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猛暑、人手不足、資材高騰…。立て続けに辞めてゆくベテラン農家たち【転生レベル32】

猛暑、人手不足、資材高騰…。立て続けに辞めてゆくベテラン農家たち【転生レベル32】

本記事は筆者の実体験に基づく半分フィクションの物語だ。モデルとなった人々に迷惑をかけないため、文中に登場する人物は全員仮名、エピソードの詳細については多少調整してお届けする。 読者の皆さんには、以上を念頭に読み進めていた […]

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本記事は筆者の実体験に基づく半分フィクションの物語だ。モデルとなった人々に迷惑をかけないため、文中に登場する人物は全員仮名、エピソードの詳細については多少調整してお届けする。
読者の皆さんには、以上を念頭に読み進めていただければ幸いだ。

前回までのあらすじ

農業の知識ゼロ、経験ゼロ。そんな僕・平松ケンが飛び込んだのは、常識の通じない“異世界”のような農村社会だった。しきたりや独自ルールに戸惑い、何度も心が折れそうになりながらも、少しずつ地域に馴染み、ついには地元農家をまとめる部会のリーダーを任されるまでに成長した。

そんな僕が次に挑んだのは、新規就農を目指す若者の育成。後輩農家の“お兄ちゃん役”として「しっかりサポートするぞ!」と意気込んでいたのだが……。

前回の記事はこちら
研修生が言うことを聞かない!? 就農希望者を育てる先輩農家のジレンマ【転生レベル31】
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農村という“異世界”のルールを少しずつ理解しながら、地道に努力を積み重ねてきた僕・平松ケン。ついに地域の農家をまとめる部会のトップに就任するに至ったものの、待ち受けていたのは想像以上に厳しい現実だった。 ベテラン農家と若…

待っていたのは、価値観が違う後輩にモヤモヤする毎日。指導する立場になってはじめて見えてきた「教えることの難しさ」に、僕は頭を抱えることになるのだった。

コロナ禍で一気に進んだ変化


部会長になってからというもの、僕は新規就農者の受け入れとサポートに、積極的に取り組むようになった。かつて自分が感じた“農村=異世界”という戸惑いを、これからの若者たちには味わってほしくなかったからだ。
「新しく農業を始める人が、少しでもスムーズにこの世界に入ってこられるように」
そんな思いで、指導の方法や制度を見直し、未経験者でも取り組みやすい環境づくりに努めてきた。その甲斐あって、部会には20~30代の若手も少しずつ増え始めた。

とはいえ、この世界では僕のような40代でさえ“若手”扱い。実際に現場を支えているのは、60代、70代の先輩たちだ。
驚くほど元気な人ばかりで、毎日畑に立ち、炎天下の中でも黙々と作業をこなしている。「まだまだ俺の方が動けるぞ」と笑う80代もいて、そのパワーには頭が下がる思いだった。
ただ、ここ数年で、少しずつ状況が変わりはじめていた。
きっかけはコロナ禍である。

部会での顔合わせや、日々のちょっとした世間話の場が一気に減った。コロナが収束し、再び会合などで顔を合わせると、「なんだか元気がないな」と感じることが徐々に増えてきたのである。

ラスボスからの思いがけない弱音

「まだまだ若いもんには負けんぞ!」
豪快に笑いながらそう口にしていたのは、かつてこの地域に“ラスボス”として君臨していた前部会長・徳川さんだった。
80歳を越えてなお、部会内でトップクラスの栽培面積と売上を誇る、まさに“バケモノ級”の農家だ。僕にとっては常に畏れ敬う存在だったが、最近はどこか親しみも感じるようになっていた。

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そんな徳川さんと久々に顔を合わせたのは、ある夏の日の朝。コロナ禍を挟んで部会の集まりも減り、以前のように頻繁に会うことはなくなっていたが、その日、たまたま畑の脇道で見かけ、思わず声をかけた。
「徳川さん、こんにちは! 最近どうですか?」

日焼けした麦わら帽子を脱ぎながら、徳川さんがこちらを振り向く。
「おお、ケンか。元気でやっとるか?」
「ええ、おかげさまで、なんとか」
久々の再会に、自然と笑みがこぼれる。かつて鋭い眼光で僕を叱咤していたあの人が、いまはどこか柔らかい表情で僕を見ている。その目は、まるで孫を見る祖父のような、優しさを帯びていた。
「それにしてもなぁ……最近は本当にしんどくなってきてな……」
そう言いながら、徳川さんは腰に手を当て、わずかに顔をしかめた。体のあちこちが悲鳴を上げはじめているのだろう。

「いやいや、徳川さんには、まだまだ現役で頑張ってもらわないと!」
軽口を叩いたつもりだったが、その返事は思いのほか重たかった。
「そうは言ってもなぁ……。そろそろ潮時かもしれんな……」

一瞬、言葉を失った。あの“鉄人”のような徳川さんが弱音を口にするなんて。まさか、そんな日が来るとは思ってもみなかった。
その日、自宅に戻る車の中で、僕はじわじわと胸の奥に広がる寂しさを感じていた。季節の移ろいのように、少しずつ、しかし確実に、時代は流れていくのだ。そんな現実を、あの徳川さんの背中が静かに伝えている気がした。

部会を支えてきたベテラン農家が……

見知らぬ番号から電話がかかってきたのは、徳川さんと久々に言葉を交わした、ほんの数日後のことだった。
「平松さん、ちょっとご相談があるんですけど……」
電話の主は、斎藤さんの奥さんだった。斎藤さんといえば、徳川さんと並ぶベテラン農家の1人。部会を創設当初から支えてきた人物である。

「最近、畑で見かけないな」と思っていた矢先だった。以前は顔を合わせれば「おい、元気でやっとるか?」と、よく声をかけてくれていたのだが、最近は病気がちだと耳にしていた。
後日、僕は斎藤さんの家を訪ねた。応対してくれた奥さんは、顔を合わせるなり、こう切り出した。
「申し訳ないけど、主人は今年いっぱいで部会を抜けて、農業も辞めようかと思ってるんです」
その言葉に、思わず息をのんだ。

斎藤さんはここ最近体調を崩して入退院を繰り返しているという。休日には会社員の息子さんが手伝いに来てくれているものの、継続は難しいと判断したそうだ。
「でも、斎藤さんはずっと地域を引っ張ってくださったじゃないですか。僕たちもできる限りサポートしますし、もう少し続けてみませんか?」
懸命に食い下がってみたが、奥さんは申し訳なさそうに首を振った。

「資材もどんどん高くなっていてね。経費ばっかりかさむんですよ。それに……夏の暑さが年々ひどくなってきて。息子たちにも『熱中症が心配だから、もう無理しないで』って説得されちゃって……」
そう言って、ふと目を伏せる奥さん。僕はしばらく言葉を探したが、最後は静かにうなずくしかなかった。
「……そうですか。残念ですが、無理はなさらないでください」

さらに別の部会員から連絡が入り……

そして、斎藤さんの退会は、予想以上の波紋を広げることになった。
「やむを得ない」と気持ちを整理したのも束の間、今度は別の2人の部会員から連絡が入ったのである。
「うちも、そろそろ辞めさせてもらおうかと思って…」
まさか、立て続けに3人も……。僕は、胸の奥がじんわりと重くなるのを感じた。

農業は、ひとりでできるものじゃない。ベテランも若手も、それぞれの知恵や技術を持ち寄りながら、地域の農業を支えている。農家が次々と抜けていけば、そこに蓄積された経験やつながりが、ぽっかりと空いてしまうことになるのだ。
「若い人たちを育てるのも大切だけど、今、頑張っている人たちが少しでも長く続けられる方法を考えないと……」
僕は、心の中でつぶやいた。
年々厳しくなる猛暑、人手不足と人件費の高騰、上がり続ける資材の価格……。斎藤さんの奥さんの言葉が、また頭をよぎった。

「うちの息子たちにも、そろそろ引退したらって言われちゃって…」と、申し訳なさそうに微笑む2人。
そんな表情を見てしまったら、強く引き止めることなんてできなかった。
そして、改めてこんな思いが浮かんできた。「もっと早く、若手の育成に本腰を入れておけばよかったのかもしれないな……」
僕の胸の中に、後悔の念が広がった。でも、後ろばかり見ていられない。いま何ができるか、これからどうすればいいのか。その答えを探すために、僕は再び前を向くことにした。

レベル32の獲得スキル「大量離農時代を見据えた環境整備にも目を向けよ!」

以前からささやかれてきた高齢農家の大量離農問題。人口のボリュームゾーンである団塊の世代が「後期高齢者」の年齢に突入し、今後は加速度的に離農が進んでいくことになる。地域の農家たちが集まり、一定の栽培面積・収量・品質を維持することで価格交渉力を維持してきた部会・組合などにとっては、「数年間で大量の農家が一気に辞める」というのは、まさに存続すら危ぶまれる危機的状況と言えるだろう。

農家の育成には、それなりの時間がかかる。一定のマニュアル化はできるかもしれないが、最終的には経験が大きくモノを言う世界だからである。そこまで危機感を抱いていない農家も、本格的な大量離農時代を見据え、若手の育成に早くから着手するなど、早期に手を打つ必要がある。その一方で「農家で活躍できる“寿命”をいかに長くするか」を考え、先端的な技術やノウハウを取り入れながら、省力化・省人化を図ることもより一層大切になっていきそうだ。

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