虫食いだらけなのは無農薬だから?
我が菜園生活 風来では立ち上げ当初から無農薬栽培。当時は有機栽培の技術は今と比べても広がっておらず、有機JAS認証肥料や農薬もなく、知識の取得は本が頼りでした。
とにかく無農薬なら安全で、肥料もやればやるほどうまく育って、おいしくなると勘違いしていた時期。近所の養豚農家さんから豚プン堆肥を分けてもらって、畑に大量まきました。
そうしたところ、漬物用にとメインで育てていた白菜が虫食いに遭い、見事なぐらいレースのカーテン状に。肥料分が足りないのではないかと考え、さらに肥料を投入するも被害は止まらない。そうして年月を重ねていくうちに「チッソ過多になると虫が寄ってくるのでは」との考えに思い至り、チッソ分をあまり使わずキノコの廃菌床を施肥する農法に切り替えました。

チッソ過多で虫食いだらけの野菜
そんな農法に転換した1年目は虫食いも少なく、味も良い野菜が収穫できて画期的だと思いました。ただ3年目ぐらいから徐々に収量が減り収穫のタイミングもバラバラに。今も実野菜に関しては良い農法だと思うのですが、無農薬栽培の時には簡単にできていたタマネギ、ニンニク、サトイモ、ジャガイモなどの根菜では収量が激減しました。また、葉野菜も虫食いは無いものの雑草のようにギシギシして硬く、食べてもあまりおいしくないといった状況が続きました。
そんな体験から、バランスが取れた土づくりが何より大切だと改めて実感しました。農家仲間から、橋本力夫さんという堆肥づくりの名人が教室を開催していることを聞きつけたのは、ちょうどそんなころ。この先のことを考え学びなおそうという気持ちで、橋本力男さん主催のコンポスト学校に1年通うことにしました。
学び直して再確認
コンポスト学校へは車で片道4時間。それを年間20回通うことになります。自営業者としてはハードルが高かったものの、行ってみようと強く思った理由は、農家仲間の「橋本先生の技術は大当たりはないけど失敗なく、誰でもコンスタントに収穫できるようになる」という言葉があったからでした。農業で食べていく時にまさに必要なのがそれだからです。
橋本先生からはいろいろと得るものがありましたが、今回のテーマである土づくりに関して特に印象的だったことは、大きく3つあります。
1.土の発酵と腐敗の違いは何か
2.残渣処理と畝(うね)の作り方
3.堆肥の使い分け
まずは“土の発酵と腐敗の違いは何か”に関して。
よく、農家同士でも土づくりにおいて発酵や腐敗といった言葉を使います。橋本先生は言葉の定義を大切にしており、土づくりにおける発酵を、野菜が健康に育ち虫食いや病気が無いことと定義付けていました。腐敗においても「虫を呼び込み、病気になること」と明確にしていて、その区別するために匂いなど、五感を通してその違いを教えてもらいました。
次に“残渣処理と畝(うね)の作り方”に関して。
前作の残りをどうするかも、これまた農家同士の話題によくなります。橋本先生によると、基本的に持ち出しを推奨。もし持ち出せない時には地表部は細かくカットして2~3週間放置して充分に乾燥していたらすき込んでも良いとのこと。土が発酵状態か腐敗状態かは水分の影響が大きく、充分に乾燥したものであれば発酵が進むので良い。そして同じく土壌の水分の観点から畝は高畝にして大雨の時でも翌日には水がはけているのが理想とのことでした。
最後に“堆肥の使い分け”に関して。
コンポスト学校で学ぶ堆肥の種類には「モミガラ堆肥」「土ボカシ」「落ち葉堆肥」「草質堆肥」「生ゴミ堆肥」などがあります。「モミガラ堆肥」は土壌改良、「土ぼかし」は基本、「落ち葉堆肥」はミネラルの補給、「草質堆肥」は育苗用など用途によって使い分けとなります。いずれにしてもC(タンソ)、N(チッソ)、B(微生物)、M(ミネラル)のバランスを取り、何より大切なのが水分と空気の入れ方ということを実践で学びました。
「生ゴミ堆肥」に関しては家庭で特製のケースを使って1次発酵したものを回収し、2次発酵させて完成となります。この技術は全国に広がりつつあります。

コンポスト学校では座学で理屈も学びます
堆肥は未熟、中塾、完熟、どれが良い?
堆肥には鶏糞やコメヌカなどそのまま施肥する未熟型、生ゴミなど専用のケースやバケツなどで低温発酵させたものを施肥する中熟型、シッカリと発酵温度を上げて半年以上熟成させる完熟型の大きく分けて3タイプあります。
どれが良いのかについては、「未熟堆肥を施肥することで土ごと発酵させることができる」「完熟させると途中で養分が揮発してしまう」など、農業関係の書籍でも意見が分かれています。私は手間を掛けるのが面倒なため、未熟堆肥を施肥していた時期があり雨量の少ない年など悪くない時もありました。ただ失敗しないという観点で言うと断然完熟堆肥の方が良いということが、コンポスト学校に通う中で分かってきました。
その確信を得たのが堆肥の腐敗実験です。腐敗実験とは広口瓶に半分ぐらい堆肥を入れ容量にしてその1/5ほどの水を入れてフタをして10日間ほど置きます。そしてにおいを嗅ぐ。無臭か少しアンモニア臭がするくらいであれば完熟している証拠。未熟な場合は腐敗臭がしてきます。
以前、生ゴミでぼかし肥料をつくっていたことがありました。バケツなどでつくっている段階では良い香りがしたのですが、いざ土に入れると腐敗臭がするように。そういった土で育てた野菜は虫食いがとても多かったです。
日本は高温多湿気候で雨が多いのが特徴です。そんな環境においては腐敗実験に耐えられない堆肥は施肥しても腐敗に傾くことがとても多いのではないかと思います。先述したように雨量が少ない年には、たまたまうまくいくことがあってもほとんど失敗してしまう。良かれと思って施肥したものが腐敗することでアンモニアガスが発生し、場合によっては作物を枯死させたり、また糸状菌の中でも有害菌の増殖により病気や障害を受けやすい土になってしまう可能性があります。
コンポスト学校を卒業してから改めて畝を高くして、土壌改良の意味も含めモミガラ堆肥中心に育ててみたところ、全般的にこれまでにないくらいの豊作となりました。それこそ、たまたまだったかもしれませんが、今後とも続けていこうという手応えを感じました。

土が良いと育つ野菜も元気
ただ気を付けなければいけないのは完熟堆肥といえど万能ではないということです。ここ北陸では冬は寒く多湿ということもあり微生物の働きが極端に悪くなるためか途中で追肥も必要となるなど使い方も修練が必要だと分かってきました。土づくりに「絶対」はなく自分の畑に合ったより良いものを求めていく。その姿勢こそが失敗するリスクを減らしていくことにつながるのだと思います。