倒す方向に受け口を刻み、反対側に追い口を切る
今日、クリの木を3本切る予定だ。わが家の隣がクリ畑で、その実が庭にこぼれて自然に育った木だ。「桃栗三年柿八年」ということわざがあるように、実際にクリは生育が早く、3年程度で実をつける。この3本のクリの木も私がこの土地に来た14年前にはなかったのだが、気づいたときには大人の背丈ほどになっていて、今では平屋の家の屋根を超えるくらいに育ち、毎年たくさんの実をつける。ただ、シロスジカミキリによる幹の食害がひどく、3本のうち1本はそれが原因で、今年の初夏の風の強い日に太い枝が折れてしまった。ほかの2本の木も近いうちに同じようになるのは目に見えている。それで思い切って伐採することにしたのだ。

カミキリムシの食害がひどく、倒伏の恐れがあるクリの木を切る
立ち木の伐採は易しい仕事ではない。樹高が20~30メートルの大木ともなると重さは軽く1トンを超える。その巨大な生き物が地響きを立てて倒れ込んでくるのだ。ちょっと怖い。プロのランバージャック(木こり)の現場に立ち会ったことがあるが、数十年の歳月を重ねて育った大木が倒れる瞬間は、ただただ圧倒されて息をのむ。寡黙な樹木は声を上げることも、体を震わせることも、目を閉じることもないが、ゾウやクジラのような大きな動物が息絶えていくのを見ているようで、畏怖(いふ)の念を抱かせる。

立ち木の切り方。まず受け口を切り、次に追い口を切る。つる(一定の幅)を残すことで、それが蝶番(ちょうつがい)のような働きをして木が急に倒れるのを防ぐ
伐採に関しては、私はまだまだ経験不足だ。倒したい方向に「受け口」を刻み、反対側から「追い口」を切るだけの単純な作業であるが、狙ったところに正確に倒す技術がない。ヘタをすると自分に向かって倒れてきたりする。かなり危険だ。でも、今回伐採するクリの木はそこまで大きな木ではない。幹回り約90センチ、高さは10メートルに満たない。周りに障害物もないので、私でもたやすく切れる。とはいえ、もちろん油断は禁物。じゃ、始めよか。
いつも最高の状態を保つためのメンテナンス
チェーンソーを使うのは半年ぶりだ。今年の春に薪(まき)ストーブの薪にもらった丸太を玉切り(所定の長さに切ること)して以来だ。木くずを掃除しただけでそのまましまっていたので、仕事の前にきちんとメンテナンスをしないといけない。
チェーンソーの構造
メーカーによって多少の違いはあるが、チェーンソーの構造と各部の役割はおおよそ以下のとおり。

①ソーチェーン
等間隔に刃がついたチェーン。定期的に目立て(研ぐこと)をすることで切れ味を維持できる。
②ガイドバー
本体の先端についている、ソーチェーンを取り付けるプレート。
③ハンドガード
前方に倒すとチェーンブレーキがかかり、ソーチェーンの回転が瞬時にストップする。
④フロントハンドル
リアハンドル(⑫)と共に握って作業する。作業に応じて持つ位置を変えられるように、本体を囲う形になっている。
⑤スタータ-グリップ
エンジンを始動させるためのハンドル。ハンドルを引っ張ることで一瞬だけエンジンを回転させて点火、始動させる。エンジン式刈払機や耕運機も同じ仕組み。
⑥エアクリーナーカバー
カバーの中にエンジンやエアフィルターが収まっている。メンテナンスしやすいように簡単に開閉できる。
⑦⑧ストップスイッチ、チョークノブ
エンジンを始動・停止させるためのスイッチと、エンジンに送る空気を少なくして、燃料を濃くすることで始動しやすくするためのレバー。
⑨オイルタンク
チェーンオイルを入れるタンク。燃料給油時に合わせて満タンにしておく。
➉燃料タンク
燃料の混合ガソリンを入れるタンク。間違ってチェーンオイルを入れないように注意。
⑪スロットルトリガー
エンジンの回転を操作するレバー。クルマでいうアクセル。
⑫リアハンドル
右手で握ってスロットルを操作するハンドル。ちなみにチェーンソーは右利きでの使用が前提で、私が知る限り、おそらく日本では左利き用に設計されているものはない。
どんな道具にも言えることだが、気持ちよく働いてもらうには、いつも最高の状態にしておかなくてはいけない。木くずやほこりでエアフィルターが詰まっているとパワーが出ないし、ソーチェーンが緩んでいると外れる危険性がある。ソーチェーンはきつく張りすぎてもいけない。エンジンに余計な負荷がかかって回転が重くなる。ガイドバーも要チェック。バリ(細かい突起やささくれ)が出ていたり、変形していたりするとまっすぐ切れないからだ。
それから最も重要なのが目立て。ソーチェーンの刃を研ぐことだ。包丁でもハサミでも、刃物は使っていくうちに摩耗して切れ味が鈍っていく。そうなる前に刃を研いで切れ味を戻してやることが大切だ。

目立て。丸ヤスリは地面と平行にして、押すときに力を入れる
台所の包丁はよく切れますか? よく切れる包丁を使えば、きっと今より料理が楽しくなりますよ。チェーンソーも同じです。
刃先が丸まった包丁で刺身が切れないように、チェーンソーも刃先が鋭利でなければ仕事はできない。切れない刃物は刃物にあらず。危険なだけでしかない。強引に力で切ろうとすれば、それがケガのもとになる。機械の性能は、刃の切れ味が伴って初めて発揮される。そうであれば、目立ては魂を込めて丁寧にやるべき仕事だ。
チェーンソーのメンテナンス
エアフィルターの清掃

エアフィルターはエンジンに取り込む空気のゴミやほこりを除去する部品。汚れたり詰まったりするとエンジンの出力が低下するため、定期的に掃除する。エアクリーナーカバーを外してエアフィルターを取り出し、エアダスターで吹くなどしてスポンジやメッシュ部分のほこりを取る。
ガイドバーのチェック

変形や破損が見られたら交換。周りにバリがあればヤスリで削って落とす。先端にスプロケット(歯車)が挟まっているものは注油して動きを滑らかにする。
ソーチェーンの張りの調整

ガイドバーが取り付けられている部分(クラッチカバー)のボルトを緩め、ガイドバーの先端を持ち上げた状態で調整ネジを回し、ソーチェーンの張りを調整する。ガイドバーの下側でソーチェーンがたるまない程度に調整ネジを締め込み、手でソーチェーンをスムーズに回せればOK。

ソーチェーンがたるんでいる場合、張りを調整する

下側のソーチェーンがガイドバーに触れるまで調整ネジを締める
切れ味を復活させる目立てのコツ
チェーンソーはカッター(刃がついたコマ)が連結したソーチェーンを高速で回転させながら木を切る。カッターの数はガイドバーの長さやソーチェーンの種類によって異なるが、おおむね30~60前後。それをすべて同じ角度・長さで研ぎそろえることが基本である。角度や長さがばらばらだとまっすぐ切れないなど、作業効率が悪くなる。ただ、すべてのカッターを同じに研ぐのは難しい。目立ては丸ヤスリを使って行うが、正確にやるには専用のガイドを使うことをおすすめする。
1つのカッターには上刃と横刃がついており、丸ヤスリを当てて押し出すと両方の刃をいっぺんに研げる。

丸ヤスリは下の写真のような角度で刃に当てて、5回程度前後させる。この作業を30~60個程度あるすべてのカッターに対して同じように行うのだ。

ソーチェーンと垂直の線に対し、右か左(上刃の向きに沿わせる)に30度で当てるのが一般的
ソーチェーンのカッターは、刃先から後方に向かって高さが低くなっていく。カッターの手前にはデプスゲージという、刃の食い込みを調整する突起のあるコマがついているのだが、目立てを繰り返すとカッターが短くなっていき、そのうちデプスゲージより低くなる。するとどんなに目立てをしても刃が木に食い込まず、切れなくなってしまう。

カッターは後方が低くなっており、目立てをして短くなるとデプスゲージより低くなる
そうなったら、今度はデプスゲージを削ってカッターより低くしてやらなくてはいけない。デプスゲージジョインターという専用の道具を使うと、カッターよりデプスゲージが高くなっていれば一目でわかる。高くなった部分は平ヤスリで削ってやる。
目立ては熟練を要する仕事だ。でも、チェーンソーを使うのであれば必ずやらなくてはいけない。最初はうまくいかなくて当たり前。繰り返しやってコツをつかむしかない。私も、まだまだ完璧ではないが、それでも目立てのあとの切れ味は素晴らしいものがある。
チェーンソーの目立て
目立てやソーチェーンの調整に使う道具

①目立てゲージ兼デプスゲージジョインター…丸ヤスリの角度を一定に保つためのガイド。デプスゲージの高さもチェックできる。
②ドライバー付きプラグレンチ…ソーチェーンの張りを調整するネジやクラッチカバーのナットを回すためのもの。
③丸ヤスリ…ソーチェーンの種類によってサイズが異なるので、適切なものを選ぶ。
④平ヤスリ…カッターよりデプスゲージが高い場合は、これでデプスゲージを削る。
目立ての方法

本体やガイドバーが動かないようにクランプで固定する。

ソーチェーンに目立てゲージを当て、切り欠き部分からカッターの刃に丸ヤスリを当てて、目立てゲージの角度に合わせて前後に5回程度動かす。丸ヤスリは押し出すときに力を入れ、引くときには力を抜く。ヤスリをかけた刃先が削れて光っていれば適切に研げている。すべての刃を同じように研ぐ。
デプスゲージの調整


ソーチェーンにデプスゲージジョインターを当て、デプスゲージが飛び出していたら平ヤスリで削る。すべてのデプスゲージを同じ回数だけ削って高さをそろえる。
きちんと目立てができていると、カンナで削ったような木くずが出る。木くずが粉状の場合は刃が鈍っている。
安全なエンジンの始動方法
さぁこれでチェーンソーの準備はばっちり。そしたら燃料とチェーンオイルを入れてエンジンを始動。2サイクルエンジンを動力としているチェーンソーの燃料は、無鉛ガソリンに一定の比率でエンジンオイルを混ぜた混合ガソリンだ。混合比率はチェーンソーのマニュアルで確認できるが、50:1が一般的。オイルが少ないと混合比が下がって薄くなり、焼き付きの原因になる。逆に濃すぎると燃焼が悪くなり、パワーが出ない。また、チェーンオイルは高速で回転するソーチェーンの摩耗を軽減するためのものだ。燃料を給油するときに合わせて満タンにしておくとよい。

燃料の混合ガソリンを入れる
エンジンをかけるときは、ソーチェーンが回転しないように必ずチェーンブレーキをかけて行う。厚生労働省の「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」では、チェーンソーを地面に置いて保持した状態で始動することを原則としている。
チョークノブを引き、ストップスイッチをオンにして、右足でリアハンドルを押さえつけ、左手はフロントハンドルを持つ。それから右手でスターターグリップを何度か引くと、パス、パス、パスと気が抜けたような音が続いたあとで、ブルンとそれまでとは違う軽い爆発音が起きる。そしたらチョークノブを戻して改めて勢いよくスターターグリップを引くと、うなりを上げてエンジンが始動する。

リアハンドルを足で踏んで固定し、左手でフロントハンドルを押さえて、右手でスターターグリップを引く
スロットルトリガーを一瞬軽く握ると、エンジンの回転が落ち着きアイドリング状態に入る。そのまま1~2分暖気したあとでチェーンブレーキを解除。改めてスロットルトリガーに指をかけ、高速で回転する刃をクリの木の幹に食い込ませていく。

受け口を刻む。う~ん、へたくそだなぁ……
※ チェーンソーを使用する際は、必ず取り扱い説明書をよく読んでください。また、専門家のアドバイスを聞くこともおすすめします。



















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