【プロフィール】
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宇野康之さん 担当品目は大玉スイカ・ズッキーニ・ニンジン。大玉スイカの品種「羅皇」をはじめ、「羅皇Z」「羅皇AR」や「金色羅皇」、ナント種苗の看板商品となる「羅皇ザ・スウィート」を手がける。生産者の悩み解決とともに、スイカの食味の追求に心血を注ぐ。 |
入社7年目に大玉スイカ「羅皇」で農林水産大臣賞を受賞。ナント種苗の大玉スイカブリーダー
──糖度20度を超える甘さを持つ「金色羅皇」をはじめ、数々の品種開発に携わっている宇野さんがブリーダーになった経緯を聞かせてください。
中学生の頃から農業にまつわる仕事に就きたいと、漠然と思っていました。その後、作物の品種改良という仕事に興味を持ち近畿大学の農学部に進学したんです。食への興味が強かったこともあり「やるなら農作物のおいしさを追求したい」という欲が芽生え、種苗会社でブリーダーになることを意識し始めました。その中でも手がけたいと考えていたのは、大玉スイカでした。スイカという植物に興味があったことと、食味を追求しやすい品目として目をつけていたんです。そして就職活動を経てナント種苗に入社し、念願の大玉スイカのブリーディングを担当することになりました。
また、運良く入社7年目にして、私が育種した大玉スイカ「羅皇(らおう)」が日本種苗協会主催の第65回全日本野菜品種審査会で1等特別賞を受賞しました。その成績が特に優れていたことから、翌年には農林水産大臣賞もいただきました。
さらに第67回全日本野菜品種審査会では「羅皇Z」が2等、「羅皇AR」が1等特別賞を受賞し、立て続けに良い結果を残すことができました。
──目覚ましい活躍ぶりです。宇野さんのポテンシャルを見抜いたナント種苗の洞察力の高さがうかがえます。ブリーダーを務める中、自分が狙っている品種が出てこない期間もあると思いますが、その時のモチベーションはどうやって維持しているのでしょうか。
モチベーションの維持やそれに対する努力について、実はあまり意識したことないんですよね。おそらくスイカのブリーディングという、やりたかったことをやれているからだと思います。自分が望む品種が生まれなかった年であっても、そこから新たなヒントを得られ、次につながることも多いわけで。
またその年に育種したスイカを切って確かめる時は、何物にも代えがたいワクワク感があるんです。ブリーダーをやっていて、もっとも楽しみな瞬間といっても過言ではありません。
仮にどれだけ品種を作っても生産現場でまったく相手にされなければ、モチベーションの維持に四苦八苦するのかもしれませんが(笑)。
──まさに天職の一言につきますね。宇野さんの業務内容についても教えてください。
私も農家さんと同じように、やることが時期によって変わります。4月であればスイカの交配やツル引き、ズッキーニやニンジンの管理など、畑やハウスでの現場作業が中心になります。

品種開発・改良を手がけるブリーダーは、研究室で実験している研究者のようなイメージを持たれることもありますが、そんなことはなく、畑仕事が大半です。
また、年間40〜50日ほど産地への出張があります。生産者に栽培する上での悩みや課題をヒアリングし、持てる限りの情報から解決につながるご提案をお伝えしています。
訪れるタイミングはリアルな現状を確認できるように産地の農繁期が多いです。農家さんが農繁期の時はブリーダーが担当する農場も同様の状況なのですが、それでも当社は生産者のところへ赴き、生産現場の実態を知ることを重視しています。
──人づてには得られない情報が多くありますよね。品種開発の方針は、農家さんの意見や宇野さんが体験したことを基にして決められているのでしょうか。
そうですね。担当する品目の方針に関しては、ほぼ任せてもらっています。社内では年一で品種の方向性を決める検討会があり、そこで今後どのような方針にしていくのかを話し合っています。
一方で、数々の品種を生み出せているのは、ナント種苗が長年築いてきた知見とともに、遊び心を尊重してくれる社風のおかげです。
また月一で勉強会が開かれており、そこでも担当ブリーダーと現場を回る営業の方との間で品目の近況を共有することで、開発と現場の認識のズレを防いでいます。
ナント種苗の代表品種
──発想や着眼点を広げる遊びがあるからこそ「羅皇ザ・スウィート」のような、ナント種苗を代表する品種が生まれているのではないでしょうか。

画期的な品種は偶然生まれることも多いので、ほどよく遊びがあるほうが長い目で見るとメリットになるかもしれません。そして触れていただいた「羅皇ザ・スウィート」は、国内の大玉スイカにおいて、うどんこ病と炭そ病に耐病性を持った初の品種になります。近年の温暖化・猛暑という条件下に加え、雨の影響を受ける露地栽培でも安定した収穫を実現します。
これまで市場に出回っていた品種は、寒い時期から栽培しやすい“前半の作型”をコンセプトにしたものが多く、近年の猛暑に対応できるだけの“後半の作型”にフィットした品種が多くありませんでした。それをかなえたのが羅皇ザ・スウィートです。現に熊本県や千葉県、山形県などの主要産地にも広く扱われており、2025年の作付面積では500ヘクタールにも相当します。結果として会社全体の売り上げにも貢献してくれました。
羅皇ザ・スウィートは、今後も導入される割合が増えることが予想されます。平均糖度は13度と甘く、しっかりとした果肉でブロック加工にも向いていることから、市場でも扱いやすい品種としても評価されています。
──また、ナント種苗と言えば糖度20度を記録したことでも知られる「金色羅皇」も外せません。

「金色羅皇」は、甘さと食味をとことん追求したいがために開発した品種になります。自分でいうのも厚かましいのですが、そのおいしさは別次元なんです。果肉が黄色系のスイカはさっぱりとした食味の傾向にあるんですが、金色羅皇はガツンとした甘みが口の中いっぱいに押し寄せます。メロンやナシなど他の果物に例えられることもあります(笑)。
ただ、栽培が難しく、作り手を選ぶ品種であることから、伸び悩んでいるのも事実です。例えば、高温期を迎えると「パンッパンッ」と、玉が勝手に割れる現象が報告されています。そのため、それらの欠点を克服し、栽培性を向上させた2代目となる金色羅皇の育種も推し進めています。
──2代目の登場に期待が高まりますね。金色羅皇は熊本県のJA菊池すいか部会にて、産地ブランド化の取り組みにも採用されている品種です。2024年には金色羅皇の血を引く、種なし(シードレス)スイカ「3X(サンエックス)ゴールデンジャック」が発表されましたよね。

3Xゴールデンジャックは種なしスイカの中でも、作りやすさとおいしさを両立した品種です。種なしスイカは3倍体(※)といわれる技術を用いて開発されるのですが、その特性上、栽培時に実をつけるのが難しいなど、多くのデメリットがあります。3Xゴールデンジャックは3倍体でありながらも草勢はおだやかで着果率が高く、空洞果に耐性を持つ革新的な品種となっています。おっしゃるように金色羅皇の血を引くので、味も自信を持っておすすめできます。
※通常のスイカが持つ染色体を2セットから3セットにすることで、種をできにくくする技術のこと。
ブリーダーの素質があるのは、前向きでポジティブな人
──3Xゴールデンジャックは種なしスイカの栽培に初めて挑戦したいと考えている人でも手をつけやすい品種ですね。これから市場に出回ることが期待されます。ブリーダーが天職だと思われる宇野さんにも、苦労を感じる場面はあるのでしょうか。
今40歳なのですが、体に気をつけなければと思うことが増えています(笑)。ブリーダーは体を動かす業務が多いので、体力があるに越したことはありません。ブリーダーの方には共感してもらえると思うのですが、「調査疲れ」というのもあります。調査とは育種している品種の生育状況や味などを、事細かにチェックする作業です。たとえば私が担当するスイカであれば、収穫した果実を切って並べ、味見しながらさまざまな調査項目を見ていくのですが、ときには100玉ほどのスイカを前にすることも。さすがにしんどいと感じる瞬間もあります。そのような心持ちになったときは「調査が目的ではなく品種を選ぶことが目的である」という、育種の原点を思い返すようにしています。
単純なデータ取りになるのではなく、良い品種が出てこないかという宝探し感覚になると、またおもしろさが湧いてくるんです。
──体力があることも立派な一つの強みになりますね。「調査疲れ」というブリーダーあるあるは初耳でした。ナント種苗をはじめ、宇野さん自身のこれからの目標についても聞かせてください。
当社としてはスイカの市場を広げることと、それを推し進められる品種を誕生させることです。
スイカで言えば、見た目がシマ模様で果肉が赤く、種があるなどの認識がまだまだ一般的です。そういった固定観念を当社の金色羅皇や3Xゴールデンジャックなどの品種を通して塗り替え、スイカも品種を選べる楽しみのある品目へと成長させていけたらと思います。
実は新たに「甘酸っぱいスイカ」という、これまでになかった品種も開発しました。うまく作れば糖度15度も可能である強い甘みと、さわやかな酸味とのバランスが特徴です。広告的要素も兼ねて、新たな市場の可能性を広げる品種を世に出せることも、ナント種苗の強みだと考えます。
そしていつの日かイチゴやブドウ、サツマイモといった品目と同じように、スイカも「この品種が好きだ」「あの特徴がいいね」と、多くの方が自分のお気に入りの品種を手に取るようになる。そんな素晴らしい未来が訪れるように、スイカをもっと盛り上げていきたいと思います。
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