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「乾田直播」導入前に知りたいメリット・デメリットや対処法を解説

相馬はじめ

ライター:

「乾田直播」導入前に知りたいメリット・デメリットや対処法を解説

米作りのコストを下げつつ、春の忙しさからも解放されたい……。そんな願いを叶える技術として「乾田直播」が注目されています。しかし、それらのメリットの裏には、移植栽培にはない特有のデメリットも潜んでいます。この記事では、乾田直播がもたらす省力化とコスト削減の具体的なメリットを解説。さらに、つまずきやすい出芽の不安定さや雑草対策といったデメリットへの対処法まで、失敗しないための導入ガイドとしてお伝えします。

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乾田直播のメリット:省力化とコスト削減

乾田直播メリット一覧 

乾田直播は、米の生産費の半分を占める人件費と、農機具費を削減することを目的とした低コスト化のための技術です。したがって、乾田直播を導入するメリットは、春の忙しさの解消と、それに伴う経営コストの大幅な削減にあります。

メリット1|作業負担の省力化

乾田直播の大きなメリットは、移植栽培に必要不可欠であった育苗から代かき、田植え作業が不要となることです。
移植栽培の場合、地域のルール(水利慣行)に応じて、入水、代かき、移植、除草剤散布といった一連の作業が毎年同じ時期に集中するため、忙しさのピークが生まれています。
これに対し乾田直播は、育苗や代かき、田植えが不要となるため、労働時間を短縮できます。春の作業が本格化する前(3~4月ごろ)に、田んぼの準備や播種作業を終えられることに加え、育苗ハウスも不要です。

メリット2|コストカットと投資効率の向上

機械の使い回しによる効率化

乾田直播は、経営におけるコストと投資の両面にも、メリットをもたらします。
実証試験では、育苗や移植にかかる手間がなくなったことで、米60kg当たりの生産費用が東北平均の約54~69%にまで抑えられた事例があります。これは、米生産費の大きな割合を占める人件費が削減されたことが主な要因です。加えて、倒伏しにくく単収が高い乾田直播に適した品種「萌えみのり」の導入も、この成果に寄与していると報告されています。

また、機械導入の懸念も、乾田直播なら解消できます。使用する「グレンドリル」や「プラウ」は、麦や大豆でも使える汎用機械だからです。これらを米・麦・大豆の輪作体系で使い回すことで、機械の稼働率を高め、投資コストを効率よく回収することが可能になります。

メリット3|日々の細かな作業性も向上

乾田直播は、日々の細かな作業がしやすくなる点も、現場の農家から評価されています。
例えば、代かきを行わない圃場では、トラクターなどが走行しても地面がぬかるみにくく、固さも保たれます。そのため「入水前の除草剤散布なども、足元が安定していて楽に行える」といった声があります
また、入水時にゴミやアクがほとんど浮かないのも特長です。これにより、水面のゴミを取り除く手間が省け、その後の水管理が容易になります。

メリット4|経営規模の拡大促進

大規模化に有利

乾田直播は作業時期の分散や省力化を通じて、経営規模の拡大にも貢献します。一区画あたりの作業時間を短縮でき、限られた人員でより広い面積を管理できるようになるからです。
実際に、乾田直播の導入による労働時間の短縮効果は、実証試験でも明らかです。ある2年3作体系の実証試験では、水稲乾田直播栽培の10アール当たりの投下労働時間は、5.4時間と試算されました。これは、東北地方の平均的な移植栽培の24.5時間と比較して大幅な削減であり、より少ない労力で栽培が可能であることを示しています。

乾田直播のデメリット:導入前に知っておきたいリスク

乾田直播デメリット一覧

乾田直播は、作業の省力化やコスト削減といった大きなメリットがある一方、移植栽培にはない特有の課題やデメリットがあります。

デメリット1|出芽の不安定さ

まず挙げられるのが、出芽不良のリスクです。出芽不良の要因には、播種後の土壌のコンディションが関係します。土が乾燥しすぎると、種子への水の供給がうまくいかず、発芽が遅れる可能性があります。

土の過乾燥への対処としては、土壌表面を柔らかくしたり水分を供給したりする目的でフラッシング(走り水)を行うことがあります。ただしフラッシングは、土の目が詰まり酸素不足を引き起こす場合や、田んぼにムラができるため、十分考慮することが求められます。

また、田んぼの高低差は、出芽後の苗立ち率を低下させる原因になります。低い部分は水が溜まり、その状態が数日以上続くと、籾が酸欠になり腐敗してしまうためです。

デメリット2|水漏れしやすい

乾田直播をする圃場には、水田と同様の湛水の機能が求められます。しかし、移植栽培で必ず行う代かきを省略することから、漏水しやすいというデメリットがあります。
漏水しやすい田んぼは水深が安定せず、除草剤効果の低下や肥料の流出、用水量の増大といった悪影響が生じます。
そのため、乾田直播ではケンブリッジローラーなどによる鎮圧作業が漏水対策の基本となります。土壌を圧縮して隙間を減らし、地表面付近に止水層を作るためです。特に、黒ボク土のような水が抜けやすい土壌では、土が適度に湿っている状態で鎮圧すると、より高い効果が期待できます。

畔の漏水対策も忘れずに

畔(あぜ)からの水漏れ

田んぼの底だけでなく、畔(あぜ)からの水漏れにも注意が必要です。実際、畔から横方向に漏れる水は、田んぼの底から縦方向に漏れる水の3~5倍に達するという報告もあることから、重点的な対策が求められます。
具体的な対策案としては、土壌に「ベントナイト」を混ぜ込んでから、畦塗りする方法が挙げられます。また、トラクターのタイヤで畔の根元をしっかりと踏み固める作業も、漏水防止に効果的です。

デメリット3|雑草の防除コストへの懸念

乾田直播では、雑草の防除コストが増加する懸念があります。これには、代かきを行わないため雑草の種子が地表近くに残りやすく、また、稲と雑草が同時に発芽して競合するため、移植栽培よりも雑草が繁茂しやすいことが関係しています。その結果、除草剤の使用回数が増え、防除コストがかさむ可能性が指摘されています。そのため、雑草をいかに抑えるかが、乾田直播の成否を分けると言っても過言ではありません。

対策の基本は、雑草が多い圃場や初めて取り組む場合、「乾田期に2回、入水後に1回」の計3回処理を行うことです。特に4月中旬以前の早期播種では、主要雑草のノビエが稲より早く大きくなってしまうため、この3回体系が推奨されます。

乾田直播の防除体系や使える資材の詳細は、以下の記事からチェックできます。

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乾田直播のデメリットを乗り越えるノウハウ

乾田直播のデメリットを乗り越えるノウハウ

ここまで乾田直播のデメリットについて触れてきましたが、これらは正しい手順と技術でカバーできます。ここからは、リスクを最小限に抑え、安定した収量を確保するために押さえておくべき、具体的なノウハウを解説します。

苗立ちを成功させる3つの基本作業

乾田直播の成否は、圃場の準備にかかっています。特に重要なのが「均平」「鎮圧」「播種深度」の3つの基本作業です。

まず、レーザーレベラーで圃場の高低差を整える均平作業。安定した苗立ちのため、田面の高低差は10センチ以内、理想はプラス・マイナス2センチを目指します。
次に、ケンブリッジローラーで行う鎮圧作業。播種前後に土を固めることで、種子と土を密着させて苗立ちを助け、水漏れも抑制します。
最後に、種を1〜2センチの適正な深さに播く播種深度の管理。深すぎると出芽が、浅すぎると倒伏のリスクが高まります。
これら基本作業の精度を高めることが、デメリットを乗り越え、安定収量を実現する第一歩です。

施肥管理と品種選び

乾田直播で収量を安定させるには、「施肥管理」と「品種選び」がカギとなります。
施肥管理では、土壌からの窒素供給の遅れを補う工夫が重要です。効果がゆっくり持続する「緩効性肥料」を使い、窒素量を移植栽培の1.5倍に増やした基肥一発体系を基本とします。

次に品種選びのポイントは、「耐倒伏性(倒れにくさ)」です。直播に適した「萌えみのり」は、移植栽培の主力品種を上回る収量を記録した実績もあります。
倒伏しやすい品種でも栽培は可能ですが、飼料用稲などの特に背が高くなる品種は、播種量を減らすなどの特別な倒伏対策が不可欠です。

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まとめ|乾田直播のメリット・デメリット

乾田直播 メリット・デメリットまとめ

乾田直播のメリットは、育苗や代かき、移植作業を省略し、米生産費の半分を占める人件費・農機具費を削減できる点にあります。しかし、移植栽培とは栽培体系が大きく異なるため、新たな技術の習得と、デメリットへの理解が不可欠です。圃場の鎮圧や畔塗りによる漏水対策、そして入水前の乾田期間における雑草防除は、成功のカギを握る重要なポイントです。
これらの要点をしっかりと押さえ、計画的に導入すれば、乾田直播がもたらす恩恵を受けられるでしょう。

※本記事は農研機構、県の農業技術センター発行のマニュアルなどの一次情報を元に作成しています。
出典:農研機構:乾田直播栽培技術マニュアル Ver.3.2
近畿中国四国農業研究センター:飼料用稲乾田条播直播栽培マニュアル

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