マイナビ農業TOP > 農業ニュース > コメ作況指数の廃止に潜む論点 生産減を需要増にすり替える統計の見直し

コメ作況指数の廃止に潜む論点 生産減を需要増にすり替える統計の見直し

吉田 忠則

ライター:

コメ作況指数の廃止に潜む論点 生産減を需要増にすり替える統計の見直し

就任後、高米価対策で矢継ぎ早に手を打ってきた小泉進次郎農相が、コメ問題でまた農業界を驚かせた。毎年のコメのでき具合を示す「作況指数」の廃止を決めたのだ。コメの統計が抱えている課題について考えてみたい。

作況指数の廃止を決定

小泉農相が統計を見直す意向を示したのは6月15日。福島市を視察した際、記者団に「コメ価格の高騰の要因も、農水省が発表するほどコメ(の供給)はなかったのではないかという指摘が今でも続いている」と語った。

就任後の経緯を見れば、大胆な手を打ち出すことは予想できた。だが16日に発表したその中身が、コメの代表的な指標である作況指数の廃止にまで踏み込んだものになると予測できた人はほとんどいなかっただろう。

作況指数は全国の田んぼから8000筆をランダムに選んで収量を計測し、平年と比べたでき具合を推計する指標。1956年から公表が続けられており、直近の2年間、2023年と24年はいずれも「101」と平年並みだった。

この数字に関して、農家の間でかねてから「もっと少ないのではないか」との声があがっていた。指数が正しいかどうかはひとまず置く。少なくとも、農家が現場で抱いている「感覚」とは明らかなズレがあったのだ。

作況指数への疑問の声が多かった

例えば、猛暑による高温障害で米粒が白濁し、各地で1等米が大幅に減った2023年。北陸地方のある大規模農家も同様の被害に見舞われ、そのまま検査に回せばほとんどが2等米と判定されかねない状態だった。

稲作農家以外の人のためにここで注釈が必要だろう。コメの等級は粒の見た目をもとに判定する。2等米や3等米はすべての米粒の見た目に問題があるわけではなく、見た目に難のある米粒の割合が多いコメを指す。

そこでこの農家は2等米と判定される原因になりそうな粒を取り除き、1等米の基準を満たす状態にしてから出荷した。当然その分、例年と比べて主食用に出荷できる量は減った。除外したコメはくず米として出荷した。

農家の感覚とズレが生じる一因はここにある。作況指数は1等か2等か3等かを区別せず、「主食用のコメ」としてまとめて集計する。

農家はそうはいかない。この農家は品質を約束したうえで外食店などに売っており、2等米と判定されるような状態で出荷するわけにはいかないのだ。つまり作況指数は平年並みでも、彼にとっては「不作」なのだ。

インバウンド消費と生産減が同じ分類

2023年産では他にも問題が生じた。筆者が取材した北陸地方の農家とは違い、ほとんどの農家は見た目に難のある粒でも取り除いたりせず、検査の結果、2等米や3等米と判定されたコメも主食用として出荷した。

こうしたコメの中で、精米するとき割れたり、極端な場合は粉々に砕けてしまったりする粒が大量に発生した。その量は約11万トンに達したとの推計もある。主食用に回すことのできるコメがそれだけ減ったのだ。

ところが農林水産省の統計を見ると、23年産の生産量は翌24年3月の発表で661万トンで、同年7月の発表でも同じく661万トン。精米の歩留まりの低下はすでに明らかになっていたが、生産量は見直していない。

ここでもうひとつ奇妙なことが起きた。23年7月から24年6月までの主食米の需要量が681万トンから702万トンに上方修正されたのだ。じつはこの数字の中に、精米するとき減ってしまった分が含まれている。

精米

高温障害で精米時にコメが減る

なぜそうなるのかおわかりだろうか。農水省の統計は生産量も需要量も玄米ベースで集計している。そこで精米時に失われた分を、「需要に応えるために必要になる玄米の量が増えた」とカウントしているのだ。

「玄米の状態だけで見れば量は変わっておらず、減ったのは精米後の白米の量。だから玄米ベースの生産量の統計は変える必要がない」。そう言われればその通りだが、違和感を抱く人も少なくないだろう。

3月と7月の発表の需要量の差は21万トンで、その中に含まれているのは精米時に減った分の数字の振り替えだけではない。インバウンド(訪日客)消費による外食需要など、純粋に需要が増えた分も含まれている。

日本国際学園大学の荒幡克己教授は「インバウンド消費のような需要の増加としてではなく、供給の減少とすべきである」と指摘する。2つは性質の異なるデータなのだ。

関連記事
コメ不足対策には余力ある東日本での増産がカギ。専門家が再発防止へ提言
コメ不足対策には余力ある東日本での増産がカギ。専門家が再発防止へ提言
スーパーの棚からいっときコメが消え、消費者の間に動揺が広がった。コメ不足の原因は何か。再発を防ぐためにどう対処すべきなのか。コメ政策に詳しい日本国際学園大学教授の荒幡克己(あらはた・かつみ)さんにインタビューした。

精米後も見通せる統計を

ここまでコメの統計に潜む2つの課題を見てきた。1つは作況指数と農家が感じる収穫量とのズレ。もう1つは、精米時に消失した分を需要増とみなすことで生じかねないデータの混乱だ。この2つには共通の背景がある。

関連キーワード

シェアする

関連記事

あなたへのおすすめ

タイアップ企画