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「生産と加工の両立が最大の強み」 福島市飯坂町・菱沼農園の6次化への挑戦

satomiki

ライター:

「生産と加工の両立が最大の強み」 福島市飯坂町・菱沼農園の6次化への挑戦

福島県福島市飯坂町で果樹の複合経営を手掛ける菱沼農園の菱沼健一(ひしぬま・けんいち)さん。東日本大震災前は年間売り上げ3000万円の家族経営だった同農園は、現在17ヘクタール、売り上げ約2億円、従業員20人超(内、正社員8人)の大規模果樹園に成長した。6次化商品の開発にも精力的に取り組み、ジュースは年間約7万本、果物の加工品は大手スーパーやホテルとも取引する。使うのは自社で栽培した果物のみ。「生産と加工の両方をできるのが一番の強み」と話す菱沼さんの6次化戦略を追った。

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戦後の開墾から始まった果樹園が、売上2億円に成長

菱沼農園はサクランボ、モモ、ブドウ、リンゴの複合経営をしている

菱沼農園はサクランボ、モモ、ブドウ、リンゴの複合経営をしている

福島市、伊達市、桑折町に計17ヘクタールの果樹園を有し、サクランボ、モモ、リンゴ、ブドウを栽培する菱沼農園。複合経営でこの規模は全国的にも希少だ。

農園の始まりは戦後にさかのぼる。父が国有地の払い下げを受け、山の土地70アールを開墾したことが原点だった。ただ、山の畑は害虫や野生動物との戦いが絶えなかった。2年連続でサルに畑を荒らされたことで、平地への移転を決断。しかし、当時は荒れた土地しか借りられず、再び開墾から始めた。

菱沼さんは、20歳で本格的に農業に参画。耕作面積が少なかったため、近隣の温泉街(飯坂温泉)での直売に力を入れていた。団体客のお土産として、夜と早朝にくだものを販売。団体客のお土産需要を捉え、試食販売で顧客を掴んだ。
その後、栽培面積を順調に増やしていった菱沼さん。震災後に法人化を決断し、現在は17ヘクタール、売上約2億円の規模に成長した。元々の販売ノウハウに加え、2人の子どもが背中を押した。娘が販売、息子が生産を担当し、組織として機能し始めたという。

年間2万本のジュース生産。リピーターを生む商品戦略

六次化主力品種の一つ「のむもも」

6次化主力品種の一つ「のむもも」

菱沼農園の加工品事業のメインは果物(リンゴ、モモ)ジュースだ。年間生産量は、1リットル瓶が約2万本、200ミリリットル瓶が約5万本。合計約7万本の物量になる。
主力商品の一つが「のむもも」。厳選したもも12品種を品種ごとに分けて搾りあげた100%の果汁ジュースだ。3品種を基本セットとし、6品種、12品種のセットを展開している。時期ごとに3品種ずつ切り替えて飲んでもらうというリピーター獲得のための設計だ。

英首相にお土産として渡されたポップコーン

英首相にお土産として渡されたポップコーン

もう一つの看板商品がフルーツポップコーン。リンゴ・桃の果汁100%を煮詰めて作った果汁シロップ「リンゴ蜜・もも蜜」をポップコーンに絡める。
実はこの商品、2022年5月に当時の岸田文雄首相がジョンソン英首相との首脳会談で一緒に味わったとして一躍有名になった。
「外務省から4個だけ注文が入ったんですが、何に使うかは分からなかった」と菱沼さん。後に、英国首相との会談で手土産として持参されたことが報道でわかり、とても驚いたという。

6次化商品以外にも、加工用のくだものやセミドライ、プレザーブも扱っている。取引先は多岐にわたり、県内の大手菓子屋や関西の大手スーパーとも契約。品種選定も戦略的だ。リンゴでは、グラニースミスや紅こはくなど、加工に適性がある品種も多く生産することで、業務用取引を支えている。

セミドライのリンゴ、生キャラメル。進化し続ける商品開発の裏側

開発中のリンゴのチョコレート菓子

開発中のリンゴのチョコレート菓子

取材当日、自社の加工場ではチョコレートテンパリング(結晶を整える技術)を施したチョコレートがけのセミドライリンゴ菓子を試作していた。規格外のリンゴを冷凍し、乾燥させてチョコレートでコーティング。口当たりがパリッとして溶けにくく、高級感のある仕上がりだ。リンゴ蜜やモモ蜜を入れた生キャラメルも開発中で、商品化に向けて最終調整中だ。

「世の中においしいものは山ほどある。その中で惹かれるようなものを出さないと売れない」と菱沼さん。娘のかおりさんが中心となり、競合商品を研究、試作を繰り返す。また、加工には専門の社員を雇用した。仕事として菓子作りの経験はないが、熱意を持った人材の確保が、商品開発のスピードを上げている。
設備投資も段階的に進める。来年は敷地内に加工場と事務所を拡大する計画だ。将来的にはカフェ併設やアイスクリーム製造も構想している。「一気にできないから、段階的に」。補助金も活用しながら、無理のない範囲で投資を進めていくという。

「物量が取引先を呼ぶ」。大手スーパーやホテルとの業務用取引

菱沼さんは「経営で考えると、生産と加工の両方ができるのが強み。農家は自分の生産物にこだわって加工をすべき」と言う。あくまでも自社で生産した果物を使い、規格外品を有効活用する。
そして重要なのが生産量だ。「量がないと対応ができない。取引先というのは、規模に応じてできるんです」と菱沼さん。17ヘクタールの栽培面積に応じた物量があるからこそ、大手スーパーやホテルとの業務用取引が成立している。規模拡大が新たな取引先を呼び、ビジネスが拡大する好循環が生まれている。

販売戦略を聞くと、「基本は人と人とのコミュニケーション。まず気に入ってもらわないと」と話す。以前は宅配する箱の中にリンゴ型の切り抜きメッセージカードを入れて送った。好評でリピーターが生まれ、その人がまた次の人を紹介する。「点があって、線ができて、面ができる」。営業をしなくても、自然と顧客が広がっていった。
現在は複数のECプラットフォームを併用している。複数展開することでリスク分散にも気を遣っているという。時代に合わせて手法は変わっても「人と人」という基本は変わらない。

「主役は果物。原料は宝」。長年の経験を糧に、さらなる進化へ

「主役は果物。原料は宝」と語る菱沼さん

「主役は果物。原料は宝」と語る菱沼さん

菱沼さんの栽培哲学は「主役は果物。原料は宝」。「木が果物を作ってくれる。私の仕事は環境条件を整えて、そのお手伝いをすること」という。
全自動のロボモアを6台導入して除草作業を省力化しているが、高密植栽培では使いづらいという課題もあった。
そこで注目したのが、樹形の改善だ。リンゴでは、中間台木を使った矮性化栽培を導入。定植3、4年目から収量が上がったのに加え、ロボモアが自由に移動できるようになった。ただし、品種によって向き不向きがある。挑戦を繰り返しながら、品種に合った栽培方法を考え抜いている。

チャレンジ精神の源泉は、「諦めないことと、後ろを振り向かないこと」。70歳を超えても、菱沼さんは新しい商品開発や設備投資を続けている。長年積み重ねた経験を活かしながら、さらに前へ進む。

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