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耕作放棄地からの雑草被害。話し合いの難しい所有者と、どう問題を解決すべき?【農業法律相談所#5】

連載企画:農業法律相談所

耕作放棄地からの雑草被害。話し合いの難しい所有者と、どう問題を解決すべき?【農業法律相談所#5】

読者から寄せられた農業に関する法律のお悩みや相談ごとに、弁護士がお答えする連載企画「農業法律相談所」。第五回の本稿では、隣接する耕作放棄地からの雑草・雑木被害と、その土地の持ち主との話し合いに苦戦する生産者からの相談に答えていく。

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隣接する耕作放棄地によって栽培に支障。地主との話し合いも困難

農業を営んでおり、青ネギを主に作付けしている農地の管理をしております。隣接する耕作放棄地からの雑木や雑草の影響により、自作農地の作物生育に支障が出ていることから、今後の対応についてご相談させていただければと存じます。
問題の耕作放棄地は、同じ集落内にお住まいの個人が所有しているのですが、長年手入れがされておらず、雑木の繁茂による日照不足や、雑草の飛散など、私の農地に実害が出ております。
過去に一度、私の農地からその方の土地へ資材が飛散したことがあり、その際に激しく詰め寄られた経緯もあって個人的な接触や交渉が非常に困難です。その方と冷静に話し合いができる人物もいない状況です。可能であれば、当該地を買い取ることで解決したいとも考えておりますが、「非常に高額でなければ売らない」といった話も間接的に聞いており、交渉には難航が予想されます。

私の希望としては、できる限り穏便な形で問題を解決したいと考えております。対応策の選択肢など、法的な観点からご教示いただきたく存じます。

弁護士の見解

民事調停を申立て、相手方と話し合いにより問題を解決するという事が考えられます。

法律上認められていること

民法709条は、①故意又は過失によって、他人の権利などを侵害した者に対して、②同人が発生させた損害の賠償を請求することを認めています。

本事例では、①相手方は、自己の所有する耕作放棄地の手入れを長年怠っていたことにより、②雑木の繁茂による日照不足や、雑草の飛散などを引き起こして、ご質問者様の農地に実害を発生させているため、ご質問者様は、相手方に対して、害賠償を請求することができます。

また、民法233条は、自己の所有する土地の隣地の土地に生えている雑木の枝が、自己の土地との境界線を越える場合において、当該雑木の所有者に枝を切除するように催告したにもかかわらず、同人が相当の期間を経過しても枝を切除しないときなどの一定の場合には、境界線を越えている枝を自らの手で切り取ることができると定めています。

従って、本事例においても、雑木の枝が、境界線を越えてご質問者様の土地にまで侵食している場合、相手方に枝の切除を請求して一定の期間が経過したにもかかわらず枝が切除されなかった場合には、ご質問者様自らの手で、境界線を越えている雑木の枝を切除することができることとなります。

一方で、本事例において相手方の所有する土地上の雑木や雑草の除去を請求したり、相手方に当該土地の手入れを請求したりするという事は基本的に認められていません。民法上の原則としては、何か被害を発生させた場合、損害賠償を支払うというのが原則であり、根本原因の除去(本事例でいうと雑木や雑草の除去など)に関する請求をすることができる場合は例外的な場合に限られています。

民事調停の活用

本事例のように「できる限り穏便な形で問題を解決したい」との希望があるものの、「個人的な接触や交渉が非常に困難」である場合、一つの解決方法として、民事調停を申し立てるという事が考えられます。

民事調停は、裁判のように勝ち負けを決める手続ではなく、話合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図ることを目的とする手続となります。民事調停は、裁判所に双方当事者が出席し、一般市民から選ばれた調停委員と裁判官が中立的な立場で手続を主宰し、非公開の場で話合いを行い、合意によって問題を解決するという手続になります。

民事調停のメリットとして、法律上請求することができないことについても広く話し合いの議題とすることができるという点があります。例えば、本事例において、相手方の所有する土地上の雑木や雑草の除去を求めることや当該土地を自己に売却してほしいといった内容の請求を裁判で行うことはできませんが、民事調停であれば、これらについて申立てを行い、相手方と話し合うことも可能となります。また、民事調停では、調停委員が第三者的立場から関与するため、相手方との話し合いをスムーズに行える可能性が高くなるといえます。

もっとも、民事調停にもデメリットがあります。民事調停は、あくまで話し合いでの解決を目的とする手続となるため、話し合いで解決する見込みがないと判断される場合には、調停不成立として手続が終了してしまうこととなります。従って、相手方が絶対に話し合いに応じないという態度をとった場合、せっかく民事調停を申し立てたとしても、調停不成立となり終了してしまうこととなります。

まとめ

本事例の場合、法律上請求できることには限りがあり、根本原因を除去するためには相手方の協力が不可欠であるといえます。そのため、民事調停を利用して、話し合いにより問題を解決するという方法が適切であると考えられます。

本事案のポイントを整理

✅相手方には損害賠償の請求を行うことができ、一定の場合には自ら雑木の枝を除去することができる
✅本事例の根本的解決を図るためには、話し合いで解決することを目的としている民事調停を利用することが適切であると考えられる。

弁護士プロフィール

杉本隼与

2003年早稲田大学法学部卒業。2006年に旧司法試験合格(第61期)
2016年東京理科大学イノベーション研究科知的財産戦略専攻卒業 知的財産修士(MIP)
同年に銀座パートナーズ法律事務所を開設し、現在に至る。
銀座パートナーズ法律事務所

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