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都市と農のグラデーションを生きる。ビビッドガーデン執行役員が往く、二拠点生活の先

sato tomoko

ライター:

都市と農のグラデーションを生きる。ビビッドガーデン執行役員が往く、二拠点生活の先

都市で暮らしながら、農と関わる。そんな新しいライフスタイルを模索する人が増えています。生産者からこだわり食材などが購入できる産直サイト「食べチョク」を運営するビビッドガーデンの執行役員・松浦悠介さんも、そのひとり。レモン農園を営むパートナーと神奈川県小田原市に居を構えつつ、仕事の拠点である東京を行き来する二拠点生活を通じて「関係人口創出」の視野が広がってきました。農村と都市、生産と消費、暮らしと仕事――そのあいだに広がる「グラデーション」に関わり方のヒントがあるのかも。松浦さんに話を伺いました。

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都市生活者と農のあいだの支援者として

松浦悠介さんは、株式会社ビビッドガーデンで会社経営全般に携わるとともに、新規事業の立ち上げ責任者として複数のチームを統括。同社で培ったマーケティングの知見を生かして、自治体や食品メーカーとの協業にも取り組んでいます。

大学時代は農業サークルの副代表を務め、国内外の農家に住み込みで働いた経験も。現在も公私にわたり各地の生産者を訪ね歩きながら、都市に暮らしつつ農と向き合う日々を送っています。

それでも、松浦さんは当時の将来展望について「就農することは考えたことがありません」ときっぱり。学生時代に友人とともに農業プロジェクトを立ち上げ、生産にも挑戦した経験が根底にあり、おいしい農産物をつくることにおいて、生産者との圧倒的な差を実感したことが理由でした。

それでも、こうした経験を通じて、生産者へのリスペクトが一層高まったと松浦さんは言葉を続けます。「生産者の支援に自分の力を活かしたい」。そう考え、ビビッドガーデンに参画。生産者と消費者をつなぐ支援者として、農業と深く関わってきました。

そして2025年3月、神奈川県小田原でレモン農園を営む槇紗加(まき さやか)さんとの結婚を機に、平日は東京、週末には小田原の二拠点生活がスタート。都市と農地、ビジネスと暮らし――その両方を行き来するなかで、あらためて「都市生活者が農業や地域と、どのように関わり続けられるか」を考えるようになったといいます。

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農に携わる二拠点生活、支援者の視点を深める

「はれやか農園」と名づけられたその場所は、観光農園とは少し違った、誰もが気軽に遊びに来られるような開かれた農園を理想としています。訪れる人との交流を大切にしながら、6次産業化や直販、農業体験の企画などにも積極的に取り組み、農園が新たな交流の拠点となるよう日々工夫を重ねています。

松浦さんは、平日は東京で会社経営に携わり、週末は小田原に通って草刈りや収穫物の運搬などの農作業にも本格的に関わっています。
「場所を変えることで思考の扉が開きます。情報のインプットから離れて、目の前の草刈りに没頭していると、むしろ頭の中がクリアに整っていく感じがします」と松浦さんは語ります。

はれやか農園のさまざまな取り組みも、松浦さんは企画運営や対外調整の面からサポート。一般向けのイベントや子ども向け体験プログラム、LINEコミュニティの運営、レモンを使ったオリジナルビールの製造など、多彩な企画に関わってきました。さらには畑でのイベントや結婚式のプロデュースにも携わっており、その第一号が、松浦さんと槇さん自身でした。

「たくさん作ってたくさん売る農業がある一方で、関係人口を持つことで稼げる農業のスタイルがあってもいい。都市近郊の小規模農家には、その可能性があると思います。はれやか農園がその一例になれたらいいですね」

週末ごとに現場に立ち、暮らしのなかで農に触れる。そんなスタイルが、松浦さん自身の支援者としての視点に深みを与えています。

都市生活者と農を結ぶ、関係人口の可能性

実際、農業に関心を持つ都市生活者は少なくありません。ただ、その関心を「行動」に移すのは決して容易ではありません。
援農を希望しても、必要な情報にアクセスできなかったり、現行の制度では手続きに時間がかかり、個別の生産者に直接問い合わせるのもハードルが高い。関わりたくても「入り口が見えにくい」のが実情です。

一方で、生産者側にも課題があります。農業体験やイベントの開催には準備や人手が必要で、繁忙期に対応するのは負担が大きく、「一度試してみたけれど、手間がかかりすぎて続かなかった」という声も、現場ではよく聞かれます。
消費者が来てくれるのはうれしい。けれど、その対応に追われると本業に支障が出てしまう。そのバランスをどう取るかは、多くの現場で共通の悩みです。
だからこそ松浦さんは、「あいだに立つ存在」の重要性を強調します。農家と消費者、お互いに勝手がわからないまま出会っても、コミュニケーションが続かないことが多い。そこで求められるのは、両者の想いをつなぐ「翻訳者」のような役割です。
「私はよく都市で働く人たちを畑に連れて行きますが、みんな驚くほど表情が変わります。農の現場は、都市生活者にとって心身のリフレッシュになる、大切な場だと感じています」

関係人口の創出は、単なる地域活性化にとどまりません。都市と農村を行き来することで、生産者と消費者の距離が少しずつ縮まっていく。そんな可能性を信じて、松浦さんは「はれやか農園」という場づくりを通じ、都市と農を結ぶ体験のかたちを日々探り続けています。

しなやかにつながり、農との関わりを育む

自ら農家になる必要はない。でも、関わり続ける方法はあります。「月に一度、畑で過ごすだけでもいい。バーベキュー感覚で農に触れる人も、本格的に作業に関わる人もいていい。多様な関わり方が共存するのが理想です」と松浦さん。そのグラデーションこそが、関係・交流人口を広げていく鍵になると考えています。

こうした活動の背景には、「分断をなくしたい」という人生のテーマがあります。まずは農や食を軸に、都市と農村、生産者と消費者、暮らしと仕事など、人と人のあいだにある境界を、相互理解によって緩やかにつなぎ直す。その実践を続けています。
「たとえば食材の価格が上がると『高すぎる』と騒がれますが、その背景にある現場を知れば、感じ方は変わる。対立ではなく理解につながると思います」
もし自分に合った農との関わり方がわからなければ、「推し農家」を見つけて旬の作物を買い続けるのもひとつの入り口です。松浦さん自身も、高知県・中土佐町の生産者から届く季節野菜に添えられたショップカードに惹かれてファンになり、何度も農園を訪れるように。やがてパートナーの槇さんにも紹介し、今も交流が続いています。
都市に暮らす人が、もっと自由に、もっと気軽に農とつながれるように。「はれやか農園」という実践の場を通じて、松浦さんはさらに、公私にわたってその輪を広げていこうとしています。

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