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十勝生まれの1玉3万円のマンゴー 低コストで実現するカラクリに迫る!【岩佐と紐解く戦略農業#17】

岩佐大輝

ライター:

連載企画:岩佐と紐解く戦略農業

私、株式会社GRAの岩佐大輝(いわさ・ひろき)とマイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が、いま注目している農業経営者を突撃し、戦略を紐解いていく連載企画。今回は北海道帯広市で、真冬に収穫するマンゴー栽培に取り組む中川裕之(なかがわ・ひろゆき)さんに話を聞く。自然エネルギーを活用して地球環境にも配慮する農家としても注目されている中川さん。北海道でマンゴーを生産する理由、価値を価格に転嫁するための戦略とは。

プロフィール
■中川裕之さん

株式会社ノラワークスジャパン 代表取締役
1961年生まれ。十勝南部の広尾町出身。十勝港で貸倉庫業やレストラン事業などを営む傍ら、2010年に北海道の十勝・音更町でマンゴー栽培を開始。2011年に株式会社ノラワークスジャパンを設立。地域に貢献するビジネスモデルを構築している。

■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本及び海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)他。

■横山拓哉

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

土地の資源を活用してエネルギー循環型農業を実現

岩佐:今日はノラワークスジャパンの農場にやってきました。ここは北海道帯広市。3月で雪もだいぶ積もっていますが、ビニールハウスの中は32度と別世界です。中川さん、ここでは何を作っているんですか。

中川:マンゴーです。

岩佐:ただ作っているのではなく、大きな投資をしてさまざまな仕掛けが張り巡らされているんですよね。中川さんはマンゴー作りを始めて何年になりますか。

中川:15年になります。約3年前からようやく本格的に収穫が始まりましたが、同時に地球温暖化の影響もひしひしと感じ始めました。

岩佐:北海道でマンゴーを作る場合、暑いと困ることがあるんですか。

中川:うちは一般的なマンゴー農家と真逆の時期に作っているんです。普通は5月頃から出荷が始まりますが、うちは12月から。つまり一般的なマンゴー農家にとっての夏が、うちにとっては冬にあたります。だから5月~7月は室温を10度前後にキープしておくんです。ただ、最近は6月、7月がめちゃくちゃ暑くて。それでも15度前後になるよう、冬の間に雪を保存しておいて、ハウス内を涼しくするために使っています。

岩佐:寒い時期はどうしているんですか。

中川:今の時期(3月)は、ここから湧く温泉の熱を活用して、地中やハウス内を暖めています。地中にパイプがあって、温泉熱で温めた不凍液を巡らせる仕組みです。温泉は約36度なので、熱交換に必要な42度ぐらいまで上げるのに重油を使っています。

地域との連携・協力が不可欠

岩佐:超循環型ですよね。

中川:もともと化石燃料は使っていなくて、食用天ぷら油の廃油を生炊きしていたんですよ。ところが廃油を活用する企業が増えてきて、逆に入手しにくくなり、現在はやむなく重油を使っています。

岩佐:冬にためた雪はどう活用するのでしょうか。

中川:地中のパイプに不凍液を巡らせるというシステムは同じで、不凍液を冷やすために雪を活用します。うちにはダンプカー800台分の雪が堆積(たいせき)する雪氷貯蔵施設 があります。集められた雪が溶けるとポンプ室に流れるようになっていて、その冷たい水で不凍液を冷やします。ぬるくなった水は再びタンクの中に戻り、雪を溶かすのに使われます。

岩佐:この雪氷堆積場は、公共の雪捨て場になっているんですか。

中川:さまざまな事情があって公共の雪捨て場にはなっていないのですが、町に働きかけたら、今年は力を入れて町民に呼び掛けてくれて臨時雪捨て場として使ってもらいました。大雪だったこともあり、2月までにかなりの雪が集まりました。

岩佐:この雪は夏まで持つのでしょうか。

中川:この施設を作った7~8年前、計算上では持つ見込みでした。しかし、ここ3~4年で非常に暑くなってきたので、気象の変化によりますね。そのうち人工降雪機を導入して、冬の間に雪を作るという策も考えています。

ストーリーを伝え価格に転嫁

岩佐:12月に出回る国産マンゴーは恐らくないですよね。小売価格は1玉いくらぐらいですか。

中川:安いのは約6000円、大玉だと約3万円です。売り先は東京の洋菓子店や高級菓子店などです。あるパフェ店では、うちのマンゴーを使ったパフェを1日10組限定で販売しています。どんな場所で、どうやって栽培されているかを説明しながら味わってもらっているそうです。すごく好評らしいですよ。

岩佐:リピーターも多いんじゃないですか。

中川:ほぼリピーターです。インターネットで買ってくれるお客さんの中には、毎年買ってくれる人も居ます。去年、単価を上げましたが、買ってくれる人はいました。エネルギー以外にも、作り手はいかに安心・安全なものを出せるかと考えるじゃないですか。

岩佐:考えますね。

中川:うちの場合、7月には(受粉のため)蜂を放すので、そこからは一切殺虫剤などは使いません。そして8月に花が咲き、9月頃になると小さなマンゴーができます。9月からは寒くなるので、害虫が居なくなってくるんです。マンゴーが肥大していく過程では一切農薬を使わずにすみます。この北海道の気候だからこそ、本当に安心・安全なものができます。

岩佐:ちなみに総投資額はいくらぐらい掛かりましたか。

中川:4億円。補助金も活用しましたが、金額が大きいので悩みました。でも後悔はありません。チャレンジャーが居なかったら、誰も次のステップに行けませんから。もし失敗して、にっちもさっちもいかなくなったとしても、やってみたからこそ分かったことがある。そして誰もやらなかったことができたんです。

ノラワークスジャパンのマンゴー「白銀の太陽」。東京の百貨店で1個52,500円の値がついたことも。

雇用を安定させ持続可能な地域に

中川:酪農は365日忙しいけど、畑作農業は冬の間、仕事がありません。だから田舎はどんどん弱くなると思っていました。我々がマンゴー栽培をすることで、十勝の農家さんたちが冬の仕事の一つとしてやってくれたら、365日仕事が安定します。それによって、安定してこの地域に居られます。

岩佐:確かに。

中川:私たちはマンゴー栽培を閉鎖的にやっているんじゃなくて、地元の農家さんが誰かやりたいと言ったら、「どうぞ、どうぞ」と。そういうことをやろうと思っているんです。

横山:この先、もっと規模を拡大していきたいという気持ちはありますか。

中川:私はもうけようと思ってやっているのではないんです。今の栽培の仕組みが確立できたら、絶対に新しい生産者が増えると思っています。そしたら産地化できますよね。この仕組みを応用して、マンゴー以外にもパパイヤを作ってもいいでしょうし。「冬に仕事が無いから、本州に戻っちゃいました」って、田舎の一番弱いところだと思うんです。それを変えるには、一次産業が1年を通じて働く場所を創出しないといけない。

岩佐:通年の安定雇用ですね。十勝には農業についてのノウハウを持っている方がたくさん居るでしょうから、冬場の施設園芸農業でもパフォーマンスを出せる方はきっと居ますよね。

中川:今一番、可能性があるのはバイオマスプラント。牛のふんでガスを発生させる施設の周りで施設園芸農業をする。余剰熱でいろんなことができますし、一年中いろんなものを作ることができます。一次産業の仕事が安定しなかったら絶対に人は定着しません。私は何よりも雇用の安定が地域に必要だと思っています。

まとめ

岩佐:ノラワークスジャパンの学びのポイントをまとめます。

サステナブルなストーリーがお客さんに伝わることで価格に転嫁されている。
地域の雇用を生み出す新たなチャレンジをして通年で安定した雇用を生み出し、地域全体を盛り上げる。それによって周りも支えてくれる。

ノラワークスジャパンの農業戦略のポイント
地域資源を活用したエネルギー循環型農業 その土地にあった資源を活用し、無理なくエネルギー循環型農業を行う。
ストーリーを伝えて価格に転嫁 サステナブルなストーリーがお客さんに伝わることで価格に転嫁されている。
地域の雇用を生み出す 新たなチャレンジをして通年で安定した雇用を生み出し、地域全体を盛り上げる。それによって周りも支えてくれる。

岩佐:みんなから愛される理想的な農園の姿を見た気がしました。ありがとうございました。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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