他にも、消費者にリアルに現場に来てもらい、農家や地域と交流してもらう機会を作ってきました。
例えば、各地域の農作業の労働力不足を補い合う「産地間連携等推進事業」。
農繁期が異なる北海道八雲町、京都府宮津市、鹿児島県沖永良部(おきのえらぶ)島をつなぎ、各地の農繁期に応じて人が移動して一定期間以上現地に滞在し、農業に従事してもらう事業を各地域と連帯して実施しました。農業現場は人手不足、とどこの地域でも耳にしますが、年中人手を必要としているわけではなく、植え付けや収穫など一定の期間に人手が必要となります。夏は北海道、秋は京都、冬は沖永良部島と、各地の農繁忙期を掛け合わせることで一年通して産地を渡り歩くことができるネットワーク作りを行っています。最近は農繁期ではない地域の農家が他の農繁期の地域に援農や視察に行くという流れも出てきています。

東京の就農イベントでこれから農業を志す人に向けて講話もしました
また、講演会の依頼も増え、農業団体、大学、高校、その他民間企業の依頼を受けたりもしています。最近はラジオやテレビの出演依頼も多く、「農業の現場のリアルや、コバマツさんが見てきた農村について教えてほしい」という問い合わせが多いです。
こういった仕事も産地を渡り歩き、各地の農家の声に耳を傾け続けてきたからこそできることだなと、振り返ると実感します。ありがたいことに、仕事として各地を移動できる機会も増えてきました。
実際に現地に長期間滞在し、地域の人と働き、暮らすこと。そのことで、「地域の課題やビジョンをリアルに感じられる。その体験を文字や企画として個人や企業につなぐ。橋渡し役、農業現場を生活者に届ける存在になれる」。これは活動を続けてきた結果ですが、農作業で各地を巡ることは、地域のリアルや農家の本音を知る機会であると思い、日々現場と向き合っています。
各地域を巡る暮らしについては、自分で地域にあるシェアハウスやゲストハウスに滞在することがほとんどです。地域によっては「おかえり!」と迎えてくれるところや、「今年は来ないの?」と連絡をくれるところもあります。その地域にいなくても、各地を巡りながら、「あの地域では◯◯さんこんなことしたいって言ってたな」とか、「どうやったら◯◯さんがやりたいって言っていたことできるかな?」と、常に実現できる方法や機会を探っています。
なぜフリーランス農家になったか

会社員時代は地域活性化の仕事をしていて、イベントの企画運営をしていました
もともとは農業に関心がなく、会社員時代、農業は自分とは無縁の世界だと思っていました。新卒で、「地域に貢献する仕事がしたい」と思い、地元の新聞社に入り、そこでの仕事を通して出会った北海道・十勝の若手農家たちが、そのイメージを一変させました。私が出会った農家は、夢や信念を持ち、農業を通じて社会を良くしたいと語る人ばかりでした。その情熱に触れ、「農業ってこんなに夢を持てて、面白いんだ!」と衝撃を受けました。
自分もその輪の中に入りたい、農業をもっと知りたい!と思い、農業の世界に飛び込みました。
私が農業デビューをしたのは2016年。北海道内の農家で2年間住み込みで働きました。初めての農作業は大変だったけどたくさんの気づきや感動がありました。
まず、食べ物は作れるという当たり前のことや、自然の中で働く気持ちよさ。そして日々、畑の中で過ごしていると、農産物以外にも「この農村の景観や観光、雇用、経済、いろんなものを育み育てているんだ」ということに気づいていき、ますます、ずっとこの仕事に携わっていきたい!と思うようになっていきました。

農業デビューをした富良野のメロン農家の直売所
最初は新規就農を目指し、道内を中心にいろいろな新規就農者や農業従事者のもとを訪ねて新規就農についての情報収集を始めました。
希望を持って「私も農家になって、ずっと農業と関わっていくぞ!」と意気込み、北海道内を中心にさまざまな農家と出会っていきました。
でも、いろいろな農家と出会い、話を聞いていくうちに、「新規就農するには莫大な資金がかかること」「作りたい作物ではなく、収益が挙がる作物を作らなければいけないこと」、そして、知れば知るほど「おいしいものをたくさん作っているプロの人はたくさんいるということ」がわかってきました。そんな農業の現実を知っていくうちに、「すでにこれだけ多くプロの人がいる中で、資金、土地、機械を集めたり、ゼロから技術と知識をつけていったりして、私は農家として勝ち目があるのか?」と考え始めました。
それよりも、いろいろと話を聞いていく中で、「販路の開拓や情報発信をしたくても自分たちではなかなかできない」「農繁期だけ人手が足りない」「もっと自分たちの農場にも人が来てほしい」など既存農家の課題があることに気づいたのです。私自身も、いろいろな畑を巡っていく中で農業に関する情報がまだまだ得にくい現状や就農に対するハードルがあることも感じました。
そんな現状を目の当たりにし、「就農以外でも農業に貢献できる方法がもっとあるのでは?」「自分の特徴を生かして農業と関わり続けられる方法があるのでは?」そんなことを考え続けた結果、農産物を作るプロとしてではなく、新しい農業との関わり方を実践することで、農業に興味を持つ人を増やす取り組みをしていくことや、自分の強みである情報発信や企画力などを活用しながら農業と関われる方法を考えて、“フリーランス農家”というスタイルを選びました。

北海道で実施した農泊ツアー。ツアーを通して地域に移住する人や農業に興味を持つ人も生まれました
活動を続けていくうちに、農業をやりたい人からは「農家を紹介してほしい」「どうやって農家とつながっているんですか?」「マリさんが農家に行く機会があったら一緒についていきたい」などの声が。また農家からは「もっと自分たちの農場を消費者に知ってもらう取り組みをしたい」「もっと自分たち農家のファンを増やしたい」などの声もあり、双方の声を聞いてつなげたり、いろいろと企画して実際に双方の思いを形にしたりする機会が増えてきました。ひとつの地域にとどまらず全国を巡ることで、地域間のつながりをつくり出す“橋渡し”の役割も担えることも、フリーランス農家の強みだと感じています。
現場での労働力となることを中心に始めた働き方が、農家と社会をつなぐ“翻訳者”のような役割も果たしているのではと実感しています。農家の思いや技術、地域の風土をわかりやすい言葉や体験に変換し、都市部の人々や次世代に伝える存在として活動の幅が求められてきていると感じます。
今後の展望について
これまで全国を旅しながら農業に関わってきましたが、今後は、今まで出会ってきた生産者と消費者がつながれる仕組みを作っていきたいと思っています。具体的には、今まで巡ってきた地域に滞在拠点を作る、オンラインを通して農産物が購入できるようにするなど、より深く地域と関わる形にシフトしていければという考えです。そんなふうに、今まで自分が築いてきた農家とのネットワークを生かし、「農に関わりたい人が全国の農家と出会える仕組み」も構築していきたいと思っています。
農業を単なる産業としてではなく、地域に新たな人を呼び込むためのコンテンツとしても再定義し、農業や地域にもっと自由で多様な関わり方をしてコミュニケーションを生み出すことがこれからの私の目標です!