作業の業務を請け負い農業に従事している。

■小林良成さん

 alt= 東京グリーンシステムズ株式会社 取締役社長
東京グリーンシステムズは、1992年に設立したSCSK株式会社の子会社。自社で農地を借りて農産物を作り、自社の売店で販売したり、地元のスーパーに卸したりしている。

■鈴木崇之さん

 alt= 帝人ソレイユ株式会社 取締役 社長補佐(農業事業統括)
帝人ソレイユは2019年、親会社である帝人株式会社の社内ベンチャーとして設立。胡蝶蘭(こちょうらん)の生産・販売の他、オーガニック野菜やエディブルローズの生産を行っている。

■動画で見る■

農福連携に取り組む4社が座談会に参加

農業と福祉を連携させた取り組みである「農福連携」。障害者の就労や生きがいづくりの場を生み出すだけでなく、担い手不足や高齢化が進む農業分野で、新たな働き手の確保につながる可能性も期待されています。(農福連携について詳しくはこちら
今回の座談会には、「特例子会社制度」を活用して農福連携の取り組みを進める4社が参加しました。
特例子会社制度とは、障害者雇用率を安定的に上げるための制度です。
事業者が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、その子会社に雇用されている労働者を親会社を含むにグループ会社全体で雇用されているとみなして、実雇用率を算定できる制度です。ただし、一定の要件を満たす必要があります。
近年、特例子会社を設置して農業分野に進出する企業も増加しています。
今回の4社共、約20~30人の障害のある社員が、農業の分野で活躍しています。

みんながハッピーになることが農福連携

「福祉連携はみんながハッピーになる形を目指して作ってきたんですよね」と濱田さんは話します。農福連携の取り組みは、働く障害者だけでなく、雇い主である企業、日本の農業それぞれにメリットがあります。

内山さんは、2024年に地元のツアー会社とタッグを組み、食育をテーマに子供向けの農業ツアーを始めました。このツアーは企業からの需要もあると言います。
「職員研修で農業を活用する企業が多いんです。採用したものの、面接と履歴書だけでは人となりが分からない。そこで人事の担当者が新入社員と一緒に参加し、農作業を通じて人柄を見た後に配属先を決めるというケースもあります。実際に『この人はすごく協調性がある』とか『この人は集中力が高い』と気付けるようです」

農業を労働以外に活用する案もあります。片板さんは今後、農作業をIT分野で働く社員のリフレッシュの場として活用することを考えているそうです。
「浜松に来てもらい、例えば午前中は農業を、午後はITの仕事をする。仕事で感じた疲労やストレスを、自然にふれることで心身共にリラックスし、新しいアイデアが浮かぶような環境を提供する場として農園を持つことも考えています」

今後の課題

今後更なる農福連携を進めていくためには、課題もあります。

「例えば、健常者にはできないような集中力を持っているなど、障害のある人にはそれぞれ特性があります」と語る小林さん。目指すのは、障害のある人それぞれの強みを生かした商品を開発し、適正な価格で販売していくことです。
「その人たちの強みを生かした商品を、価値として市場に届けたいと思っています。品質の良さをしっかりと伝え、それに応じた価格を付けて販売していきたいです」

鈴木さんは、高い技術力を持つ社員を社会にもっと評価してほしいと言います。
帝人ソレイユが主力とする胡蝶蘭の栽培には、熟練の職人技が求められます。
「障害のあるメンバーの中には、同じ仕事を長く続け、繰り返しやることで技術力を身に付ける人が居ます。実際、うちの胡蝶蘭は品質を評価されていて、東京卸売市場の平均単価に比べて約2割高いんですよ。それはうちの技術力であり、活躍してくれている障害者の社員の成果です。そこをもっと社会に評価してほしい、もっと見てほしいと思っています」

広がっていく農福連携

企業が持っているノウハウを生かし「農業」「福祉」と組み合わせることで、更なる広がりを見せる農福連携の取り組み。今後もさまざまな事例が生まれそうです。
農林水産省のホームページでは全国の代表的な取り組みを紹介しています。これらを参考に、みなさんの企業でも農福連携の可能性を考えてみてはいかがでしょうか。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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