果樹の肥料は「来年の収穫」まで考える
野菜に追肥するときは、葉の色や伸びを見ながら「そろそろかな」と考えますよね。果樹でも観察は必要なのですが、野菜よりも少し長い目で見ることになります。なにしろ、同じ木と何十年も付き合うのです。今年まいた肥料が、来年の芽吹きや開花につながっていきます。
果樹は、根から吸った養分や、葉が光合成で作った糖などの一部を、枝や幹、根に蓄えています。春の芽吹きや開花を支えるいわば貯金です。まいた翌日に葉が青々としなくても、そこで慌てて肥料を追加しないでください。
そもそも、肥料をまく日と、木がその養分を使う日は同じとは限りません。有機質肥料なら分解を待つものが多いですし、根の働きも地温や土の水分で変わります。育てる側は今日にでも効いてほしい。でも、木にも土にも都合がある。その時間差を頭に入れておくと、むやみに肥料を足さずに済みます。
もう一つ、枝葉が立派なら実もたくさんなる、とは限らないところが厄介です。緑は見事なのに、収穫するものがない。庭木としては元気でも、果樹としては少々困ります。見たいのは、枝葉の生育と実をならせることのバランスです。
まず知っておきたい、肥料の成分と効き方
袋の数字は「窒素・リン酸・カリ」の順
肥料売り場へ行くと、袋に「5・5・5」などの数字が並んでいます。これは一般に窒素、リン酸、カリの成分割合(%)です。窒素は葉や枝の生育、リン酸はエネルギーのやりとりや生育、カリは水分調節などに関わります。大きく書かれた商品名だけでなく、成分表示も見てみてください。
「窒素は葉、リン酸は実、カリは根」と聞いたことがあるかもしれません。覚える入口にはなるのですが、木の中でそこまできっぱり担当が分かれているわけではありません。リン酸を増やせば実も増える、という足し算にはならないのです。土に何があり、木に何が足りないかで、補う成分は変わります。
とくに窒素は、足りなくても多すぎても困ります。不足すれば生育が弱り、過剰なら枝葉が伸びすぎて、実のつき方や品質に影響する場合があります。実を食べたくて肥料を増やしたのに、増えたのは剪定(せんてい)の仕事。そんなことにもなりかねません。
有機質肥料も、種類によって性質が違う
油かす、骨粉、魚粉などを原料にした有機質肥料は、土の微生物による分解を経て、養分が利用されるものが多くあります。ゆっくり効くタイプは、長い期間を見通して育てる果樹の元肥の選択肢になります。
ただし、「有機なら全部ゆっくり」「化学肥料なら全部すぐ効く」とは限りません。鶏ふんのように比較的早く効く成分を含むものもあれば、化学肥料にも効き方を調節した製品があります。有機か化学かという名前だけでなく、成分量や肥効の説明を見て選びましょう。
油かすはおなじみの肥料ですが、それ1種類でいつも間に合うとは限りません。迷ったら、育てている果樹に使えると表示された、有機質を含んだ配合肥料から選ぶと分かりやすいでしょう。油かすに骨粉や魚粉など、複数の原料を組み合わせたものです。ただ、「配合」と書いてあれば有機質100%というわけではないので、原料も確認してください。

堆肥を入れた分も、肥料の計画に含める
堆肥(たいひ)にも肥料成分は含まれます。さらに、牛ふん、鶏ふん、植物を主体にしたものでは、成分量も分解の速さもさまざま。同じ一袋でも、土の状態を整える働きと、養分を補う働きの比重が違います。
「これは土づくり用だから、肥料とは別腹」ということにはなりません。毎年入れている堆肥からも養分が供給されるので、その種類と量を覚えておきましょう。堆肥を使ったあとで配合肥料も足すなら、成分がどれくらい重なるか、いったん袋を見比べてみてください。
逆に、土がふかふかになったからといって、必要な養分まで十分にそろったとは限りません。水や空気の通り道を整えたいのか、足りない養分を補いたいのか。買う前に、目的を確かめておくと選びやすくなります。資材を次々に足すと、自分でも何をどれだけ入れたか分からなくなってしまいます。
落葉果樹の元肥と、ミカンの施肥を分けて考える
落葉果樹は、次の生育に備える元肥が大切
モモ、ウメ、ナシ、リンゴなど、冬に葉を落とす果樹では、1年間の生育の土台となる肥料を「元肥(もとごえ)」として施します。秋から冬に与える方法が広く行われ、冬の施肥は「寒肥(かんごえ)」とも呼ばれます。
「これから葉っぱが落ちるのに、今やるの?」と思いますよね。せっかく買った肥料を、ただ地面に置いて帰るようで心細い。しかし、秋のうちに木へ養分を蓄えさせたり、土の中で肥料の分解を進めたりするのは、次の生育のための準備です。見えるところが静かだからといって、無駄とは限りません。
とはいえ、冬じゅうどの木もせっせと養分を吸っている、という話でもありません。寒くなれば根や微生物の活動は鈍ります。いつまくのがよいかは、樹種、地域、使う肥料次第。秋から冬という大枠をつかんだら、自分の育てている果樹の栽培暦で、具体的な時期を確かめておきましょう。
ウメやモモのように春の動き出しが早い果樹もあります。庭に何種類か植えていると、同じ日にまとめて済ませたくなりますが、人間の休日に全部の木が合わせてくれるわけではありません。次の芽吹きに間に合うよう、それぞれの予定を見てやってください。
常緑のミカンに、落葉果樹の予定を当てはめない
ミカンなどのかんきつ類は、冬も葉を残す常緑果樹です。落葉果樹と同じ日程で元肥を与えればよい、とは考えないでください。温州(うんしゅう)ミカンでは春肥や秋肥を組み合わせる方法が一般的で、品種や収穫時期などによって配分も変わります。
春の施肥と収穫後のお礼肥(おれいごえ)を考えるにしても、配分はかんきつの種類や収穫時期で変わります(お礼肥については後ほど説明します)。冬も緑の葉があるので元気いっぱいに見えますが、低温期には生育も養分吸収も鈍ります。見た目だけで追加せず、地域の施肥基準と照らし合わせてください。

落葉果樹と常緑果樹の施肥カレンダー(ウメ・温州ミカンの例)
※ ウメは元肥とお礼肥を抜き出した例ですが、色の付いた月すべてで施肥する意味ではありません。初心者は芽吹き・開花期の追肥を控え、落葉果樹のお礼肥は大量に実がなった年だけ検討します。ミカンの夏肥も、樹勢を見て必要性を判断してください。
肥料は幹の足元ではなく、根の広がりを考えてまく
木に肥料をあげようと思うと、つい幹の足元を狙いたくなります。木の本体がそこにあるので、気持ちはよく分かります。ただ、幹の近くには木を支える太い根が多く、水や養分を吸う細い根は、もっと外側にも広がっています。届けたい相手は、その細い根です。
庭植えの果樹なら、最も広がった枝の先から地面へ線を下ろした辺りを一つの目安にします。枝葉が広がる部分を「樹冠(じゅかん)」といい、その外周付近を意識して、ドーナツ状に広くまくイメージです。ただし、地下の根が地上の枝と全く同じ形に伸びているわけではありません。
根は、土質や水のある場所などに応じて伸びていきます。きれいな円を描いて待ってくれているわけではないので、樹冠の外周はあくまで目安。根が伸びられる土の範囲を見ながら、広く散らしてまいてください。
塀や舗装があって一周できない場合もあります。そのとき、限られた狭い場所へ一周分をまとめて入れるのは避けてください。施せる土の範囲と製品の使用量に合わせて調整します。深い穴を掘ればよく効くとは限らず、根を傷めることもあるので、表面散布や軽い混和をするなど製品の使い方に従いましょう。
鉢植えでは、狭い土の中に根が集まっています。大きな庭木と同じ量を使わず、鉢の大きさに応じた表示量で、株元へ固めずに施してください。

「1本に何キロ」より、木の大きさと実の量を見る
「1本に5キロ」を、小さな苗木にまかない
樹種にもよりますが成木の場合、肥料の量は5・5・5程度の配合肥料で1本に5キロほど。「そんなに!」と思うかもしれません。これは広い場所で育った大きな成木から、農家のようにたくさん収穫する場合の話です。買ってきたばかりの苗木や家庭の鉢植えへ、そのまま5キロをまくという意味ではありません。たくさんなったらたくさんあげて、ならなかったら肥料はやらなくても大丈夫。
同じ1本でも、植えて間もない木と、10年以上育てて樹冠が広がった木では必要量が違います。さらに、同じ重さでも肥料の成分濃度が違えば、与える養分量も変わります。窒素5%の肥料1キロには窒素が50グラム、10%なら100グラム含まれる計算ですので、5・5・5と書かれている肥料より、8・8・8と書かれている肥料の方が濃く、与える量も少なくしなければいけません。
製品の標準量を出発点に、樹齢や大きさ、前年の施肥と収穫を見て調整します。堆肥や近くの菜園にまいた肥料からも養分を吸うことがあるので、その分も忘れずに。
木は不確定要素が多すぎるので、厳密な計算は難しいかもしれません。あまり厳密に考える必要はなく、「去年このくらいやったからとても枝が伸びているな、ちょっと減らしてみるか」など、長年かけて木の性格を見ながら調整することの方が大切です。

枝葉ばかり茂る木には、追加する前に立ち止まる
今年も実がならない。でも、葉は濃い緑で、枝だけはずいぶん長い。こういう木に「もっと頑張れ」と肥料を足す前に、ちょっと待ってください。すでに窒素が効きすぎている可能性があります。木は元気なのに、肥料不足だと思い込んでいないか。ここはよく見たいところです。
実がならない理由は、ほかにもあります。木がまだ若い、受粉できていない、剪定で花芽を落とした、日当たりが悪い。葉や枝の勢いと、花・実の様子をセットで見ると、原因を絞りやすくなります。
生育が弱いときも、いきなり肥料を増量せず、根元の土を見てください。過湿や乾燥、根の傷みが原因なら、肥料を足しても十分には吸えません。
収穫後のお礼肥は、木の回復と次の花のために
収穫が終わると、育てる側は一仕事終えた気分になります。食べておいしかったら、なおさらです。ただ、たくさん実をならせた木からは、収穫物と一緒に養分も持ち出されています。その分を補い、回復や次の生育を助けるのが「お礼肥」。よくできた名前ですね。
落葉果樹の多くは、前年のうちから次の花芽を作ります。時期は樹種によりますが、実を育てながら翌年の準備もしているわけです。今年ならせすぎると、翌年に影響することがあります。
だから、お礼肥をまけば帳尻が合うわけではなく、摘果や、葉を健全に保つ管理も欠かせません。せっかくついた実を落とすのは惜しいものですが、全部ならせて弱らせたあとに肥料で埋め合わせるのは難しい。来年も食べたいなら、今年の欲張り具合も少し調整しましょう。
量の考え方としては、落葉果樹のお礼肥を元肥の5分の1から3分の1程度と考えます。しかしこれも、その数字だけを切り取らず、肥料の成分や木の勢い、収穫量と合わせて考えてください。遅い時期に収穫する果樹では、収穫後にまいても吸収が間に合わないこともあります。
春の芽出しや開花期、実が育っている途中の追肥に関して解説される園芸情報も多いですが、これにはさらに複雑な判断が要ります。私は家庭果樹においては与えない方が良いと考えています。花が咲いてうれしいから一握り、実がついてうれしいからもう一握り、とお祝いのたびにまくのはやめておきましょう。まずは年に1回の元肥と、なりすぎた年だけに必要なお礼肥。その役割をつかんでから、それ以外の追肥を考えても遅くありません。
去年の一握りを、今年は思い出せますか
同じ果樹でも、日当たりや土、育てたい大きさによって必要な肥料は変わります。果樹園と小さな庭では、目指す収穫量も違いますよね。よその施肥量を参考にしつつ、自分の木と照らし合わせてみましょう。
「去年もこのくらいだったはず」は、意外と当てになりません。商品の袋を写真に撮り、まいた日と量を残しておくだけでも違います。そこへ枝の伸び、葉の色、花や実の数、収穫量を加えれば、来年の自分が助かります。「たくさん花が咲いてる」「実が少ない」「葉っぱが少ない」などの状況が分かる写真、まいた肥料の写真をスマホで撮っておくと、数年たった時に、「ああ、この年はよくなっているな。肥料はどうしてたっけ」などがよく分かります。

スマホの写真と一緒に、近くの野菜畑に追肥したこと、枝を強く切ったこと、実を多く残したこと、そうした作業内容も書き添えると、肥料以外に生育へ影響したことを振り返れます。
肥料の銘柄も量も時期も一度に変えると、何が効いたのか分からなくなります。変えた点をメモして、翌年と比べてみてください。
迷ったら、写真と記録を持って地域のJAなどへ相談を。また、土壌診断も養分の過不足を知る助けになります。
肥料の袋を持って庭へ出たら、まく前に一度、木を見上げてみてください。枝は伸びすぎていないか。今年はどれだけ実をならせたか。
全ての木や全ての状況に共通の指標がない、世界に1本の木。あなたの寿命と同じくらい生きるかもしれませんので、こちらの気合いだけで量を決めず、その年の様子を見ながら付き合っていきたいものです。

















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