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島と相性がいい葉たばこづくり。五島列島・五島市の葉たばこ農家

島と相性がいい葉たばこづくり。五島列島・五島市の葉たばこ農家

東シナ海に浮かぶ長崎県・五島列島の五島市。島を代表する作物の葉たばこ。葉たばこ農家岩田克彦(いわたかつひこ)さんにお話をおうかがいしました。

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豊作に笑顔こぼれる

ちょっとした小部屋ぐらいの広さがあるコンテナ型乾燥機のドアを開けると、ふんわりと甘みを帯びた香りがあたりに広がりました。中には、黄色に染まった葉たばこが、びっしりとつるされています。

「だいぶ乾燥が進んできましたね。ほら、葉の根元の部分もだいぶ乾いているでしょう?」と葉たばこ農家岩田克彦(いわたかつひこ)さん(32)が、葉を指でもみながら具合を確かめます。

「今年は雨が少なく病気もわずかだったので豊作でした。ここ数年、あまり良くなかったのでうれしいですね」そう言うと、真っ黒に日焼けした岩田さんの顔がほころびました。

7月上旬。東シナ海に浮かぶ長崎県・五島列島の五島市では、島を代表する作物の葉たばこの収穫・乾燥作業が進んでいました。

写真提供:五島市

島の農業を支える大きな柱

11の有人島と52の無人島でつくられる五島市は、五島列島の南西部にあります。水田もありますが、農業は畑作が中心。温暖な気候を生かし、近年はブロッコリーなどさまざまな野菜の産地化も進んでいますが、伝統的に盛んな産業が葉たばこ栽培です。島の農業を支える大切な基幹作物でもあります。郷土史によると、五島市では天保年間に葉たばこの生産が行われていたそうです。

岩田さんは、家業の葉たばこ農家を約10年前に継いだ3代目。高校卒業後、別の仕事をしていましたが「いずれ農業は継ぐつもりだったので、そうであるのなら早い方がいい」と二十歳で地元の農業研修生となり、2年間の研修を経て就農しました。

所有する畑の総面積は1,000アール。このうち葉たばこの作付けは四分の一だけで、あとは野菜を育てています。利益の柱となっているのは葉たばこです。「野菜での利益は、経費の足しになる程度」にとどまっています。

五島市の葉たばこは、品質の高さが自慢。過去、販売単価で何度も日本一となった実績もあります。高品質な葉が育つ理由として、岩田さんは「五島は島なので風がよく通るんですが、風があるとたばこの葉が肉厚になります。これが品質の高さにつながるんです」と分析します。

国産葉たばこをめぐる独自システム

露地作物の中でも収益性が高いとされる葉たばこ。その背景には、ほかの作物にはない独自のシステムがあります。

国内で生産された葉たばこには、すべてJTが買い上げる「全量買取契約制」という仕組みがあります。買い上げ価格も、あらかじめ種類ごとに決められるため、収穫が多すぎたために価格が下落する「豊作貧乏」の心配もありません。災害などで大きな損害が出た場合には、JTから援助金も支払われます。

離島は輸送費の高さがあらゆる事業活動の足かせになることも多いですが、葉たばこはJTが契約する運送会社が集荷に来るため、出荷費がかかりません。ある葉たばこ関係者は「五島で葉たばこ生産が盛んな理由は、風土だけでなく出荷面でのメリットもあるからではないか」と指摘します。

国内の葉たばこをめぐっては、さまざまな歴史や背景があり現在のようなシステムが続いていますが、この先ずっと維持されるかどうかは不透明です。

甘くはない新規参入

葉たばこは、安定した計算できる作物と言われますが「だからといって、新規の人が、そう簡単に始められるものではないです」と岩田さんは強調します。

まず乾燥機や専用機など、高額で特殊な設備がどうしても必要となるので、それなりの初期投資が必要となります。このため、実際は岩田さんのように「世代交代」により畑と設備を引き継ぐケースがほとんどです。

また作業が本格化する春先以降、早朝から夜遅くまで畑作業にかかり切りにならざるを得ないほど多忙なのは有名な話。岩田さんも、今シーズンは4月から7月半ばまでの間、わずか一日しか休みを取ることができませんでした。

加えて、栽培には高い技術が求められます。農家ごとに栽培方法はバラバラ。隣接する畑なのに異なる作り方が必要なこともあり、岩田さんは「本当に何が正解か分からないのが葉たばこ。ほかの農家の方とも相談しながらやっていますが」と試行錯誤の日々です。

伝統ある作物 後世に残したい

現在、五島市の葉たばこ農家は59戸で、耕作面積は約120ヘクタールあります。健康志向の高まりやたばこ税増税による喫煙人口の減少に伴い、葉たばこの需要が減っているほか、農業全般の問題である高齢化や後継者不足が深刻なのは葉たばこ農家も例外ではありません。担い手は減る一方で、五島市でも20、30代の若手はわずかです。

岩田さんは「葉たばこは、島では一番安定している作物かもしれませんが正直、将来どうなるのか分からず不安です。後継者不足が一番の問題ではないでしょうか。五島では伝統、歴史がある作物ですし、何とか残ってほしいと思います」といいます。

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