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自然豊かな暮らしと人の温かさを求めて小値賀島へ

自然豊かな暮らしと人の温かさを求めて小値賀島へ

10年前に長崎県の小値賀島に移住し、新規就農した稲森章志(いなもりしょうじ)さん、美智子(みちこ)さん夫婦。現在は地域の人々に見守られ、5歳になる三つ子たちの子育てに奮闘しながら、15アールのビニールハウスでミニトマトの栽培に奮闘しています。

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働きたい時に働いて、やった分だけ稼ぎになる。自然豊かな暮らしと温かいご近所付き合いを求めて、10年前に長崎県の小値賀島に移住し、新規就農した稲森章志(いなもりしょうじ)さん、美智子(みちこ)さん夫婦。現在は地域の人々に見守られ、5歳になる三つ子たちの子育てに奮闘しながら、15アールのビニールハウスでミニトマトの栽培に奮闘しています。

(左から)美智子さん、心(しん)ちゃん、蘭(らん)ちゃん、天(てん)君、章志さん。 自分たちで育てている田んぼの前で

京都府や三重県の家電製造工場で夜勤と日勤を繰り返す過酷な日々を送っていた章志さん。「自然や季節の移り変わりを感じながら働き、やった分だけお金になる農業を、いつかやってみたいとずっと思っていました」。一方、美智子さんは、隣近所に誰が住んでいるのかも分からない環境で寂しさを感じ、地域の人たちとご近所づきあいができるような環境に移りたいと考えるようになりました。

そんな二人がたどり着いたのが、濃密なコミュニティが残る島に移住し、就農するという道でした。数ある島の中で小値賀を選んだのは、「テレビで小値賀町の野崎島が特集されていて、行ってみたいと思っていたから」。初めて小値賀島を訪れたのは、2006年12月。冬なのにコバルトブルーに輝く美しい海に驚き、豊かな自然に魅せられました。移住者の先輩が営む民泊に宿泊し、農作業を手伝いながら島暮らしについて聞くことができました。案内をしてくれた町役場の担当者が「この家ならすぐに住めますよ」と積極的に紹介してくれ、「私たちを受け入れてくださるんだなという気持ちを感じて、ここに移住しようと思いました」。

ダイナミックな景観とエメラルドグリーンの海が美しい五両だき

小値賀には、島の産業を継いでいく「担い手」を育成し、彼らが活躍できる仕組みをつくる一般社団法人「小値賀町担い手公社」という組織があります。担い手公社には、賃金をもらいながら農業の研修が受けられる制度があることを知り、「農業は素人なので、とてもありがたい制度だと思いました」。翌2007年2月、研修制度の面接を受けるために再び訪問。夫婦そろって合格通知をもらい、3月から新生活がスタートしました。

2年間の研修で、トマトやブロッコリー、サツマイモなどの作物を実際に栽培し、農業の基礎知識やノウハウを学びました。家賃は月5,000円で、生活費がほとんどかからないため、研修中の給料を積み立てて、就農の際の資金にしました。研修を終えて就農する際には、収入を考え、ミニトマト栽培に特化することにしました。まず、県や町の補助を受けて暖房設備のあるビニールハウスを建てました。15アールの畑では2,000本のミニトマトを栽培することができます。ハウスでは8月に苗を植え、11月から翌年6月ごろまで時期を選んで収穫・出荷します。

長崎県と小値賀町の支援を受けて建てたビニールハウス。ここで2,000株のミニトマトを栽培している。

新規就農者としてなんとか食べていけるようになったのは、「恵まれた環境があったから」と稲森さん夫婦は言います。「担い手公社でお世話になった指導員の方が近くにいるので、分からないことや困ったことがあったらすぐに相談できるのでとても助かっています」。2年前、栽培していた2,000本のミニトマトの株が全て枯れてしまうという出来事がありました。枯れていくミニトマトを前に呆然としていた時、指導員の方から「今悲しむより、先のことを考えなさい」とアドバイスを受け、少しでも収穫があるようにと植え直す決断をしました。

「その方との出会いは本当に大きな財産です。農業のノウハウだけでなく、小値賀弁や釣りの楽しみ方など、島暮らし全般についてあれこれと教えていただいています。田んぼもやっているのですが、土地は知り合いから、機械は担い手公社から借りています。本当に恵まれていると思います」

人の温かさを実感するのは、農業を通してだけではありません。2012年7月、稲森家に三つ子の天君、心ちゃん、蘭ちゃんが誕生しました。「近所の方たちがシフトを組んで、1カ月間毎日交代で、3人をお風呂に入れて、ミルクを飲ませるのを手伝ってくれました。服もおもちゃもいろんな方がおさがりをくださるのでとても助かっています。移住した当初から近所の方がいろいろと心配してくださって、望んでいたご近所付き合いができて幸せです。都会にいると人が多くてにぎやかで便利ですが、寂しい気がしていました。島は人は少ないけど一人一人が温かくて、自分たちの存在を尊重していただいているというのを感じることができます。大勢の中の一人ではなくて、個人として認められるのがうれしいですね」と美智子さんは話します。

農作業を手伝おうとする天君を見守る章志さん

販路拡大にも力を入れています。3年前、担い手公社の研修制度を終了して就農した卒業生たちと元指導員で「みじょっこクラブ」という生産組合を作り、小値賀のミニトマトやミディトマトを大阪や東京、福岡に出荷し始めました。作ったものを直接売ることで、新鮮なものを早く、確実に扱ってもらえるようになったので、収入も少しずつ上がってきました。

移住して10年目を迎え、子宝にも恵まれた稲森さん夫婦。「身寄りのない島へ移住したことについて、『すごい決断をしたね』と言われますが、不安は全然なくて、期待しかありませんでした。子育てという生き甲斐もでき、とても充実しています」と美智子さん。章志さんは「休みたいときに休めますし、自分たちのペースで仕事ができるのは良いです。収穫に追われる12月までは忙しくて、休みたくても休めませんし、今は子どもたちがいるので、夜中に箱詰め作業などをすることもあります。それでも夏のオフシーズンには旅行にも行きますよ。好きなことができているので楽しいです」と話していました。

お世話になっている木村吉照(きむらよしてる)さん(右から2人目)の自宅で旬のスイカとメロンを食べさせてもらう三つ子たち。「木村さんのスイカとメロンは最高です」と章志さん。

今後は現状の生産規模を維持しながら、収量を増やすことを目標にしている。「子どもたちはまだまだ農作業を手伝うことはできませんが、トマトの袋詰めなどは進んでやってくれるので頼もしいです。子どもたちのためにも、しっかり稼げるように栽培技術を磨いていきたいです」。

ミニトマトの苗植えを控えたハウスにて家族写真。前年よりも収量増を目指して。

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