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55歳で脱サラ就農して10年 農業を70歳で「卒業」した後の充実プラン

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

55歳で脱サラ就農して10年 農業を70歳で「卒業」した後の充実プラン

続橋昌志(つづきばし・まさし)さんと水野聡(みずの・さとし)さんは10年前に55歳で会社をやめ、東京都八王子市で就農した。いま2人が計画しているのは、70歳で営農に区切りをつけること。農家として歩んだ10年間と、農業の世界から離れた後の展望について話を聞いた。

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アクティブシニアでいたい

2人は株式会社アーバンファーム八王子を2015年12月に立ち上げ、農業の世界に入った。現在50アールの畑でさまざまな野菜を育て、市内のスーパーや直売所、飲食店、卸会社などに販売している。

続橋さんと水野さんを筆者が初めて取材したのは2017年のこと。2人が野菜を育てて売ることがいかに難しいかに気づくとともに、食べた人から感謝されることの喜びを知ったばかりのタイミングだった。

もともと2人はある大手メーカーで働いていた。なぜ会社を辞めたのか。そのときそうたずねると、続橋さんは「50歳ぐらいのとき自分の人生を振り返り、組織で埋もれたままでいいのかと思った」と答えた。

退職を決意したとき、「アクティブシニアでいたい」との思いが頭にあったという。他の多くの仕事と違い、農業なら70代まで働けるかもしれない。「それができたら最高だ」。農業の魅力の1つと映った。

続橋さん(右)と水野さん(2017年撮影)

一方、水野さんは「自然の中で暮らしたい」との思いを温めていた。キャンプ場を経営している知人から「田舎暮らしはいいぞ」と聞かされ、「農業がベースの人生を組み立ててみたい」と思うようになっていた。

同じ思いを抱いていた2人は意気投合。2015年春に会社を辞めると、八王子のベテラン農家のもとでの研修などを経て就農した。

農業を始めて10年。2人はいまどうしているだろう。そう思い、久々に取材を申し込むと、意外な答えが返ってきた。「あと5年やったら終了というプランを立てている」。すでにそのための準備にも着手したという。

事業承継に備えて経営を効率化

「八王子市の皆さんに新鮮な野菜を提供することに加え、プラスアルファで地域貢献にも力を入れてきた」。続橋さんはそう振り返る。

農福連携の一環として、障害者に作業を手伝ってもらったのがその柱。地域の福祉団体や市役所が窓口になった。虐待を受けた子どもなどをあずかる児童養護施設ともつながりをつくり、中高生を畑で受け入れた。

育てる品目もそうした取り組みを前提に選んできた。ミニトマトやメロン、スイカ、トウモロコシ、葉物野菜などだ。作業が単調にならいようにするのと、お土産としていろんな作物を持って帰ってもらうためだ。

ここには大きな意味がある。2人が会社をやめたのは、定年を5年後に控えた時期。出費がかさむ時期はほぼ過ぎており、利益だけを追求して農業をする必要からも解放されていた。大切にしたのは「人生の充実」だ。

2人が育てたトウモロコシ

こうした営農の形に、今年3月を境に基本的に区切りをつけることにした。これからは夏はナスやオクラ、冬はニンジンやネギなどに品目を絞り込む。作業の手間が比較的かからず、日持ちのする作物が中心だ。

売り先は徐々に卸会社の割合を増やしていく。その先にある販路は東京23区内。地元のスーパーや直売所がメインのときと違い、店まで配達する負担が減る。地域とのつながりはもう十分にできたと考えている。

営農の形を変える理由は2つある。1つは効率化して、体に負荷がかからないようにするためだ。65歳という年齢を考えれば、当然のことだろう。

もう1つは、5年後には誰かに事業をバトンタッチしたいと考えているからだ。もし後継者がいないまま畑を地主に返せば、農地が荒れてしまう可能性を否定できない。そんな未来は避けたいと思っているのだ。

効率と収益性の向上を目指すことにしたのはそのためだ。水野さんは「誰かに引き継いでもらうことを考えると、事業としてもっと成り立つ姿にしておく必要がある」という。それが2人の営農の「仕上げ」になる。

2025年夏に育てたナス

農業を選んでよかった

では2人は5年後に何をしようと考えているのだろう。この質問への続橋さんの答えは「車を運転しての全国回り」。すでに車中泊ができる車も買った。1~2カ月単位で九州や四国をはじめ各地を回ろうと考えている。

「80歳で免許を返納することを考えると、最低でもその10年前には農業をやめてそういう生活に入りたい」。これが続橋さんの今後のプランだ。

一方、水野さんは「農場経営の第一線からは退くが、何らかの形で農場をサポートしていきたい」と話す。「田舎の雰囲気と都会の便利さがともにある八王子を気に入ったので、ここでの暮らしを楽しみたい」とも語る。

車で各地を回りたいと考えている

農業への思いも2人に聞いてみた。続橋さんは「会社員だったころ、ときには納得のいかないこともあった。その点、農業は自然が相手。納得して打ち込むことができた。選んでとよかったと思っている」と話す。

この思いは水野さんも共通だ。「会社員のときと違い、何のためにやっているのか、と疑問に思うことがなくなった。すべて自己責任。さぼればさぼった分、頑張ればその分、結果に跳ね返る」。農業の醍醐味だろう。

農家の高齢化は農業危機の文脈で語られることが多い。だが裏を返せば、年をとってもできる仕事という意味でもある。2人は脱サラ後のある期間を農業の世界で充実した時間を過ごし、さらに農家を「卒業」した後の暮らしも前向きに見据えている。ステキなシニアライフというべきだろう。

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