異なる経歴を持つ3氏が経営ノウハウを共有

左から佐川友彦さん、中森剛志さん、小栗伸元さん
進行役の佐川友彦氏(ファームサイド株式会社代表)は「東大卒、農家の右腕従業員」として阿部梨園へ入社し、3年間で500件を超える経営改善に貢献。独立した現在は、全国各地の農業経営者と向き合い、課題解決や人材育成などを伴走支援しています。
中森剛志氏(株式会社中森農産代表)は、独立新規就農し、「食料安全保障の確保」を理念に急速な規模拡大を実現。現在は埼玉・栃木・島根・山口の4県で、米・麦・大豆・そばを生産しています。
小栗伸元氏(小栗農産代表)は、家業である農業に弟とともに参画し、富山県高岡市を拠点に水稲を中心の経営を展開。花き栽培にも着手し、家族経営を基盤に堅実な経営スタイルを築いています。
規模拡大の壁、50ヘクタールをどう越えるか
最初のテーマは、規模拡大のターニングポイント。佐川氏と共にそれぞれの経営発展の歩みを振り返りました。
新規就農から約10年で330ヘクタールまで急拡大した中森氏は、「転機は2021年頃、栽培面積が200ヘクタールの頃。JGAP導入を機にマネジメントできる人材が必要になった。権限移譲や人材育成への注力、人事評価制度の導入などによって、ようやくマネージャーが育ってきた」 と語ります。

一方、小栗氏は当初の30ヘクタールから50ヘクタールに達した時期を振り返り、「それまでの感覚的な管理が通用しなくなり、作業計画を立てる必要性があると痛感した」と話します。
農地拡大の考え方について、中森氏は地域ごとに、序盤は効率を度外視して広域に農地を集める「集積」を優先し、ある程度の規模が確保できた後に条件の良い農地を優先して「集約」されているそうです。小栗氏は、作業効率を重視し、圃場の生産性に応じて地代を変動させることにも取り組んでいると明かしました。
規模拡大をスムーズに進められる面積の目安としては、「水利条件や土質にもよりますが、平地は50ヘクタール、中山間地は30ヘクタールほどが一般的な家族経営で管理できる最大面積」と中森さん。また、総面積以外にも「圃場1枚あたりの面積が小さければ機械1台あたりの作業効率が低いので、規模の壁を突破するにはいかに反収を上げ、コストを下げるか。直播も有効な選択肢になる」と小栗さん。

佐川氏は「50ヘクタールは、経営手法を見直さなければいけない分岐点」と整理しました。
データ分析と組織作りで経営を次のステージへ
面積が大きくなるほど、経営者1人で管理するのは困難になります。小栗氏は作業計画をExcel(表計算ソフト)で管理してきましたが、最近では農業専門の生産管理アプリを導入。「入力の手間が減り、データ活用が進んだ」と手応えを語ります。
中森氏は、組織マネジメントに注力し、従業員と毎月の1on1面談を実施。「キャリアビジョンを共有し、未来を一緒に語ることが定着率向上につながる」と話しました。
オンライン参加者からの人材育成に関する質問に対し、中森氏は「未経験者はすぐには戦力にならない前提で採用することが大事」と強調。「この会社で働く意味」を伝え、社員の成長やキャリア形成に一緒に取り組み続けることが定着につながると語りました。

米価上昇時こそ計画的な投資を
「増えた利益を何に投資すべきか」という佐川氏の問いに、二人とも「機械設備への投資」を挙げました。
小栗氏は、更新頻度の低い乾燥調整施設への投資を進め、「将来的な米価下落にも備えて乾燥調整などの作業を受託できる体制を整えたい」と説明。GPSガイダンスシステムなどを搭載したトラクターなど、省力化への投資にも意欲を示しました。

中森氏は「儲かったから投資するのではなく、事業計画に沿って投資を実行することが重要」と述べ、予実管理(事業計画の進捗管理)の徹底を強調。さらに、「最良」「標準」「最悪」の3シナリオを想定し、不確実性に備えています。人材育成も投資と位置づけ、「生産性を高めることで、キャリアプランに見合った報酬を提示することが大事」と語りました。

小栗氏の妻が農業に興味を持ち始めたことに触れると、中森氏は「(一般的に、家族は外部雇用の従業員に比べて離職のリスクが低いので)小栗さんのような家族経営が、人材を長期的に維持できる最も理想的な経営体」と話しました。
参加者の8割が規模拡大を検討
イベントには約110人に参加いただきました。アンケート回答者の57%が専業農家で、約8割が規模拡大を検討しており、7割が今回のイベントの感想を「満足・概ね満足」と高く評価されました。
参加者からは、「実際に規模拡大してきた経営者の話に説得力があった」「拡大の過程や苦労が具体的に分かった」「計画ありきでの投資判断の重要性を再確認できた」「データ取得や人材育成の考え方が参考になった」といった声が寄せられました。また、「要点を突いた質問で、登壇者自身の言葉から考え方を聞けた」と、ファシリテーションを評価するコメントもありました。

闇雲に面積を増やすのではなく、自社の状況を見極め、計画的な投資と組織作りを並行することが持続的な成長の鍵となる――。その考え方が、実体験を通じて共有されたイベントでした。農業メーカー各社による資材紹介も行われ、来期に向けた実践的なヒントを得る場となりました。



















