29人が独立就農。12人の研修生が後に続く
2017年に発足した「南信州・担い手就農プロデュース」は、JAみなみ信州を中心に、管内14市町村が県内外からの移住就農を支援する組織。市町村が住居や農地の確保を、同JA子会社の株式会社市田柿本舗ぷらうが就農研修を担うなど、担い手の確保、育成、定着という難題に、地域一体となって取り組んできた。
県外在住者は地域おこし協力隊制度、県内在住者は就農準備資金をそれぞれ活用し、2年間の就農研修に臨む。これまでに1~6期の研修修了生計29人が管内で独立就農を果たしているほか、7~8期生の計12人が就農に向けて技術習得に励んでいる。
研修期間中は南信州の特産品である「市田柿」と、夏秋きゅうりを育てる複合経営を学ぶほか、税務などの農業経営も学ぶ。それぞれの品目で営農技術員の経歴を持つ専任マネージャーが指南役を務めており、栽培における基本・基礎を伝授している。
「専任マネージャーの意向もあって、毎年の研修生の募集は6人前後までとしています。就農地はそれぞれ環境が異なるため、地域に合った農業をしていくには、集団研修での基本・基礎の反復が最も大切だからです」と、澤栁さんは説明してくれた。移住就農者数という実績を上げることよりも、一人ひとりを一人前の生産者に育てていきたいという心意気がうかがえる。
年齢、配偶者の有無などの制限なし
「南信州・担い手就農プロデュース」には、ほかの地域の研修事業とは一線を画す特徴がいくつかある。
一つは年齢や配偶者の有無などによる受け入れの制限を設けていない点だ。
市町村などが定める研修事業の多くは、40歳代後半で年齢制限を設けているケースが多い。前述した就農準備資金の対象が原則、49歳以下であることなどが主な理由だ。定着率の観点などから、中には独身の希望者を断る地域もある。研修後は、準備資金として300~500万円ほどの手持ちがなければ就農は難しい、というのもよく聞く話だろう。
「うちでは、年齢や配偶者の有無などの受け入れ条件を設けていません。直近では58歳で研修を開始し、60歳で就農した方もおられます。研修生の本気度や熱意次第では、資金が満足になくても本人の本気度や熱意があれば私たちも一緒になって考え、就農できるようサポートしています。一方で、農業は地域コミュニテコミュニティが大切ですので、研修生の受け入れに当たっては、人付き合いができる人かどうかを面接で見るようにしています」
独立後も手厚くフォロー
2つ目の特徴は、就農後まで続くフォローの手厚さだ。研修期間中はもちろん、独立就農後も5年間の経営計画に沿って、営農指導や定期的な巡回相談などを通じて、経営が安定するまでの道のりを支援している。
「もともとは卒業後1年間のフォローを計画していたのですが、気がつけば忙しい時期でも2カ月に一回ほどは研修修了生の様子を見にいくようになりました」と、澤栁さんは笑う。こうした親身なフォローアップがきっかけで、今年就農した人の中には、親族までもが南信州に居を移したケースもあるという。移住定住促進という側面で見ても、この上ない成果といえよう。
「思ったのと違ったらやめてもいい」
最後にもう一つ、印象的だった特徴を紹介しておきたい。「研修中のリタイアは大いに結構」というスタンスだ。「『思ったのと違えばやめていい。無理だと感じたら、いつでも話してほしい』ということは常々話しています。無理をして研修を終え、流れに任せて就農したとしても、本人にとってはマイナスでしかありません」と澤栁さん。
それでも、直近でリタイアした研修生はほとんどいない。研修修了生らが地域の中核的な担い手として実績を上げていることが、研修生たちの励みになっているのだろう。
澤栁さんは今後について、さらに受け入れ体制の拡大を目指していきたいと展望を語る。
「来年度から県と相談しながら、研修修了から3年以上が経過した農家を新たな指導役に招き、さらに受け入れ体制の拡大を目指していく。ゆくゆくは、こうした取り組みが、全国のほかの市町村にも展開していくとうれしいですね」
担い手の確保、育成、定着の好事例が、さらなる広がりを見せようとしている。
南信州担い手就農ナビ
画像提供:JAみなみ信州