甘長トウガラシとは?
トウガラシの仲間は、辛みの強い「辛み種」と辛みのない「甘み種」に大別されます。甘み種の中でも、特に長細い形状のものを「甘長トウガラシ」と言います。いずれもナス科トウガラシ属の果菜類で、ピーマンも同じ仲間です。
甘長トウガラシにもいくつかの種類があります。古くから栽培されてきたものでは、京の伝統野菜のひとつ「伏見とうがらし」、奈良県が大和伝統野菜に認定する「ひもとうがらし」などがあります。伏見とうがらしは「伏見甘長」とも呼ばれています。
また、京都特産として知られる「万願寺とうがらし」や高知県の「土佐甘とう(品種名:あまとう美人)」など、大型で肉厚の品種も甘長トウガラシの一種です。これらは、比較的新しい品種です。

土佐甘とう(左)と万願寺とうがらし(右)
甘長トウガラシは夏野菜として全国的に栽培され、主に6~8月に出回ります。
甘長トウガラシの歴史
トウガラシは南米が原産地で、15世紀の終わりにコロンブスがヨーロッパへ持ち帰り、世界中に広まりました。
日本への伝来は諸説ありますが、伏見とうがらしの歴史は古く、江戸時代初期に京都の伏見地区で栽培が始まったとされています。また、奈良県のひもとうがらしは、伏見群に属する辛トウガラシとシシトウガラシ(シシトウ)との雑種から選抜されたと推察され、戦前から自家消費用に栽培されてきました。
万願寺とうがらしは、大正末期から昭和初期にかけて、京都府舞鶴市の万願寺地区で誕生しました。京の伝統野菜に準じる品目であり、特に舞鶴・綾部・福知山産のものは「万願寺甘とう」の地域団体商標で出荷され、京のブランド産品認証の品目にもなっています。
土佐甘とうの歴史は比較的浅く、2010年に高知県で本格的な栽培が始まりました。ハウス栽培で通年出荷されています。
このように、甘長トウガラシは地域ごとの品種改良や栽培技術の工夫を重ねながら、日本各地で個性豊かな発展を遂げています。
地名だが全国各地で栽培可能
「万願寺とうがらし」や「伏見甘長」など京都にゆかりが深い名が付いた甘トウガラシですが、京都に限らず全国各地で栽培することができます。「万願寺とうがらし」という品種名で流通しています。固定種であれば自家採種も可能です。
トウガラシやシシトウとの違い

青トウガラシ(左)とシシトウガラシ(右)
一般的に「トウガラシ」と言えば、辛み種のことを指します。青トウガラシは、一見すると甘長トウガラシと色形が似ていますが、辛み種のトウガラシを赤くなる前の未成熟の状態で収穫したもので、強く爽やかな辛みがあります。
また、シシトウは甘長トウガラシと同様に甘み種のトウガラシで、辛みが少ない点は共通していますが、形状や食味に違いがあります。
甘長トウガラシは長さ15cm前後であるのに対して、シシトウは長さ5~7cm程度。甘長トウガラシは先端がとがっているのに対して、シシトウは丸みを帯び、獅子の口に似ていることからその名が付けられました。
食味の比較では、甘長トウガラシが肉厚でジューシーな食感で甘みが強いのに対して、シシトウは果肉が薄めで軽やかな食感が特徴です。シシトウにはほんのりした甘みがあり、個体によってまれに辛いものが混ざることもあります。
このように、トウガラシの仲間は個性豊か。作る料理に合わせて選ぶと良いでしょう。
甘長トウガラシの栽培方法
甘長トウガラシは苗の他、種からも比較的育てやすい作物です。プランター栽培も可能で、市販の野菜用培養土を使えば手軽に始められます。寒さに弱いため、種まきは3月~5月、植え付けは気温と地温が安定する5月上旬以降が適しています。育苗には65~80日掛かり、生育適温は20~30℃。夏の高温にも比較的強く、収穫は7月中旬~10月中旬まで続きます。根張りが浅いため、乾燥させないようこまめな水やりを心掛けましょう。
種まき・育苗
3月~5月が種まきの適期です。育苗箱に深さ1cmの溝を作って種を1~2cm間隔に筋まきし、5mmほど覆土してたっぷり水をやります。水やり後は夜温25~30℃で保温し、5~7日で発芽します。発芽後は夜温を25℃前後に保ち、本葉1~2枚で育苗ポットに移植して20℃程度で管理します。
直まきする場合は、12cmポットに1cmの深さの穴を開け、2~3粒まいて覆土し、水やりします。本葉1~2枚で1本に間引き、温度管理は同様に行います。
土作り・苗の定植
定植は霜の心配がなくなる5月上旬以降に行います。2~3週間前に苦土石灰を施して耕し、1週間前に完熟堆肥と元肥(化成肥料・油かすなど)を加えて再度耕します。畝は幅70cm・高さ15〜20cmで立て、黒マルチを張ると地温確保や雑草防止に有効です。本葉10枚ほどの健苗を選び、根鉢を崩さず浅く植えて水を十分に与え、仮支柱を立てて倒伏を防ぎます。
管理・整枝
一番下のわき芽は早めに摘み取りましょう。定植後1カ月を目安に仮支柱から本支柱へ付け替え、主幹をひもで8の字に緩く結びます。一番花が咲いたら、その下から出る勢いの良い側枝2~3本を残し、主枝と合わせて3~4本仕立てにします。株元のわき芽も除去し、風通しよく育てます。
追肥・水やり
収穫期に入ったら、15~20日おきに化成肥料または液肥を施しましょう。夏場の乾燥には注意が必要です。敷きわらやマルチを使えば、地表の乾燥を防げます。
収穫する
果実が7~10cmほどに育ち、色艶の良い緑色のうちに、ハサミで果梗(かこう)を切って収穫します。こまめに収穫することで株への負担を軽減し、収量アップにつながります。
甘長トウガラシの調理の仕方
甘長トウガラシは、辛みがほとんどなく、種やわたも食べられるため、丸ごと調理できる便利な食材です。調理法や料理に合わせて切り方を工夫することで、さまざまな味わいが楽しめます。種の食感が気になる場合は、縦半分に切って包丁の背で種をこそげ取ると良いでしょう。
丸ごと調理
素焼き・素揚げ・蒸し焼き・天ぷらなどに適しています。ヘタを取り除き、種やわたを残したまま調理します。ヘタを付けたまま調理する場合は、加熱による破裂を防ぐために、楊枝などで数カ所穴を開けるか、あらかじめ手のひらで押して破裂させておきます。
食べやすい大きさに切る
炒め物や煮物に適しています。ヘタを取り除き、好みの大きさに斜め切り、またはぶつ切りにします。種やわたは好みで取り除いてください。縦半分に割って調理しても良いでしょう。他の野菜と一緒に調理する場合は、サイズを合わせると味や見た目のバランスが良くなります。
細かく刻む
チャーハンや佃煮に適しています。ヘタを取り除き、種やわたを残したまま細かく刻みます。種やわたを取り除く場合は、縦に切って取り除いてから刻みます。
冷凍した甘長トウガラシの使い方
甘長トウガラシは冷凍保存が可能です。洗って水気を拭き取り、ヘタを取り除き、種とわたは取らずに、使いやすい大きさにカットするか丸ごと冷凍用保存袋に入れてできるだけ空気を抜きます。
使うときは、冷凍のまま調理します。半解凍して好みの大きさにカットしてもいいでしょう。完全に解凍すると水分が抜けて風味が損なわれるので、凍ったまま使うのがおすすめです。
甘長トウガラシの保存方法
キッチンペーパーでまとめて包み、ビニール袋に入れて、冷蔵庫の野菜室で保存します。
甘長トウガラシのおすすめレシピ5選
甘長トウガラシは、種やわたも柔らかく、そのまま調理できるのが特長です。料理に合わせて、丸ごと使ったり、食べやすい大きさに切ったりと、下ごしらえも自在。ここでは、日々の食卓やおつまみにも重宝する、素材の風味を生かした手軽でおいしい5品を紹介します。
※今回は万願寺トウガラシ及び土佐甘とうで作りました。本数は甘長トウガラシの半分が目安です。
甘長トウガラシの素揚げ
素材の風味をそのまま楽しめる素揚げは、丸ごと調理がおすすめ。甘長トウガラシの優しい甘みと香ばしさを引き立てます。塩を振っておつまみに、ご飯に添えて副菜にもぴったりです。
材料(2人分)
・甘長トウガラシ 100g(約8~10本)
・揚げ油 適量
・塩 少々
作り方
1.甘長トウガラシは洗って水気をよく拭き取り、竹串などで数カ所穴を開ける。
2.鍋またはフライパンに油を1〜2cmほど注ぎ、170℃に熱する
3.甘長とうがらしを入れ、中火で1分半〜2分ほど、表面にしわが寄って少し色付くまで揚げる
4.油をよく切って器に盛り、熱いうちに好みで塩を振る
甘長トウガラシとじゃこの甘辛煮
甘長トウガラシの優しい辛みと、ちりめんじゃこのうまみが調和。ごはんのお供に最適です。食べやすい大きさに斜め切りかぶつ切りがおすすめ。
材料(2人分)
・甘長トウガラシ 100g(約8~10本)
・ちりめんじゃこ 大さじ2
・ごま油 小さじ2
・しょうゆ 小さじ2
・酒 小さじ2
作り方
1.甘長トウガラシはヘタを取って食べやすい大きさに切る。
2.フライパンにごま油を熱し、甘長トウガラシを中火で2分ほど炒める
3.ちりめんじゃこを加えて更に1分炒め、しょうゆと酒を加えて汁気が無くなるまで炒め煮にする
甘長トウガラシとナスの白みそ炒め
甘長トウガラシにナスのとろりとした食感をプラス。白みその優しい甘みが全体を包み、食欲をそそります。ナスと同じ幅に斜め切りにするとバランス良く仕上がります。
材料(2人分)
・甘長トウガラシ 80g(4~8本)
・ナス 1本(中サイズ)
・白みそ 大さじ1と1/2
・みりん 大さじ1と1/2
・砂糖 小さじ1(甘めが好きなら小さじ1.5)
・ごま油 大さじ1
作り方
1.甘長とうがらしはヘタを取り、斜めに2~3等分に切る。ナスはヘタを取り、縦半分にしてから1cm幅の斜め切りにする
2.白みそ、みりん、砂糖を混ぜて、あらかじめみそだれを作っておく
3.フライパンにごま油を熱し、ナスを中火で3分ほど炒め、しんなりしてきたら甘長とうがらしを加える
4.更に2〜3分炒め、全体に火が通ったら火を弱めて2のみそだれを加え、全体を炒め合わせる
5.水分がとび、みそが全体によく絡んだら火を止めて器に盛る
牛肉と甘長トウガラシのしぐれ煮風
柔らかな牛肉と甘長トウガラシを、しょうがの香りと共に甘辛く煮たしぐれ煮風の一品。ごはんにぴったりで、お弁当や常備菜にも重宝します。斜め切りがおすすめ。
材料(2人分)
・牛こま切れ肉 150g
・甘長トウガラシ 6〜8本
・しょうが(千切り) 1片分
・しょうゆ 大さじ1.5
・みりん 大さじ1
・酒 大さじ1
・砂糖 小さじ2
・ごま油 小さじ1
作り方
1.甘長トウガラシはヘタを取り、2〜3等分の斜め切りにする
2.フライパンにごま油を熱し、しょうがを炒めて香りが立ったら牛肉を加えて炒める
3.肉の色が変わったら甘長トウガラシを加え、軽く炒め合わせる
4.しょうゆ、みりん、酒、砂糖を加え、中火で約5分、汁気が少なくなるまで煮る
5.全体がしっとりとしたら火を止め、器に盛る
甘長トウガラシとトマトのだし煮
丸ごとの甘長トウガラシをトマトと合わせて、だしでじんわりと煮含めます。素材のうまみを生かして、冷やしてもおいしい一品です。
材料(2人分)
・甘長トウガラシ 6本
・トマト(中) 1個(またはミニトマト6個)
・だし汁 200ml
・薄口しょうゆ 小さじ2
・みりん 小さじ1
・塩 少々
作り方
1.甘長トウガラシはヘタを切り、竹串などで1〜2か所穴を開ける。
2.トマトは湯むきし、くし形に切る(ミニトマトの場合は湯むきして半分に)
3.鍋にだし汁、薄口しょうゆ、みりん、塩を入れて中火で沸かし、甘長トウガラシを加える
4.弱火にして5〜6分煮たら、トマトを加えて更に2〜3分、トマトが崩れすぎない程度にさっと煮る
5.火を止め、煮汁ごと粗熱を取り、冷蔵庫で冷やして味をなじませる
6.器に盛り、好みで削り節やすりおろししょうがを添えても良い
日々の献立に重宝、味わい豊かな夏野菜
甘長トウガラシは、歴史ある京野菜から新しい品種まで多彩なバリエーションがあり、全国で親しまれている夏野菜です。栽培も比較的容易で、家庭菜園にも適しています。種やわたを取らずに使える手軽さと、幅広い調理法に対応できる応用力で、日々の献立にも活躍します。料理に合わせた切り方で更においしく、旬の味をぜひ楽しんでみてください。