監修者プロフィール
けんゆー(上原賢祐)。大学院の博士課程を中退し、生まれ故郷の沖縄県でアボカドなどの果樹や野菜、多品目の植物を栽培している。Youtubeチャンネル「けんゆーの農ライフ!」やオンラインサロンで栽培ノウハウの情報発信を行う傍ら、日本熱帯果樹協会の理事を務める。合同会社ねったいを創業し、苗木の生産・販売も手掛けている。
センチピードグラスとは?手間いらずで人気の芝生

センチピードグラス(和名:ムカデシバ/学名:Eremochloa ophiuroides) は、中国南部から東南アジアの温暖な地域を原産とする暖地型芝の多年草。日本では特に関東以西の西南暖地を中心に広く栽培されています。その名前の通り、ムカデ(センチピード)のように地上を這う「ほふく茎」を四方に力強く伸ばして成長し、高密度でやわらかなグリーンの芝生を形成します。

センチピードグラスの3つの特徴
センチピードグラスが近年高い人気を集めるのには、主に3つの優れた実用的な理由があります。
雑草の生育を抑制する「アレロパシー効果」
センチピードグラスは、他の植物の生育を抑制する天然の化学物質を根から放出する「アレロパシー効果」を備えており、農研機構などの研究でも雑草抑制効果が報告されています。
成長すると緻密なマット状に地面を覆うため、飛来した雑草の種子が土に触れにくく、日光も遮断します。この相乗効果により、定着後の草むしりの手間を劇的に減らすことが可能です。
近年は水田管理の中でも重労働とされる畦畔管理について、ムカデシバによる省力化と資材費の削減が図られています。

岡山県総社市原地区の畦畔(出典:岡山県)

芝刈りや肥料やりが少なく済む
高麗芝(コウライシバ)などのように頻繁に芝刈りをしたり、定期的に多くの肥料を投入したりする必要がありません。センチピードグラスは上方向への生長が比較的緩やかで、一般的な芝生と比べて芝刈りの回数を減らしやすい特徴があります。草丈は品種や栽培環境によって異なりますが、改良品種「ティフ・ブレア」では10〜25cm程度になるとされています。
また、痩せた土壌や酸性土壌でも育つ性質(低肥沃土適応性)があるため、維持コストを最小限に抑えられます。
横に伸びる「ほふく茎」で高密度の芝生に
種をまいた後や苗を植えた後は、地上を這う茎(ランナー)が横方向へ旺盛に広がります。茎同士が複雑に絡み合うことで、踏み心地がやわらかく密度の高い芝生へと仕上がります。

あらかじめ知っておきたい! センチピードグラスのデメリット
非常にメリットの多いセンチピードグラスですが、導入後に後悔しないよう、以下のデメリットも必ず押さえておきましょう。
・初期生育が遅い
時期にもよりますが、 種まきから発芽までに8~40日程度かかります。芽が出揃って地面が緑で覆われるまでには一定の時間がかかるため、初期の水やり管理と雑草対策が不可欠です。
・冬は休眠して茶色くなる
暖地型芝生のため、秋の終わりから気温が下がると休眠期に入り、冬の間は地上部が完全に茶色く枯れた状態になります(春に気温が20℃近くまで上がると再び芽吹きます)。一年中緑を保ちたい方には不向きです。
・均一な見た目にはならない
葉幅がやや広く(3〜10mm程度)、ゴルフ場のような繊細で均一な見た目にはなりません。少し野趣あふれる自然な風合いになります。美観を重視したい場合は、環境適応性や、定着後の被覆能力が高く葉が揃いやすい改良品種(ティフブレアなど)を選ぶのがおすすめです。
センチピードグラスを増やす2つの方法
センチピードグラスを広げる方法は、大きく分けて「種まき」と「株分け(苗の移植)」の2種類があります。 下記の表では、それぞれの利点などをまとめました。
| 種まき | 株分け(苗の移植) | |
|---|---|---|
| おすすめの広さ | 庭全体・広範囲(10㎡以上〜) | 狭い範囲・部分補修(〜数㎡) |
| 初期費用 | 安い(種代のみ) | ほぼ無料(庭の既存株を使う場合) |
| 定着までの手間 | 2〜3週間の厳密な水やりが必要 | 活着しやすく失敗が少ない |
| 作業の労力 | 土作りをしてまくだけで手軽 | スコップで親株を掘り出す力仕事 |
| 緑化スピード | 全体が一斉に広がる | スポットから徐々に広がる |
【手順解説】センチピードグラスの種まき
費用を抑えて広範囲を一気に緑化したい場合は「種まき」が最適です。 種子さえ手に入れば誰でもすぐに始められる一方、発芽するまでの約2週間から3週間は毎日水やりをする必要があります。その間に大雨で種が流されてしまったり、乾燥によって発芽が失敗したりするなどの失敗リスクがある点は留意しておくべきでしょう。また、初期段階でのきめ細かな雑草管理も求められます。
種まきに適した時期と準備するもの
適期:5月中旬〜7月
発芽適温は20℃〜30℃です。地温が十分に上がり、梅雨の自然な降雨が期待できる初夏が最も成功率が高くなります(西南暖地では4月下旬〜8月頃まで可能)。
準備するもの
・センチピードグラスの種
・レーキ(トンボ)
・目土(川砂、または目の細かい市販の芝生用目土)
・ハス口の細かいジョウロ(または散水ノズル)
・踏圧用の板(足踏みでも代用可)
STEP1:土壌の準備
1. まく場所の雑草を根からしっかり抜き取り、小石やゴミを取り除きます。
2. 深さ10cmほど耕して土をほぐします(水はけが悪い粘土質の場合は、川砂を混ぜて土壌改良します)。
3. レーキを使って凸凹がないよう、平らにならします。地面に凹凸があると水たまりができ、種が流れて発芽ムラの原因になります。
STEP2:種のまき方
センチピードグラスの種子は非常に細かいため、風のない穏やかな日を選びます。 均一にまくコツは、種を半分に分け、「1回目は縦方向」「2回目は横方向」と向きを変えてまく「交差まき」を行うこと。こうすることで、ムラなく均一に散布できます。
STEP3:目土と鎮圧
1. まいた種の上に、厚さ3mm〜5mm程度のごく薄い目土をかけます。
※センチピードグラスは「好光性(光を浴びることで発芽が促される)」の性質を持ちます。土を厚くかぶせすぎると発芽率が著しく下がるため、種がうっすら隠れる程度にとどめてください
2. 平らな板を敷いて上から乗るか、足で軽く踏み固めて「鎮圧」し、種と土を密着させます。
STEP4:発芽までの水やり
発芽までの2〜3週間は、土の表面を絶対に乾かさないことが最大の成功ポイントです。 水圧が強いと種が流れてしまうため、シャワーを上に向けて細かい水流を降らせるように優しく散水します。気温が高い日は、朝と夕方の1日2回を目安に水やりを行ってください。

【失敗しないコツ】種まきの注意点
種まきにおける最大の失敗原因は「途中の乾燥」と「大雨による流亡」です。これを防ぐために、あらかじめ週間天気予報を確認し、数日間大雨の心配がないタイミングを見計らって種をまきましょう。また、どうしても乾燥しやすい場所や斜面では、不織布や遮光ネットを地面にベタがけしておくことで、水分の蒸発を防ぎつつ種が流れるのを防ぐことができます。もし部分的に発芽しなかったムラができた場合は、その部分だけ「追いまき」を行って補修しましょう。

【手順解説】センチピードグラスの株分け
「すでに庭の一部にある芝を別の場所に広げたい」「枯れてハゲてしまった部分を補修したい」という場合は、株分けが確実です。すでに根や葉が発達しているため、過酷な乾燥や雑草の競争に強く、確実に活着しやすいというメリットがあります。デメリットとしては、親株からスコップなどで切り出す作業に一定の労力がかかること、一度に広大な面積を緑化するのには向かないことが挙げられます。
株分けに適した時期と準備するもの
適期:5月〜8月
植物の生育が最も活発な夏場に行います。気温が高い時期は根の活着・成長が早く、失敗が少なくなります。
準備するもの
・移植ゴテ(細身のスコップ)
・ハサミ
・水を入れたバケツ
・散水用具・目土
STEP1:親株の切り出し
1. 元気に茂っているエリアから、直径5〜10cm程度の大きさで、根と土をつけたままスコップでくり抜きます。
2. 一箇所だけを大きく掘ると親株のダメージになるため、間隔を空けて点々とくり抜きましょう。
3. 掘り上げた株の根が乾くと一気に弱るため、すぐに水を入れたバケツに浸けておきます。
STEP2:植え付け
1. 移植先の土をほぐし、くり抜いた苗と同じ深さの植え穴を掘ります。
2. 30cm〜50cmほどの間隔を空けて苗を配置します。「間隔が広すぎるのでは?」と感じるかもしれませんが、旺盛にランナーが伸びるため、2〜3ヶ月で間が埋まります。
3. 苗を穴に入れ、周りに土を戻したら、足で軽く踏んで土と密着させます。
STEP3:活着までの管理
植え付け後、新しい根が張るまでの約2週間は毎日しっかりと水を与えます。葉が立ち上がり、横から新しいランナーが伸び始めたら活着(根付き)成功のサインです。

センチピードグラスの年間管理スケジュール
手間がかからないセンチピードグラスですが、美しさを末長く保ち、管理をさらに楽にするためには、季節に応じた適切なアクションを起こすことが重要です。
春(3月~5月):日当たりと通気性を確保
3月から4月にかけて、地温の上昇とともにセンチピードグラスが茶色い休眠状態から目覚め、少しずつ緑色の新芽が顔をのぞかせます。この時期には、冬の間に溜まった枯葉やゴミを取り除く「サッチング」を軽く行い、地表への日当たりと通気性を良くしてあげます。5月に入り、気温が20度を超えてきたら、種まきや株分けの最適なシーズンに突入します。
夏(6月~8月):生育期の管理
センチピードグラスが最も勢いよく成長する時期です。ほふく茎が四方に伸び、雑草を凌駕する密度を作っていきます。基本的には雨水だけで十分に育ちますが、一週間以上雨が降らず土壌がひび割れるような乾燥が続く場合は、早朝にたっぷりと散水します。草丈が10センチメートルを超えてきて見た目が気になり始めたら、お好みの高さ(目安は3センチメートルから5センチメートル)に一度芝刈りを行いましょう。
秋(9月~11月):冬越しの準備
朝晩の気温が下がり始めると、センチピードグラスの成長スピードは緩やかになり、徐々に休眠の準備に入ります。この時期は無理に刈り込まず、ある程度の葉の長さを残しておくことで、冬の発根部への寒さダメージを和らげることができます。10月後半から11月頃には、緑色が抜け始め、全体が黄色から茶色へと変化していきます。
冬(12月~2月):休眠期
完全な休眠期となり、地上部は枯れた状態になりますが、土の中の根やほふく茎はしっかりと生きています。この時期の作業は基本的に何もありません。メンテナンスフリーの時間をゆっくり楽しみましょう。ただし、霜が強く降りる寒い地域では、休眠中の芝生を過度に踏みつけると、翌春の芽吹きに影響を与えることがあるため、不要な立ち入りは避けましょう。
センチピードグラスに関してよくある質問
Q. おすすめの品種はありますか?
家庭用として最も自信を持っておすすめできるのは、タキイ種苗などが扱っている改良品種「ティフ・ブレア」です。野生種に比べて初期生育がやや早く、葉の幅が細かく密度が非常に高くなるため、見た目がより上品な芝生に仕上がります。さらに、耐寒性が強いため、従来の品種よりも広いエリアでの越冬が可能です。
Q. 芝刈りの頻度と高さの目安は?
センチピードグラスは、一般的な芝生のように毎週のように刈り込む必要はありません。基本的には、年間に1回から3回程度、伸びすぎたと感じたタイミングで行うだけで十分です。刈り込みの高さは、3~5センチメートル程度と、少し高めに設定するのが生育を健全に保つ秘訣。短く刈り込みすぎるとダメージが大きくなります。
Q. 害虫や病気の心配はありますか?
センチピードグラスは非常に強健で病害虫に強く、一般的な芝生で問題となるような大きな病気にかかることはほとんどありません。ただし、土壌の水はけが悪く極端に過湿な状態が続くと、根腐れを引き起こしたり、カビ系の病気が発生したりすることがあります。土壌作りの段階で水はけを確保しておくことが一番の予防策です。
Q. 既存の芝生(高麗芝など)から切り替えられますか?
高麗芝がすでに美しく生え揃っている場所からセンチピードグラスへ直接切り替えるのは、少しコツが必要です。そのまま上から種をまいても、高麗芝の強力な根や密度に負けて発芽できません。切り替える場合は、一度高麗芝をスコップなどで剥ぎ取るか、除草剤等で完全に枯らして土作りをし直してから、センチピードグラスの種まきや株分けを行うのが、結局は一番の近道となります。
まとめ
センチピードグラスは、仕事や家事で忙しく、お庭の手入れに多くの時間を割けない方にぴったりの選択肢です。初期の発芽や定着までの水やり管理を丁寧にクリアしさえすれば、その後は驚くほどローメンテナンスで、雑草に悩まされない豊かなグリーンの空間を長く維持することができます。広範囲に安く仕上げたいなら「種まき」、失敗を避け少しずつ丁寧に育てたいなら「株分け」と、ご自身の庭の状況と好みに合わせて、ぜひチャレンジしてみてください。自分で手間をかけて育てた美しい緑の庭は、家族との大切な時間をより心地よく、豊かなものにしてくれるはずです。

















