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パンドラの箱が開いた?ベテラン農家のお金の無駄遣いが判明【転生レベル27】

パンドラの箱が開いた?ベテラン農家のお金の無駄遣いが判明【転生レベル27】

異世界のルールを理解し、コツコツと努力を重ねた結果、ついに地域の農家が集まる部会のトップに上り詰めた僕・平松ケン。しかしその実態とは、ベテランと若手との板挟みに遭う中間管理職のような存在だった。部会のリーダーとして、組織の「お金の使い方」が少しずつ見えてくるようになった僕は、これまで気付かなかったベテラン農家たちの多額の無駄使いを発見!明かされてこなかった「リアルなお金の闇」を知ることになるのだった……!

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本記事は筆者の実体験に基づく半分フィクションの物語だ。モデルとなった人々に迷惑をかけないため、文中に登場する人物は全員仮名、エピソードの詳細については多少調整してお届けする。
読者の皆さんには、以上を念頭に読み進めていただければ幸いだ。

前回までのあらすじ

異世界のような農業の世界でルールを学び、地道な努力を重ねてきた僕、平松ケン。気付けば地域の農家が集まる部会で「部会長」という大役を任されるまでになっていた。しかし、地域に根を張るベテランたちの中では、まだまだ“新参者”。その風当たりは今もなお厳しい。

そして、部会長になって半年ほどが過ぎた頃、僕を苦しめる「新たな敵」が目の前に現れた。それは「大量の書類」である。周りにいるのは、パソコン作業をしたことが無いベテラン農家たちばかり。そのため僕は、もうじき行われる総会用の資料を一人で制作する羽目になったのである!

前回の記事はこちら
逆ペーパーレス化で重くのしかかる負担。後輩農家に助け舟を求めるも…【転生レベル26】
逆ペーパーレス化で重くのしかかる負担。後輩農家に助け舟を求めるも…【転生レベル26】
農業への憧れを胸に、新規就農の道を選んだ僕、平松ケン。まるで異世界のような農村地帯での暮らしに悪戦苦闘しながらも、何とか生き残り、ついには地域をまとめる「ラスボス=部会長」にまで上り詰めた。 しかしその実態は、ベテラン…

僕はこの難題をクリアすべく、後輩の新規就農者に助けを求めることに。渋々引き受けてくれた後輩だったが、会社員時代の経験を生かして作ってくれた資料は、まさに完ぺきな仕上がり。総会でも称賛の声が上がったのである! 
こうして僕は、うまく後輩の力を借りることで、何とか難局を乗り越えることに成功したのだった……。

ことの発端は会計担当のベテラン農家への相談

「おう、平松君。今日はええ天気やなぁ」

ある日の昼下がり、畑の縁から聞き慣れた声が飛んできた。顔を上げると、森さんがいつの間にか立っていた。作業の途中にふらりと立ち寄ってくれたらしい。いつもの麦わら帽を片手に、日焼けした顔にうっすらと笑みを浮かべている。

「こんにちは。おかげさまで、何とか順調です!」

鍬の柄に腕を乗せ、僕も自然と笑みを返す。こうして何気なく立ち話ができるようになったのは、ここ最近のこと。部会長に就任してからである。

地域の農家が集う部会で部会長を引き受けてから、もうじき1年になる。新参者の自分に務まるのか不安もあったが、引き受けたからには、やれるだけのことはやろうと腹をくくった時のことを、つい昨日のことのように思い出す。役員のほとんどは、僕よりずっと年上のベテランたちだ。森さんもその一人である。

「森さんの畑のほうはどうですか?」
「まあ、順調かなぁ」

空を見上げるようにそう言った森さんは、ふと僕の顔をのぞき込んだ。

「なんか用事がありそうな顔しとるな?」

ドキッとしつつ、僕は笑いながらうなずいた。

「ええ、実は……研修旅行のことなんです。今年もそろそろ動かないといけないなと思って」

「ああ、あれか。もうそんな時期だったな」

部会では毎年、冬の農閑期に研修旅行を行っている。先進地を見て、学んで、交流する。慰労も兼ねた年に一度の大切な行事だ。その費用は、部会員の会費の積み立てで賄われており、会計を担当している森さんへの相談が必要だった。

「明日の午後、いつもの喫茶店でいいか?」
「はい、それで大丈夫です。ありがとうございます」
「それじゃあ、またな」

森さんは帽子をかぶり直すと、軽く手を挙げて帰っていった。こうして僕は、旅行の打ち合わせのため、地元の喫茶店に足を運ぶことになった。

喫茶店に入ると豪華なケーキが登場?

喫茶店の駐車場に車を停めると、既に見慣れた軽トラックが一台、店の前にちょこんと止まっていた。森さんの車だ。僕は急ぎ足で店の入口へ向かった。

「すみません! お待たせしました!」

ドアを開けて中へ入ると、奥のテーブルから手を振る姿が見えた。森さんだ。すぐさま駆け寄ろうとした僕の足がふと止まる。テーブルには、森さんだけでなく、見慣れた顔が何人も並んでいた。部会の役員たちだった。

「おう、平松君。他の役員たちも呼んでおいたよ!」

どこか得意げな口ぶりの森さんに、僕は思わず小さく頭を下げる。

「あっ、ありがとうございます。すごく助かります」

確かに、研修旅行の件を詰めるなら、その場で顔を合わせた方が早い。そう思ってはみたものの、少しだけ胸の奥に引っ掛かるものがあった。

「店員さん、いつもの、よろしくね!」

森さんが手慣れた様子で声をかけると、注文を聞くまでもなく店員が厨房へ引っ込んでいった。しばらくして運ばれてきたのは、コーヒーにケーキ、季節のフルーツ……。想像していたよりもずいぶん豪華だった。ちょっとした喫茶店のデザートセットとは思えない品数である。

「これ、なんだか豪華ですね……」

僕が思わずそうつぶやくと、森さんは満足そうに笑いながら答えた。

「そうなんだよ。ここのケーキがまたうまくてね。毎回これにしてるんだ」

今日は、簡単な打ち合わせをするだけのつもりだった。行き先をざっくり決める程度で、せいぜい30分もあれば終わる。それなのに、テーブルにはデザートの皿がずらりと並んでいる。

僕も場の流れに合わせ、同じものを頼んだ。確かにケーキはおいしかったし、会話も弾んだ。けれど、内心ではずっとモヤモヤしていた。

これ、全部、部会の運営費で払ってるのか……?

そんな疑念が頭をよぎったのは、会計のときだった。森さんが当然のようにレジへ向かい、部会の運営費から支払いを済ませていた。

「また何かあったら呼んでね!」

そう言いながら散っていく役員たちの背中を見送りながら、僕は何とも言えない居心地の悪さを覚えていた。

再び打ち合わせの誘いがあり……

「そういえば、研修旅行のことだけどさ、あの後どうなった?」

数日後の昼下がり、森さんから電話がかかってきた。その後の進捗を聞きたいらしい。

「それがですね、いま農協の担当の方と詰めてるんですけど、受け入れ先との調整がまだ少し残ってて……」

こちらの説明に、森さんは「うんうん」と相づちを打ちながら聞いてくれていたが、話の最後にこう切り出してきた。

「じゃあ、もう一回、集まって打ち合わせしようか。例の喫茶店で」

どこか軽い調子のその誘いに一瞬迷いが生じたものの、僕は「分かりました」と返事をした。

電話を切ってからおよそ1時間後、僕は喫茶店の扉をくぐった。既に森さんは奥の席に腰を下ろし、コーヒーカップに口をつけていた。そして目の前のテーブルには、山盛りのフルーツと生クリームの載ったケーキが、まるで当然のように置かれていた。


「こんにちは。……もう頼まれてたんですね」
「おう。先に来といたよ。今日はゆっくり話そうよ」

そう言って笑う森さんは、まるで悪びれる気配もない。僕は椅子に腰を下ろしながら、胸の奥に溜まっていた違和感を打ち明けた。

「森さん……。正直に言うと、簡単な打ち合わせなら、電話で済ませても良いと思うんです。最近、こうして役員だけで喫茶店に集まって飲み食いしてばかりなの、ちょっと気になってて……」

言葉にするのは自分でも少し勇気がいった。森さんはどう受け止めるだろうか、と。しかし返ってきたのは、驚くほどあっけらかんとした言葉だった。

「まあまあ、固いこと言うなよ。平松君はまだ若いから知らないかもしれないけど、歴代の役員はみんなこんな感じだったからさ」

森さんはそう言いながら、フォークでケーキをひと口、器用にすくい取った。僕はうなずくことも、すぐに返す言葉も見つけられず、黙ってコーヒーに口をつけた。カップの中の黒い液体は、いつもより少しだけ苦く感じられた。

過去の経費を確認してみると……!

もしかして、僕の知らないところで――。役員たちは、ことあるごとに喫茶店へ集まり、飲食を繰り返していたのだろうか。

そんな疑念が、心の奥でじわじわと広がっていった。最初は「たまたま」だと思いたかった。だけど、違和感は消えなかった。消えるどころか、日に日に濃くなっていった。

ある日の午後、僕は事務所の棚から、部会の経費が記録された過去数年分の資料を引っ張り出した。あらためて目を通してみると、そこには“打ち合わせ”という名目で支出された飲食代の項目が、整然と――いや、やけに堂々と記されていた。

「……こんなに?」

思わずそんな言葉が口に出た。金額は、僕の想像を軽く超えていた。喫茶店での飲食費だけで、年間にこれほど支払われていたとは――。

確かに、顔を突き合わせて話す場が必要なときもある。電話や書類では伝わりにくいことだってあるだろう。でも、それにしたって――この回数、この金額は、あまりに多すぎる。

「これ、全部……会費から出てるんだよな……」

部会のメンバーから、毎年一律で徴収している会費。そのお金の一部が、あのケーキやコーヒーに消えているのかと思うと、言いようのない胸の苦しさを覚えた。

資料のページをめくる手が止まり、僕は椅子にもたれかかった。知らなければ、気付かなければ、それで済んだのかもしれない。けれど今はもう、気付いてしまった。目を背けることはできない。

とはいえ、長く続いてきた慣習に、いきなり意見するのは容易じゃない。誰もが見て見ぬふりをしてきたからこそ、ここまで続いてきたのだろう。資料を閉じ、僕はゆっくりと目を閉じた。暗い天井が、まるで出口の見えないトンネルのように広がっていた。

レベル27の獲得スキル「組織を永続させるため、新参者の力でメスを入れる勇気も必要!」

長年続いてきた慣例のなかには、外から見ると無駄遣いにしか思えない支出が、当たり前のように組み込まれていることがある。とりわけ飲食費はその典型で、「顔を合わせて話すことも大事だ」という建前のもと、特定のメンバーだけが恩恵を受けるような、半ば既得権益化した構造になってしまっているケースも少なくない。

高齢の農家が多く所属する組織では、こうした“昔ながらのやり方”が、いまだ色濃く残っているケースもあるだろう。新規就農者や若手が、その仕組みに異を唱えるのは簡単ではない。けれど、本当に信頼される組織を作るためには、どこかのタイミングで、その流れを見直す勇気が求められる。小さな違和感に気付いたときこそが、変化のきっかけになるかもしれない。透明性のある運営を実現したいのであれば、どこかで声を上げるべきだろう。

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