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大人気菜園スクールをリポート 自然菜園見学ツアーに行ってきた【DIY的半農生活Vol.25】

和田 義弥

ライター:

連載企画:DIY的半農生活

大人気菜園スクールをリポート 自然菜園見学ツアーに行ってきた【DIY的半農生活Vol.25】

茨城県筑波山のふもとでセルフビルドした住まいに暮らし、約3.5反(35アール)の田畑でコメや野菜を栽培するフリーライターの和田義弥(わだ・よしひろ)が、実践と経験をもとに教える自給自足的暮らしのノウハウ。今回は、長野県で自然菜園スクールを主宰する竹内孝功(たけうち・あつのり)さんの「自然菜園見学ツアー」に参加してきたリポートをお届け。自然農や自然栽培とはちょっと違う、竹内さんのアイデアがいっぱい詰まった自給のための菜園は、とても合理的に考えられていた。これは、まねしてみたくなる!

自然に野菜が育つ自給のための菜園

ずっと前から、竹内孝功さんの自然菜園を見たいと思っていた。竹内さんの著書「これならできる!自然菜園」(農文協)はロングセラーになっている。そもそも自然菜園とは何かといえば、自然な家庭菜園と自給菜園を略した造語で、竹内さんはそれを「野菜の里山のようなもの」と言っている。里山とは、そこにある自然を利用するために人が手を入れ、その影響を受けた生態系が存在する山をいう。人と自然の共生空間である。

ハコベなど“草の森”の中で育つキャベツ

自然菜園の考え方も里山と同じだ。土や草やミミズや虫や微生物など、もともとそこにある自然と野菜が共存関係を築けるように人がちょっと手を貸してやるのだ。竹内さんはそれを“お世話”という。普通の家庭菜園や農業のような人為的な管理ではない。自然菜園には草も生えれば害虫もいる。一方で、害虫を食べたり受粉を手伝ってくれたりする益虫もいる。野菜は相性を考えて、合理的に混植する。野菜の収穫だけを目的にした畑ではないのだ。

苗の生育を邪魔しないように、周りの草は刈ってマルチにしている

そういう里山的な自然利用の考え方が好きだ。自然菜園は、自然農や自然栽培や有機栽培というように誰かが決めた枠の中にカテゴライズされるものではない。「自然に野菜が育つ自給菜園」と竹内さんは言っている。そこには地域風土を生かして、野菜が自然に育つアイデアがいっぱい詰まっているのだ。では、実際それはどういうものなのか。竹内さんの本を読んではいたが、なかなか実感が持てなかった。それでこの春、竹内さんの自然菜園を見に行こうと思ったのだ。

春、初夏、夏、秋の自然菜園を解説付きで回る見学ツアー

竹内さんは、自宅のある長野市を拠点に自然菜園を実践的に学べる自然菜園スクールを主宰している。野菜や稲作、果樹、育苗など、テーマごとに8つのコースがあるが、私はまず竹内さんの菜園がどういうものか見たかったので、4月に開催された「自然菜園見学ツアー」に申し込んだ。
実際に竹内さんが管理している自給用の田畑や果樹園、採種場、ニワトリ小屋などを解説付きで案内してもらう見学ツアーである。春、初夏、夏、秋の年4回コースで4万4000円、単発だと1万2000円(私はこれ)。

当日の長野市の天気はちょっと肌寒い薄曇り。ツアーは14時~16時15分。約2時間かけて自然菜園を見学し、残りの1時間で質疑応答とシェアリング(感想会)を行うプログラムだ。

メモをとりながら竹内さんの説明を熱心に聞く参加者

ツアー開始の1時間前に現場に到着。車で来ると、長野自動車道の更埴(こうしょく)インターチェンジから約20分だ。
「あ、和田さん。ようこそ」と、本や雑誌でよく見る親しみのある笑顔で竹内さんが出迎えてくれた。会うのは初めてだが、お互い同じ媒体に記事を書いていることも多いので見知っている。初めてという感じがしない。

この日の参加者は18人。まずは土蔵をリフォームしたセミナーハウスで、ガイダンスとみんなの自己紹介。話を聞いていると、すでに畑や家庭菜園をやっている人がほとんどで、参加者の約半分は経験5年以上。田んぼをやっている人も4人いた。なかには「まだ、野菜作りはしたことがないけれど、自然菜園に興味があって」というまったくの初心者もいるが、「草と野菜を共生させる方法をもっとよく知りたくて」とか、「田んぼを畑にするにはどうしたらいいか」など、具体的な課題を持って参加している人が多かった。

土蔵を改装したセミナーハウスでガイダンスと自己紹介

生態系を育む自然の“草の森”の中で野菜が育つ

全員の自己紹介が終わったところで、早速、自然菜園へ。

竹内さんの菜園は自宅のすぐ目の前に広がっている。広さは約40アール。野菜を育てる自然菜園、小麦・大豆エリア、水田、果樹園、育苗ハウス、キッチンガーデンなど、栽培する作物や利用目的ごとにレイアウトされており、一見して美しい。

自然菜園の畝は、オドリコソウやオオイヌノフグリなど、この時期に育つ春の草に覆われているものの、伸び放題に放任されているのではなく、野菜がよく育つように必要なところは刈り込まれて草丈が抑えられ、きちんと管理されているのが見てわかる。自然菜園を野菜の里山というのなら、この畝は生態系を育む雑木林のような自然の草の森なのである。

小麦・大豆エリア。奥にあるのは育苗ハウス

その草の中にキャベツやレタスやカラシナなど、さまざまな野菜が混植されているのだが、それぞれその場所に植えられている理由がある。作物同士の相性であったり、病害虫を忌避する効果が期待できたり、連作ができたり、できなかったり。野菜の性質を考え、畑の自然をうまく生かした作付けになっているのだ。

夏野菜の作付けを控えてきれいに耕された畝にはネギが植わっている。これは、ネギの根に共生する微生物がそこに生態系のオアシスを作るためだと竹内さんは説明する。

「ここはもともと田んぼだった土地で、耕してしまうとそこにいた微生物が、生態系が豊かな通路の緑肥作物のほうに逃げてしまうんです。でも耕したあとにネギを植えておくと、根に共生菌が付きます。なかでも菌根菌という菌はリン酸をはじめとした土壌中の養分や水分を植物に供給する働きがあり、根の周りには微生物によるコロニーができるんです」

ネギの根の共生菌の中には、植物の病害を抑える抗生物質を出す拮抗(きっこう)菌と呼ばれる菌も生息する。つまり、ネギを植えることで土壌が砂漠化するのを防ぎ、土壌消毒もできるのである。

耕運して裸地になった畝にはネギを植えて次作に備える

「気温が低い時期は不織布のおふとんをかけてやります」「トウモロコシに実が付くとハクビシンに回覧板が回るんです」「キャベツをモンシロチョウの託児所にしてはいけません」など、竹内さん独特の身近なものに例えた言い回しが、野菜作りの知識があまりない人にもわかりやすい。

計画的にレイアウトされた菜園や栽培法には、竹内さんが試行錯誤を繰り返して生まれたアイデアが盛り込まれている。私も20年近く野菜作りをしているが、「なるほどなぁ」とたびたびうなずいてしまう。その中でも育苗用のハウスの天井を利用したブドウの栽培と田んぼのフナ除草は、早速まねしてみようと思う。

育苗ハウスの天井を利用したブドウ栽培。ハウスの空間をうまく生かし、ブドウの雨よけにもなる

野菜作りを始めるなら、一番の学びは畑を見ること

そんなふうに自然菜園を案内してもらいながら聞く話には、竹内さんが自然菜園をやるようになったきっかけや、12年前にこの土地に移住してきてから田んぼだった土地をどうやって畑にしてきたかといった、竹内さん自身のストーリーも盛り込まれる。これから畑を始める人や移住を考えている人の参考になるのはもちろん、単にノウハウを教えるのではなく、ひとつひとつの物事にエピソードがあるので面白い。

40アールの自然菜園を一回りしてたっぷり2時間。それでも竹内さんはまだまだ話し足りない様子。それくらい畑にストーリーがあり、伝えたいアイデアが詰まっている。
最後は、セミナーハウスでみんなの感想をシェアリング。「雑草が生き生きとしている」「次回、初夏の菜園がどんなふうになっているのかとても楽しみ」「本を読んで理解するのとは違い、実際に見るとやっぱりわかりやすい。スーッと頭に入ってきます」「早速、自分の畑で実践してみたい!」とみなさん充実した時間を過ごしたようである。

わからないことがあれば、その場で質問。竹内さんが丁寧に答えてくれる。内容がギュッと詰まった2時間のツアーだった

参加者のほとんどは年4回のコースで参加しているが、たしかに竹内さんの話を聞けば、季節ごとに移り替わる菜園を見たくなる。見学のテーマや作業は時期によって異なり、4月開催の今回は「持続可能な菜園プラン」がテーマで、越冬野菜や育苗や田植えの準備などについて詳しい解説があった。6月開催の初夏の自然菜園では、「季節に合わせた草マルチ」がテーマ。最も菜園がにぎにぎしい季節であり、草マルチは自然菜園の真骨頂だ。

雑草の中からソラマメが顔を出している。野菜の周りに春の草があることで、さまざまな効果が生まれる

「ぼくは、自然農や有機栽培をやっているたくさんの師匠に野菜作りを教わったけれど、いちばんの学びはそんな師匠たちの畑を見ることでした。そこで、『なぜ?』という疑問がわき、理由や解決策を探すようになる。見て、感じて、学べることってたくさんあると思うんです。今回のテーマは持続可能な自給菜園ですが、この土地がずっと先の未来でも自然に野菜が育つような畑になったらうれしい」と、竹内さんは自然菜園に込めた思いを語って、今回のツアーを締めた。

この日、竹内さんの自然菜園を見ることができてよかった。明日、早速、畑の通路に緑肥の種をまき、ハウスにブドウの苗を植えよう。

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