農地相続にかかる税金とは?必要な手続きを確認
農地相続には、どのような税金がかかるのでしょうか。
必要な手続きと併せて解説します。
農地相続にかかる基本的な税金
農地の相続時には、相続財産に応じた相続税の他、登記にかかる登録免許税がかかります。
相続時に被相続人から相続人に所有権を移転するための登記を相続登記といいますが、相続登記を司法書士に依頼する場合は司法書士に支払う報酬も必要です。
相続税の申告・納税は期限内に
相続税の申告・納税期限は「相続があることを知ったときから10ヵ月以内」です。
相続財産の中に農地や古家などの不動産がある場合は、相続税の納税資金が問題になるケースが少なくありません。
したがって、早い段階で準備を始めることが大切です。
相続には農業委員会への届け出も必要
農地を相続する際は、その旨を農業委員会に届け出る必要があります。
農業委員会への届け出の期限も、相続税の納税期限と同じく10ヵ月以内です。
農地を相続する際の税金(相続税)の評価
ここでは、農地を相続する際の税金の評価について解説します。
農地の4分類
相続税の計算上、農地は以下の4つに分類されます。
- 純農地:宅地の影響を受けない農地
- 中間農地:都市近郊にある農地
- 市街地周辺農地:宅地化傾向の強い農地
- 市街地農地:市街地区域内にある農地
また、農地が上記のどれに属するかによって、評価方法が異なります。
- 純農地および中間農地:倍率方式
- 市街地周辺農地:市街地農地であるとした場合の価格の80%
- 市街地農地:宅地批准方式又は倍率方式
農地の価値がどれくらいあり、税金がいくらになるのかを具体的に知るために、早い段階で不動産会社の査定を受けておくとよいでしょう。
農地の査定は、農地売買を得意とする不動産会社に依頼することで、より正確に価値を見極めることができます。
リビンマッチであれば、全国約1,700社から売却物件にマッチした不動産会社の紹介を受けられます。
農地の価値を調べる際は、リビンマッチの利用がおすすめです。
相続税の計算方法
相続税の計算では、農地を含めた相続財産すべての金額を算出し、そこから基礎控除額を差し引きます。
基礎控除額は以下の計算式に当てはめることで求められます。
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3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
基礎控除額を差し引いた後、残額がある場合は法定相続人を確定し、相続税の総額を算出します。
計算した総額をもとに実際の相続割合で遺産分割を行い、各人の相続税を算定するという流れで相続税額が確定します。
例えば、故人に妻と子2人がおり、1億円分の相続財産があるケースを考えてみましょう。
この場合の法定相続人は3人なので、基礎控除額は以下の額になります。
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3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
1億円から基礎控除額4,800万円を差し引いた5,200万円が、相続税の課税対象です。
次に相続税の総額を計算しますが、ここでは実際の分割割合ではなく、法定相続分に応じて各人の相続税額を計算します。なお、法定相続分は以下のとおりです。
今回のケースでは、まず妻が1/2の遺産を受け取ります。その後、子が2人いるので、残った1/2の遺産を子2人で分けることになるため、それぞれの取り分は1/4となります。
計算式は以下のとおりです。
-
妻: 5,200万円 × 1/2 = 2,600万円
子(2人): 5,200万円 ✕ 1/4 = 1,300万円
次に、以下の速算表を用いてそれぞれ計算します。
今回の場合、以下の計算式となります。
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妻: 5,200万円 ✕ 1/2 ✕ 15% - 50万円 = 340万円
子(2人): 5,200万円 ✕ 1/4 ✕ 15% - 50万円 = 145万円
これらを足し合わせると、相続税の総額は以下のようになります。
-
340万円 + 145万円 + 145万円 = 630万円
そして最後に、相続税の総額を実際の分割割合に応じて分割します。
法定相続分のとおりに相続する場合は先ほどの税額になりますが。配偶者が相続せず、子2人で等分するケースでは、630万円÷2=315万円ずつ納税する必要があります。
固定資産税評価額と相続税評価額の違い
不動産の評価では、固定資産税評価額や相続税評価額が用いられます。
固定資産税評価額は主に固定資産税の計算に用いられるもので、市町村が算出します。
一方、相続税評価額は主に贈与税や相続税の計算に用いられるもので、国税庁が算出します。
固定資産税評価額はすべての不動産を調査する必要があるため、評価替えが行われるのは3年に1回です。そのため、納税者間の不公平をなくすために時価の70%程度を目安に算出されます。
一方で相続税評価額は、「相続税路線価」といって道路に価格がつけられ、道路に面する土地の面積や形に応じて価格を算出します。
相続税路線価は1年に1回発表され、こちらも納税者間の不公平をなくすため時価の80%程度を目安に算出されます。
このように、固定資産税評価額よりも相続税評価額のほうが高くなるケースが多いことを覚えておきましょう。
農地相続の税金を減らすには農地の減額評価を活用
農地相続時の税金の計算方法は、一般的な相続税の計算の流れと大部分は同じです。
しかし、農地は国の自給率にかかわる大切な土地のため、農地相続の際にはさまざまな減額評価制度が利用できます。
ここでは、農地相続時の税金の減額評価について詳しく解説します。
貸付農地の減額
耕作権や永小作権、賃貸借によって貸し付けている土地は、その貸付割合に応じて減額が適用されます。
これは、農地の所有者は他人に貸している農地を自由に使用できないからです。
貸し付けている農地を相続した場合は、減額が適用されるかどうかを確認しましょう。
市街地周辺農地
前述のとおり、市街地周辺農地に分類される農地は「市街地農地として計算した場合の80%」で評価されます。
そのため、相続した農地が市街地周辺農地に分類されているだけで、納税額が抑えられます。
宅地造成費控除
宅地造成費とは、現在は地目が宅地ではない土地を宅地にするためにかかる費用のことです。
宅地造成費控除は、相続する農地(その他の地目の土地も含む)が宅地比準方式で評価できる場合に利用できるもので、農地の相続税を決める際に「農地を宅地であるとした場合の価格から、宅地造成費を控除して評価できる」という制度です。
整地や土盛りなどを行うための費用が控除対象となるため、相続した農地が宅地比準方式によって評価額を算定できるか確認しておきましょう。
なお、1㎡あたりの宅地造成費は国税局のサイトで確認できます。
広大な農地のケース
三大都市圏は500平方メートル、それ以外の地域では1,000平方メートル以上の広大な農地は、一定の要件を満たした場合に減額評価を受けられます。
生産緑地のケース
相続した農地が生産緑地に該当する場合、一定の条件を満たすことで減額評価を受けられることがあります。
なお、農地を相続したものの活用する予定がない場合は、持っているだけで管理費用や固定資産税などがかかるため、すぐに売却を検討するとよいでしょう。
以下の記事では、農地をはじめとした相続した土地をすぐに売却すべき理由や具体的な方法について解説しています。
関連リンク:遺産相続した土地はすぐに売却すべき!理由や方法を解説
農地相続の際の節税には納税猶予の特例も活用
農地を相続し、税金の支払いに困った際は、納税猶予の特例を活用することも検討しましょう。
ここでは、納税猶予の特例について詳しく解説します。
納税猶予の特例とは?
納税猶予の特例とは、農業を営んでいた被相続人から農地を相続した相続人が、一定の要件を満たした場合に相続税の納税を猶予してもらえる制度です。
農地が被相続人から相続人に引き継がれるにあたり、多額の税金が課されることが原因で農地が放棄されることを回避するために設けられた制度といえます。
納税猶予手続きの進め方
納税猶予を受けるためには、相続があったことを知った日から10ヵ月以内に、必要な条件を満たした上で書類をそろえて相続税の申告を済ませる必要があります。
納税猶予期間中は申告期限から3ヵ月ごとに猶予の継続を希望する旨を届け出なければなりません。
また、途中で宅地に転用して営農を中止する場合は、猶予されていた相続税だけでなく、猶予期間中の利子税も発生するため注意が必要です。
納税猶予の特例に該当するための要件
納税猶予の特例を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人は、相続発生時まで営農していたか生前に農地の一括贈与を行う
- 相続人は、相続税の申告期限までに農地を引き継いで営農し、その後も営農を続ける
- 農地は、相続税の申告期限までに遺産分割が終了している
被相続人は、亡くなった後に遺される農地を相続人に相続させるか、生前に贈与しておく必要があります。そして、農地を相続した相続人は、引き続き営農を続けなければなりません。
また、相続税の申告期限(相続があったことを知った日から10ヵ月以内)までに遺産分割が終了していなければならないことにも注意が必要です。
納税が猶予される税額
納税が猶予される税額は、以下のように計算します。
- (A)通常の方法で相続税額を計算する
- (B)農業投資価格(農地が恒久的に農業に使用される前提で売買が成立する価格)で評価した場合の相続税額を計算する
- (A)と(B)の差額について、納税が猶予される
農業投資価格は毎年国税局長が決定し、国税庁のサイトで路線価図を調べれば確認できます。
例えば通常の評価が1億円、農業投資価格が500万円だった場合は、以下のように計算します。
※農地以外に相続財産がなく、妻と子2人がいる場合
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(A): 1億円 -( 3,000万円 + 600万円 × 3人 )= 5,200万円
相続税の総額 = 5,200万円 × 30% - 700万円 = 860万円
(B): 500万円 - 5,200万円 = 0円以下
相続税の総額 = 0円
納税猶予額 =(A)860万円 -(B)0円 = 860万円
農地相続時の納税猶予のポイントや注意点を押さえよう
納税猶予の特例は非常に効果が高いため、農地を相続して営農を続ける場合は、ぜひ活用したい特例です。
ただし、納税猶予の特例を利用する際は注意すべきこともあります。
ここでは、それぞれの注意点について解説します。
農地相続の納税猶予額が免除されるケース
納税猶予の特例を利用すると、その後3年ごとに継続を届け出る必要があり、途中で営農を放棄した場合には猶予を受けていた相続税と利子税を支払わなければなりません。
ただし、以下のようなケースでは納税猶予額が免除されます。
- 相続人が死亡した場合
- 相続人が該当の農地を後継者に一括贈与した場合
- 20年間営農を継続した場合(ただし一定の要件あり)
原則として、納税猶予制度を利用した農地は相続人が営農を続ける必要がありますが、相続人が死亡した場合や後継者に一括贈与した場合は納税猶予が免除されます。
20年間営農を継続した場合も免除されますが、こちらは「三大都市圏の特定市以外で、生産緑地地区以外」であることが条件です。
農地相続の納税猶予が終了してしまうケース
一方、以下のようなケースでは納税猶予が終了します。
- 営農をやめる
- 継続を届け出ない
前述のとおり、上記のケースでは猶予を受けた相続税と利子税を支払わなければなりません。
なお、生産緑地で納税猶予の特例を受けた場合であれば、買取の申出によっても納税猶予が終了します。
農地相続時の税金に注意!早めの節税対策を
農地相続時の税金について解説しました。
相続人が営農を続ける場合は納税猶予の特例の適用を受けるのがおすすめですが、途中で営農をやめた場合は相続税と利子税を納めなければなりません。
将来営農をやめる可能性がある場合は、特例の適用を受けずに節税対策を行うことも検討すべきでしょう。
農地を相続し、税金がいくらになるのか確認したいときは、相続した農地にどのくらいの価値があるかを知るために、まずは不動産査定を受けてみるとよいでしょう。
ただし、農地の査定は他の地目の土地と違った難しさがあるため、農地の売却を得意とする不動産会社に依頼することが大切です。
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農地の査定を依頼する際は、まずはリビンマッチを利用することをおすすめします。