裸地は雨や乾燥でダメージを受けやすい
冬の間、見通しのよかった庭が5月になってすっかり新緑の葉に覆われた。茶色かった芝生も柔らかい若草の緑に染まった。畑では、昨年の秋に種をまいたエンドウが収穫のピークを迎えている。そのあとにはソラマメも控えている。端境期とされる4月は、わが家の野菜も乏しかったが、これからはレタスやキャベツやブロッコリーがとれる。タマネギやジャガイモも。トマトやキュウリやトウモロコシは猛暑を見越してちょっと早めに種をまいたので、6月にはとれ始める予定だ。今年は、早くも4月に夏日があった。気温が上がり、適度に雨があり、日照が長くなる5~6月は作物もすくすくと育つ。それからやっかいな畑の雑草も。

春になるとタンポポやホトケノザやヘビイチゴなどが畑を覆うように生える。5月になると雑草はさらに勢いを増す
なるべくなら、畑に雑草を生やしたくない。だから、毎朝10分の除草をルーティンとしている。雑草が生える前に畝や通路の土を三角ホーや草削りでカリカリと削るのだ。これをこまめに繰り返すことで、雑草の発生を抑えるのである。

雑草が生える前に定期的に土の表面を削ることで、雑草の発生を抑える
ただし、雑草を抑えるのは野菜がある程度大きく育つまで。雑草に生育を邪魔される心配がなくなり、雑草だらけの見苦しい畑にならなければ、雑草は生えていてもかまわない。というか、庭や畑の雑草をすべて抑えることはできないし、自給用の家庭菜園であれば、ある程度雑草が生えていたほうが、さまざまな面で畑に都合がいいのだ。

タマネギが育つ畝の周りはしっかりと雑草を抑えつつ、その周りは管理しながら雑草を生やしておく
これから梅雨に入り、雨が多くなると地表に露出した土は流されやすくなる。また、むき出しの地表が雨にたたかれると、跳ね上がった土と一緒に土壌中の糸状菌などが作物の茎や葉に付着し、それが原因で病害が発生する恐れもある。梅雨が明けると、今では当たり前になった猛暑だ。数日雨が降らないと畑はカラカラに乾燥し、強い風が吹けば乾いた土が飛散する。裸地にせず、ある程度雑草を生やしておくことで、天候によって畑が受けるダメージを抑えられるのだ。

裸地は乾燥しやすく、雨が降ると簡単に土が流れてしまう
有機物マルチで畝や通路を覆う
雑草を抑える方法は、鎌などの道具を使った除草だけに限らない。マルチングも効果的だ。といっても最終的にゴミになってしまうポリエチレンなどの黒いマルチフィルムはできればあまり使いたくない。積極的に利用したいのは有機物だ。わらやもみ殻を畝や通路に厚く敷いてやれば、地表に届く光が遮られ雑草の発芽が抑えられる。

レイズドベッドの周りの通路にもみ殻を敷いてマルチング
収穫が終わった野菜の残渣(ざんさ)や刈り取った雑草も同じようにマルチとして使える。雑草をマルチにする場合、鎌や刈払い機で地際から刈り取ったものを敷く。根ごと抜くと、マルチにしたあとで根付いてしまう恐れがある。また、根を残すことで除草のあとも雨や風で土壌が流出しにくくなり、その周りにはミミズや微生物が生息するようになる。残した根からはしばらくして茎や葉が再生するが、そしたらまた刈り取ってマルチにすればいい。根から抜いても結局はその空いたスペースに新しい雑草が生えてくるのだ。

刈り草をブロッコリーの株元に敷いた雑草マルチ
雑草マルチと地表が接する場所は適度な湿度が保たれ、ミミズをはじめとした小さな土壌生物の格好のすみかになる。そのほとんどは勤勉な分解者だ。刈ったばかりの青草は、おおむね成分の約80%が水分で、分解されるのが非常に速い。梅雨の時期に敷いた雑草は、8月のお盆を過ぎたころには形が崩れ、ほぼ腐植に変わっている。腐植は土壌の団粒化を進め、緩やかに溶け出す養分は作物の追肥としても期待できる。雑草マルチは分解が進むとどんどん薄くなっていくので、そうなる前に刈った雑草を積み重ね、除草が必要なくなる秋まで維持する。そうすることで新たに生える雑草が抑えられ、肥沃(ひよく)な土ができていくのだ。
リビングマルチも雑草の抑制に効果的だ。緑肥作物など収穫を目的としない植物を育てて地表を覆う手法で、雑草が生えるスペースをなくし、土壌の流出も防げる。春から夏の時期であれば畝間の通路にコムギやオオムギなど、ムギ類の緑肥作物を栽培するのが効果的だ。収穫を目的とした場合、ムギ類は秋に種をまくが、春から初夏にまくと素早く成長して雑草が生える前に地表が覆われる。草丈は20~30センチほどしか伸びず、7~8月になると出穂する前に立ち枯れる。草丈が伸びたら刈り取って雑草マルチと同じように作物の株元に敷いてもいい。刈り取ったあとからは新しい葉がすぐ伸びてくる。夏になって枯れたら土にすき込んでしまえば土壌改良にも役立つ。

緑肥のヘアリーベッチによるリビングマルチ。初夏に旺盛に育ち、夏になると枯れる。枯れ草もそのままマルチになる
刈り取った雑草の処理は、コンポスト箱や畑の隅に積み上げて堆肥(たいひ)化させるのが最も無駄が出ない方法だ。なぜなら、その堆肥を畑に戻せば養分が循環するからだ。分解を効率よく進めたいときは、5~10センチほど雑草を積み上げたら表面がうっすら覆われるくらい米ぬかをふりかけてやり、その上にまた雑草を積み重ねる。それを繰り返して雑草と米ぬかが層になった小山を作る。米ぬかには窒素やリン酸のほか、糖分やタンパク質、ミネラルなど、微生物のエサとなる成分が多く含まれており発酵を促す効果がある。

コンポスト箱に雑草を入れて、半年から1年ほどかけて分解させると極上の堆肥になる
さらに1カ月に1回程度積み上げた雑草の天地をひっくり返すように切り返して空気を供給してやれば好気性の微生物が活発に働き、分解がスムーズに進む。手間をかけたくない人は切り返しなどの面倒な作業はしなくてもOK。ただ雑草を積み上げておくだけでも1年後には、ほぼ分解されて堆肥化している。表面は草の形が残っていても内部は堆肥化が進んでいるので、それを掘り出して使えばよい。
畑に生える雑草はいろいろあるが、堆肥化を考えた場合、葉が柔らかく窒素分が多い雑草と葉が硬く繊維質を多く含む雑草に分けられる。一般にシロツメクサやカラスノエンドウなどのマメ科雑草やツユクサ、アカザ、ハコベなどは前者だ。葉が平たく広がっている広葉雑草も全般的に窒素分を多く含むとされている。葉が柔らかいので分解もしやすい。一方、カヤツリグサや葉が硬いイネ科雑草全般は後者で繊維分を多く含む。二つのタイプの雑草が適度に混じることで、成分バランスの優れた堆肥ができる。

春の畑でよく見られる雑草のひとつ、カラスノエンドウ
雑草エリアを残し、畑に生物多様性を育む
雑草はきれいに刈り取ってしまえばいいというものでもない。畑の美観を損なわず、作物の生育を邪魔しなければ、労力をかけてわざわざ除草する必要はないのだ。むしろ、可能な範囲で雑草は残しておいた方がいい。自然な環境の中には、多様な生態系が育まれる。そこには作物に害を与える虫も隠れているだろうが、一方でその天敵となる虫も来るようになる。野菜だけの畑には特定の害虫が繁殖しやすくなるが、雑草の森があることで畑に多様性が育まれるのだ。

畑に適度な雑草があることで、そこに生き物が育つ。ソラマメに発生したアブラムシに天敵であるナナホシテントウがやってきた
庭や畑のある家に暮らしていれば、雑草との闘いはどうしたって避けられない。家庭菜園を始めた頃は、菜園が雑草に覆われて仕方なく刈り始めるということの繰り返しで、作物はうまく育たないし、除草はしんどい作業でしかなかった。でも、今は違う。省力除草で生える前に雑草を断ち、雑草を管理・利用するワザも覚えた。雑草だらけの庭や畑はいただけないが、完璧に雑草を抑える必要はないのだ。気張らず除草し、うまく利用する。結局それが野菜にも畑にもいいことなのだ。
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