コメ不足に関して農政に見通しの甘さ
荒幡さんは農林省(現農林水産省)に1978年に入省した後、岐阜大学教授などを経て2021年に筑波学院大学(現日本国際学園大学)の教授に就いた。各地を回りコメ政策や稲作の現状と課題について研究している。
極論に傾かず、現場で得た情報を踏まえた現実的な提言が持ち味。コメ不足や米価の上昇が話題になってからは、メディアを通して問題の背景について発信している。著書に「減反廃止」(日本経済新聞出版本部)などがある。
ではインタビューの中身に入ろう。
――コメ不足の原因は何でしょうか。
一言で言うなら、農水省が見通しを若干誤ったということだと思う。ただし予測し難い部分があったのも事実だ。
まず需要面を見ると、ウクライナ戦争の影響で小麦の国際価格が上がり、国内でパンなどが値上がりしてコメに値ごろ感が出た。その結果、コメの消費が増えた。加えてインバウンド(訪日客)でも予想外の需要があった。
一方、供給面を見ると2023年の主食用米の作付面積が前年より減り、生産量が減少した。農水省の統計をもとに推計すると、需要の上振れと供給の減少の合計で21万トンある。その分、民間在庫が予想より減った。
さらに23年の猛暑でコメの品質が落ち、精米する際に砕けるなどして歩留まりが減少した。農水省によると歩留まりが通常より0.8%減ったので、精米段階で5万トン減った計算になる。
――多くのスーパーでコメの棚が空になりました。
民間在庫の水準がこの程度落ちたことは過去にも例がある。そのときは大きな混乱はなかったので、農水省はここまで品薄になるとは予想していなかったと思う。その点に関して言えば、私も4月ごろまではこれほど深刻なことになると見ていなかった。
南海トラフ地震への注意を促す「臨時情報」がちょうど新米が出回り始める前のタイミングで発表されたことで、消費者が心配して買いだめに走った面もある。ただ臨時情報がなくても、品薄感が高まっていたのは事実だ。
市場原理に任せるのはリスク
――今後どう対応すべきでしょう。
大阪府の吉村洋文(よしむら・ひろふみ)知事が8月下旬に政府備蓄米の放出を要請したのは、庶民の声の反映という意味では間違っていない。ただすでに新米が出回り始めていたので、実施してもあまり効果はなかっただろう。