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加工品販売のフィールドに選んだのはTikTok。ブレイクのきっかけとなったライブ配信

鈴木 雄人

ライター:

連載企画:農垢の素顔

加工品販売のフィールドに選んだのはTikTok。ブレイクのきっかけとなったライブ配信

鮮やかな緑色の髪がトレードマーク。動画共有アプリのTikTokで「ネギニキ」として親しまれ、フォロワーは3.6万人以上を数える茨城県の小ネギ農家、栗原玄樹(くりはら・げんき)さんは、自ら開発した加工品「ネギキムチ」を武器に、TikTokという異色の販路を駆使して年間1500万円以上を売り上げる。しかし、その成功は決して偶然ではない。販売のフィールドにTikTokを選んだ理由や、加工品製造にいたる道のりを聞いた。

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加工に不向きな小ネギながら、確かにあった勝算

茨城県常陸太田市で小ネギを栽培している栗原農園の栗原さん。実は、TikTokクリエイターとしての顔も持っており、クスッと笑ってしまうような面白動画の他、小ネギやネギキムチを使った料理動画、キムチの製造工程などを発信しています。
フォロワーからは親しみを込めて「ネギニキ」と呼ばれ、緑で統一した髪や眼鏡、衣装が特徴的。フォロワーは3.6万人を超える、農業界きってのインフルエンサーです。

栗原さんのTikTokアカウント

栗原さんがTikTokを始めるきっかけとなったのが、2020年の新型コロナウイルス感染拡大。当時、緊急事態宣言もあり、飲食店への出荷がほぼストップ。その分、巣ごもり需要が増し、自社便を利用した量販店への販売を増やしたことで売上確保につながりました。しかし、栗原さんは「現状維持だけでは、この先どうなるか分からない」という危機感を覚えたと言います。この状況を打開するため、以前から興味を持っていた加工品の開発に挑戦することを決意します。

「小ネギは他の野菜や果物に比べて、加工品として不向きなんです。冷凍やドレッシングも試しましたが、生の風味や食感を生かし切れない。思慮を巡らせていた時、ふと『キムチなら、ご飯のおかずにもなるし、生の良さも生かせるのでは?』と閃きました。そんな時、知り合いの料理人が持ってきてくれた手作りキムチが抜群においしくて、確信に変わりましたね」

小ネギをキムチに加工することには勝算がありました。1つ目の理由は、賞味期限が生の状態の2〜3日から1〜2週間へと大幅に延びるため、販路拡大が可能になること。2つ目が、「小ネギ農家だからこそ作れる、化学調味料無添加のキムチ」という、他にはない独自の価値を打ち出せることだ。

こうした製品自体の強みに加え、TikTok上では既に、40万人以上のフォロワーを抱えるキムチ関連のアカウントがあり、注目を集めるコンテンツがいくつもあったそうです。これらを複合的に考えた結果、「ネギキムチなら売れる加工品になる」と栗原さんの決意は固まりました。

ネギキムチに使われる栗原農園の小ネギ

ネギキムチを年間1000万円以上販売するまでの道のり

栗原農園の新事業としてネギキムチ開発を決意したのは2021年4月。栗原さんは理想の味を求め、通販で国内外のキムチや調味料を取り寄せては、ひたすら食べ比べを繰り返しました。

「なかなか、『自分がおいしい、食べたい』と思うような理想の味にたどり着けなくて、とにかく悩みました。取引先の飲食店にお願いし、何度も味見とフィードバックをもらいながら試行錯誤を重ね、納得のいく味を完成させるまでには約1年もの歳月が掛かりました」

開発開始から1年後の2022年4月、「1年間やって結果が出なければ撤退する」という強い覚悟を持って、ついにネギキムチの販売を開始しました。

栗原農園のネギキムチ

初めは、週一回のペースでネギキムチを作る体制を作ろうと、既存の取引がある飲食店や量販店への販売からスタート。一通りの既存のお客さんに営業をしきった後、2022年9月からは、満を持してTikTokでの情報発信と販売活動を本格化させます。開発段階からTikTokを活用することは当初から計画の一部でした。

売れなければ辞めると、退路を絶つ思いで栗原さんは自身の髪をトレードマークとなる緑色に。本業である農業経営の傍ら、睡眠時間を削ってSNSマーケティングを勉強し、動画の撮影から編集まで、全て一人でこなしたのです。

TikTokでキムチの製造工程や小ネギを使った料理動画を投稿していた当初は、再生数はある程度稼いだものの売上にはつながりませんでした。「動画がバズってもそこからオンラインショップに行って、更に購入となるのは難しい。動画を上げただけでは売上にはつながらない」という現実を痛感したそうです。

そんな中、「ネギニキ」としての人気に火を付けたのがライブ配信でした。仕事終わりに週3~4回、調理をしたり、出来上がった小ネギ料理やネギキムチを食べたりしながら視聴者とリアルタイムで交流するスタイルが好評を博します。その甲斐もあり、動画投稿だけでは伸び悩んでいた売上が、ライブ配信を通じて直接、購入を促せたことで少しずつ増え始めました。

さらに、アニメ飯(アニメに出てくる料理の再現)といった企画を取り入れたり、台本作りや動画編集にもこだわるようになると、動画自体の再生数も次第に増加。動画によって認知を広げたことでライブ配信を見に来る人が増え、その分販売数を伸ばし、月20万円を売るまでになりました。

栗原さんのTikTokへの投稿

地道な発信を続ける中で、大きな転機が訪れます。元々参考にしていた、フォロワー40万人超を誇る新潟県佐渡市の人気キムチ店「キムチの家」のアカウントから、ある日ライブ配信中にコメントが届きました。これがきっかけとなり、2024年4月には一緒に動画を撮るなどコラボレーションが実現し、更に多くの注目を集めることに成功。それだけでなく、「キムチの家」母直伝のコラボキムチを販売することとなり、大きく販売数を伸ばすことにつながりました。

更に、栗原さんはTikTokでの活動に加え、オフラインの商談会への参加や、SNSのDM(ダイレクトメッセージ)機能を活用した飲食店への直接アプローチなど、オンライン・オフラインを問わず積極的に販路を開拓。消費者向け(BtoC)だけでなく、企業向け(BtoB)の取引も増やしていきました。

こうした多角的な努力が実を結び、オンラインの他、飲食店や量販店でもネギキムチが取り扱われるようになり、販売額は月商100万円を超えるほどに成長したのです。

「話だけを聞くと、簡単なことだったかのように聞こえるかもしれません。ただ、正直言うと、キムチの家さんと出会って無かったらネギキムチから撤退していたと思います。そのぐらい、キムチの家さんと出会って売上が伸びていきました。逆に言ったら、TikTokで商品を売ることがどれほど難しいのかを痛感しました」と栗原さんは振り返ります。

左がキムチの家コラボネギキムチで右が栗原農園オリジナルネギキムチ(栗原農園のホームページより)

TikTok×農業の今後の展望

現在、ネギキムチの年間売上が1500万円。栗原さんが次に目指すのは、事業開始当初からの目標であった「年間売上3000万円」の達成と言います。この目標達成の鍵として、栗原さんが特に重視しているのが、オンラインとオフラインの販売チャネルを効果的に連携させる戦略です。

「現在、TikTokを中心としたオンラインでの認知度向上や販売は順調に推移しており、同時に量販店や飲食店といった実店舗での取り扱いも徐々に増えつつあります。しかし、SNSで商品を知ったとしても、その情報を元にオンラインで購入まで進むお客さまは、実際にはごく一部に過ぎません。だからこそ、今後の展開として、SNSでの情報発信を通じて『ネギニキ』や『ネギキムチ』に興味を持った消費者が、全国展開するスーパーマーケットなどで商品を購入できる環境を整備することを目指しています」

つまり、オンラインで広く「認知」を獲得し、その関心をオフラインでの「購入のしやすさ」につなげることで、両チャネルの相乗効果を生み出し、売上を一層拡大させようという考えです。実際に、全国展開をしているある高価格帯スーパーと話を進めている段階です。

栗原さんは、「オンラインでの販売には限界があるため、更に成長させていくためには、最終的にはオフラインでの展開が極めて重要になる」と考えています。強力な武器であるSNSでの発信力を最大限に活用しながらも、着実に実店舗での販売網を広げていくこと。これが、栗原農園が描く「TikTok×農業」の未来像ではないでしょうか。

取材協力

栗原農園のホームページ

ネギニキのTikTokアカウント

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