親戚同士の8人で運営
肉牛農家には子牛を生ませる繁殖経営と、子牛を買って肉牛を育てる肥育経営の2種類がある。窪田畜産はその両方を手がける一貫経営。450頭の母牛を育て、年に280頭ほど子牛を販売し、約50頭の肉牛を出荷する。
社長は加奈子さんの夫の敏(さとし)さんで、会長はその父親の繁(しげる)さん。農場を運営する8人は親戚同士で、今回は加奈子さんが取材に応じてくれた。他に従業員とパートをそれぞれ1人ずつ雇用している。
農業において家族経営は「脱皮」する対象で、目指すべきは企業経営という見方が一部にある。だが現場を見ればわかるように、両者は両立する。窪田畜産も家族経営だが法人化し、企業的なノウハウも取り入れている。
もっと言えば、窪田畜産を経営しているのが親戚同士であるという点は、事業の目的と安定にとって本質的な意味を持つ。それは地域の未来にも大きく関わってくる。そのことについては本稿の最後で触れたいと思う。

窪田加奈子さん
牧草を自給する2つの理由
窪田畜産の特徴の一つに、牧草の自社生産がある。30ヘクタールの農地で牧草を育て、発酵させて牛に与えている。近隣の水田で収穫後に残った稲わらも餌にしている。代わりに堆肥を提供しているので稲わらは無償だ。
牛舎での飼育だけでなく、放牧も手がけている。家族で所有している山林のうち17ヘクタールを切り開いて放牧地にした。牛舎を建てるコストを節約できるのに加え、牛がリラックスして健康になるという利点もある。

山林を切り開いた放牧地
粗飼料を購入せずに自給できている点は、餌代がここ数年高騰している中で経営にとってプラスに働いた。購入飼料に頼る周りの農場は安い餌を確保するのに苦労していたが、窪田畜産は影響を受けずにすんだ。
ここまでは牧草を自社生産する経済的な理由。続けて加奈子さんは「うちの男性陣は機械を扱うのが得意で、畑に出るのが好き」とつけ加えた。牧草を収穫し、フィルムで巻いて発酵させる作業などはどれも機械を使う。
重要なポイントだろう。好きな作業ばかり優先して、効率を損なうのは問題。だがそれを踏まえたうえで「やりたいこと」を大切にするのは、仕事に臨む際のモチベーションになる。そこに家族経営の強みもある。


















