二人の関係性に見る「JAとの付き合い方」

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秋田県大仙市・神宮寺地域。今回、お話を伺ったのはJA全農あきたの中のJA秋田おばこにコメを出荷する齊藤拓さん、そして農家さんにとっての支えでもある営農指導員の桜庭真悟さん。
テーマは「ぶっちゃけ、JAと付き合うって…価値あるの?」読者の皆様がふと疑問に思うことを正直にお話いただきました。
まず、お二人のプロフィールを簡単に紹介しておきましょう。
■齊藤 拓(さいとう たくま)さん
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大仙市神宮寺地域で約45haの水稲と、スイカや直売・飲食店向け野菜を約60a栽培する若手農家です。代数で言えば「よく分からないくらい昔から」のコメ農家。米の9割以上はJA出荷。祖父の代からずっと組合員としてJAと付き合ってきた、いわば“生え抜き”の農家です。現在、秋田おばこ農業協同組合青年部 副部長や県青年部協議会顧問なども務めています。 |
■桜庭真悟(さくらば しんご)さん
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JA秋田おばこ営農企画課で稲作と大豆を中心に営農指導を担当しています。JA管内は5つの営農センターに分かれており、各センターにはそれぞれ現場担当の営農指導員がいます。その“まとめ役”として全体の天候や生育状況を見ながら、「今年はこのタイミングで追肥の情報を出そう」「高温障害が出そうだから水管理の指導を強めよう」といった方針を決め、必要に応じて自らも現場に出て直接指導を行っています。 |
「生産者からするとJAといえば、まず営農指導員の顔が浮かぶ」と齊藤さん。
それほどまでに身近な存在である営農指導員ですが、その仕事の中身は意外と知られていません。そこで、まずは「営農指導員とは何者か」というところから話を聞きました。
「まずは聞く」から始まる、予防型の営農指導

営農指導員の仕事を一言で表すとしたら、どんなプロなのか。
そう尋ねると、桜庭さんは少し考え込んだあと、こう言いました。

営農指導というと、「こうしなさい」「ああしなさい」と上から指示を出すイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし桜庭さんは、まず“聞くこと”から始めます。
たとえば、稲の追肥についての相談。
農家からはよく「この田んぼ、追肥した方がいいべか?」と聞かれるそうです。一見すると「やるか、やらないか」の判断を求めているように聞こえますが、話をよく聞いてみると、「本当はやりたいから、どれくらいまけばいいか知りたい」という人もいれば、「できるだけコストを抑えたいから、やらないで済むならそうしたい」という人もいます。

相談の入り口もさまざまです。
朝の見回りで「なんか葉色が薄いな」と感じたら、スマホで写真を撮ってLINEで送ってくる農家もいますし、電話一本で「今から田んぼ見に来れない?」と呼び出されることもあります。
ピーク時期には、一日に10件以上の相談が舞い込むことも珍しくありません。
そうした個別相談に加え、ここ数年で桜庭さんが特に力を入れているのが、「予防型の情報発信」です。
以前は、JAの広報誌や店頭ポスターなどで栽培情報を発信していましたが、どうしても発行や設置までのタイムラグがあり、「見たころにはもう手遅れ」というケースも出てしまいます。

そこで4〜5年前から始めたのが、LINEによる稲作情報の一斉配信です。
現在、友だち登録は約1,300人。農家だけでなく、全農あきた職員はもちろんのこと、県職員や資材メーカーも登録しているため正確な割合は分かりませんが、「少なくとも大きな枠で見れば、大勢の農業関係者が見ている」と桜庭さんは話します。
配信内容は、「この時期、この地域、この天候なら、何に注意すべきか」という、きわめて実務的なものです。
苗の時期には霜注意報が出ればすぐに配信し、「ハウス内の保温を確認してください」「必要なら夜間にろうそくを灯すなどして霜対策を」と呼びかけます。夏場の干ばつが予想されるときには、「稲が夏バテしないように、今のうちに追肥を検討しましょう」「昼間に温くなった水は落水して、新しい水と入れ替えましょう」と具体的な行動レベルに落とし込んで伝えます。

こうした配信を見た農家が、「うちの地域の場合はどうすればいい?」と最寄りの営農センターに連絡し、さらに地域・圃場ごとの微調整を加えていく。
その意味で、LINE配信は「全体の空気をつくる号砲」のような役割を担っていると言えそうです。
一緒に決めるから迷わない——最悪の年を乗り越えた二人三脚

営農指導員の価値は、「情報を出すこと」だけにとどまりません。
むしろ大きいのは、その情報を現場でどう活かすか、農家と“一緒に決めていく”ところにあります。
齊藤さんの記憶に強く残っているのが、数年前の高温障害の年です。
秋田県全体で稲の登熟に大きな被害が出た年で、JA秋田おばこ管内でも、あきたこまちの一等米比率がわずか数%。二等米が9割以上を占めるという、「過去最悪クラス」の結果になりました。

そんななかで、齊藤さんたちが取り組んでいたブランド米「サキホコレ」だけは、まったく違う顔を見せます。
同じ年、同じ地域でありながら、「サキホコレ」は一等米比率が約96%。
JA秋田おばこ独自の食味コンテスト「おばこの匠」でも金賞を受賞し、その年の“ナンバーワン”に輝きました。

高温障害への対策は、一度や二度の指導で済む話ではありません。
出穂前の肥培管理から、水の張り方、追肥のタイミング、登熟期の水温管理まで、一つひとつの判断が影響します。
桜庭さんたちは、県や試験研究機関が蓄積したデータをもとに、「どの時期に何℃以上の高温が何日続くと、白濁粒や腹白のリスクが高まるのか」といった情報を整理しています。そのうえで、週間〜2週間予報をこまめにチェックし、「このタイミングで気温が上がるなら、その前に肥料を効かせておこう」「水を溜めっぱなしにするとお湯になって根がやられるから、入れ替えをこまめに」と、現場で実行可能なレベルにかみ砕いて伝えていきます。

こうした情報は、LINEだけでなく、全戸配布の営農カレンダーにも落とし込まれています。
月ごとの作業の目安だけでなく、高温障害対策のポイントもイラスト付きでわかりやすく記載し、クスッと笑える小ネタも入れながら、現場で思い出しやすい工夫がちりばめられています。

実物のカレンダー。細かに記されており、非常に分かりやすくなっている

2ページ目にはさらに細かく状況が記載されており、これも読み応え抜群です

農家のホンネ「頼ってよかった」——一人で抱え込まなくていい
営農指導員がいることで、農家の暮らしや気持ちはどう変わるのでしょうか。

齊藤さんがまず挙げたのは、「手遅れになる前に言ってくれる」という安心感でした。
苗づくりの時期に霜注意報が出たとき、LINEを見て「さすがにまずいな」と感じ、夜中にハウスでろうそくを灯して霜対策をしたこともあるそうです。干ばつが進んだ今年の夏には、「この程度の枯れならまだ持ち直すけど、ここまで行くと戻らない」というラインを事前に教えてもらえたことで、優先すべき田んぼと諦めざるを得ない田んぼの見極めに役立ちました。

一方で、齊藤さんはJAの課題にも、率直に言及します。
コメの出荷先という意味では、今、JA以外にもさまざまな選択肢があります。全量を自社で販売したり、商社や米卸に直接出荷したりする農家も増えています。目先の価格だけを比べると、「農協外に出した方が高い」というケースがあるのも事実です。

協同組合は本来、「良い時も悪い時も、お互いさま」で支え合う仕組みです。
ところが、良い年だけ農協を利用し、不利なときは離れてしまう——。
そうした動きが広がれば、長期的には産地全体の力が弱まり、「結局は自分の首を絞める」ことになりかねない。
そんなところも懸念点として挙げられています。
それでも、JA内部から見れば、営農指導は“赤字部門”です。訪問指導をしても、1回ごとにお金が入るわけではなく、カレンダーや資料作り、ガソリン代などコストばかりがかかります。


「何があっても手を抜かない」営農指導員と、「その価値を分かっているからこそ付き合い続ける」農家。
この相互の信頼関係があるからこそ、秋田のコメづくりは不安定な天気のなかでも、踏ん張れているのかもしれません。
筆者が見た“全農・JAらしさ”——せっかくあるなら使い倒してみては?
今回の取材で印象的だったのは、「JA=建物や組織」ではなく、「JA=人対人」として農家に見られている、ということでした。
雨が続けば「ハウス、大丈夫ですか?」と電話が入る。
霜注意報が出れば、夜でもLINEが飛んでくる。
高温障害の年には、過去のデータを引っ張り出しながら、一緒に対策を考えてくれる。
米価や販売先に不安があれば、「三年スパンで見たらどうか」「この品種、この出荷先ならこういう可能性がある」と、一緒に悩んでくれる。etc.
筆者が第三者目線で見たとき、シンプルに「自分が農家なら使ってみてもいいかも」と思いました。
そこで、桜庭さんに少し意地悪な質問かもしれないが「JA職員、ひいては営農指導員として農家さんに儲けてほしいですか?」と伺ったら、こう答えてくれました。

この言葉をひたすら繰り返し、その後こう言いました。

秋田県内全体を見た際、まだJAにコメを出したことがない農家さんも多くいます。
「自分でやってきたから、今さら相談するのも…」とためらっている方もいるかもしれません。
「LINEって登録できますか?」
「今年、高温障害が怖いんだけど、うちの田んぼどう見えますか?」
「JAに出した場合と、自分で売る場合の違いを教えてほしいんです」
そんな素朴な一言からで、十分です。
営農指導員は、専門用語をできるだけ使わず、あなたの田んぼの“本音”を聞き取りながら、一緒に考えてくれるはずです。
顔が見える距離感で、すぐに動いてくれるフットワーク。
「初めてでも大丈夫」と言ってくれる人が、JAにはいました。
明日の朝の田んぼ見回りで、もし少しでも「気になる」ところがあったら——。
その足で、あるいはスマホを手に取って、最寄りの営農センターに相談をしてみませんか。
“秋田のコメづくりの相棒”は、もうとなりの田んぼにいるのかもしれません。
■インタビュアー_マイナビ農業制作部 川合 真央
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2015年7月株式会社マイナビに中途入社。アルバイト求人情報を扱う部署へ配属。大手企業中心に企画・制作を行う。2024年10月にマイナビ農業へ。「農家をもっとHAPPYに」の事業テーマに合わせ日々幅広く企画・制作を行う。 |


















