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生産者の試み

社会課題を解決し、地元に貢献する農業を

社会課題を解決し、地元に貢献する農業を

2017年08月01日

ITとブランド化によって地元の復興に貢献する岩佐さんが見据える日本の農業の未来とは。前編では、岩佐さんが現在注力されているテーマと、その背景にある思いについてうかがいます。

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宮城県山元町で、「食べる宝石」とうたわれる高級イチゴ「ミガキイチゴ」を生産する株式会社GRAの岩佐大輝(いわさひろき)さん。ITとブランド化によって地元の復興に貢献する岩佐さんが見据える日本の農業の未来とは。前編では、岩佐さんが現在注力されているテーマと、その背景にある思いについてうかがいます。

―岩佐さんが会社を立ち上げた経緯を教えてください。

2011年3月、東日本大震災で僕の地元の宮城県山元町が大きな被害を受けました。人口の4%にあたる600人強の方が亡くなり、町内にあった129軒のイチゴ農家のうち125軒が流されてしまいました。

当時、町の予算規模40億円に対し、イチゴの出荷額は15億円。山元町にとってイチゴは経済的に非常に大きな存在で、町の象徴として人々の誇りでもありました。東京でIT企業を経営していた僕は、地元の復興に寄与したいという思いから、イチゴ産業を元に戻し、世界で通用する産業にするという目標を掲げ、株式会社GRAを立ち上げました。

―高級ブランドを築くまでに、どのような施策を行ったのでしょうか。

農業未経験だったので、まずはイチゴ作りについて、地元で活躍する名人に教わりました。その中でわかったのは、経験と勘によって生み出される匠の技術は、体得するまでに15年かかるということ。それでは新しい雇用が生まれにくい。構造改革のため、二つの施策に取り組みました。

一つ目は生産工程のIT化です。どんな環境でどれだけ収穫でき、味にどのような影響があるか、徹底的にデータを蓄積し、分析を進めました。さらには、分析を経て見出した理想的な生育環境を再現できるよう、機械で制御を行う。そして、イチゴの状態をリアルタイムで把握し、細かくPDCAを回していく。経験と勘の領域をサイエンスに落とし込むことに注力しました。

二つ目はブランド化です。東京の百貨店のバイヤーの方に協力をしてもらい、意見を聞きながら売れるブランドを一緒に作りました。情緒的価値を高められるよう、高級チョコレートのように1つずつ箱に包み、ブランド名は「ミガキイチゴ」と名付けました。「あまおう」や「とちおとめ」などは品種のブランドで、時期により味や形に変動性があります。それに対し、ミガキイチゴは品質のブランドなので、生産された農場ごと、品種ごとに毎日品質検査を行い選抜を行うことで質を担保しています。

結果的に、ミガキイチゴは一粒1,000円で販売されるブランドに成長し、直近では通年栽培施設「ICHIGO WORLD」を設立し、シーズンを問わない生産にも挑戦しています。

―いま、注力していることについて教えてください。

現在、力を入れているテーマは3つあります。

一つ目は新規就農支援です。地方で新しく農業を始める人を増やすため、イチゴ作りの名人の勘と経験を全てマニュアル化し、サイエンスに基づいた支援を行います。対象者は1年かけてノウハウを学び、卒業後はイチゴ農家として独立します。

現在、3期目を迎え、地方で働きたい若者や定年退職後のセカンドキャリア、伝統企業の新規事業など、参加者の属性は多岐に渡ります。私たちが活用するのは、一般的な農業の定石に、名人の知見を掛け合わせ、毎年ブラッシュアップした非常に精緻なデータです。時期や温度、太陽の向き、二酸化炭素濃度など、本当に細かいデータを形式化することで、PDCAを回せるようにしているのが特徴です。これまで属人性が高かった領域にテクノロジーを掛け合わせることで、一人でも多くの人がスピード感をもって農業を始めることができ、地方を元気にしていくことを目指しています。

二つ目はテクノロジー研究です。AIやディープラーニングなどの技術を利用し、人の作業の代替、ひいては人よりも上手な農業の担い手を増やしていこうとしています。

特に力を入れているのが収穫ロボットの研究です。イチゴの製造原価のうち、5割をしめるのが摘み取りからパック詰めの工程で発生するコストです。その作業を機械化できないか研究しています。自社で研究者を雇用することはもちろん、大学や技術系機関など、外部との連携で研究を進めています。

三つ目は海外輸出です。現在、日本から身近なASEAN地域で日本のイチゴのシェアを高めようと 活動をしています。一つ興味深い事例として、シンガポールで消費者に食べ比べをしてもらうと、他国産と比べて、日本のイチゴは圧倒的な比率で一番美味しいという評価を受けます。しかし、実際のシェアは1%以下。アメリカや韓国などのイチゴに比べて全く売れていません。

理由はシンプルに価格が高いこと。そして、日本国内の地域間競争を海外まで持ち越してしまい、日本産としてのブランド形成ができていないことです。シェア上位の他国は全てワンカントリー、ワンブランド。国内の市場が縮小する今、オールジャパンで単一ブランドを形成し、輸出に活路を見出さないといけないという危機感があります。

現在、自社売り上げにおける輸出比率は約10%です。国によってレギュレーションの違いや風土、文化の違いが大きいので、生産から流通、実際の販売まで日本向けとは異なる方法を用いています。その知見を自社だけでなく他の生産者のイチゴ、ひいては他の農産物に生かしていきたいと考えています。

そこで重要になるのが、国内でのリーダーシップの発揮のしかたです。国の農業試験場や市町村の農政課など、国内はリーダーシップの主体が分散しています。まだ明確な答えは見えていないのですが、地域を超えた組合のような形で海外輸出に向けて団結していきたいと考えています。

―それぞれのテーマにはどんな思いがあるのでしょうか。

活動は多岐に渡りますが、どれも根本にあるのは、「社会課題の解決を通じて地元や日本に貢献したい」という想いです。現在日本の農業は、市場が縮小し、農業就労者の平均年齢は67歳、生産人口自体も減っていくという厳しい状況に置かれています。

そんな状況に対して、新規就農者をスピーディーに増やすことで担い手を増やし、テクノロジー化により、収益性を高め、海外輸出で販路と市場を開拓していければと考えています。

もともと、被災した地元を復興したいという想いからNPO法人として始めた事業なので、社会課題の解決を通じて、地元や日本に貢献したいという思いは非常に強いです。

社会課題の大きさは中長期で見れば市場規模そのものだと思います。だからこそ、粘り強く、このテーマと向き合っていきたいと思います。

後編:食の多様性を保つため、日本の農業が目指すべき「二極化」とは

 

プロフィール

1977年、宮城県山元町生まれ。株式会社GRA代表取締役CEO。大学在学中に起業し、現在

日本およびインドで6つの法人のトップを務める。

2011年の東日本大震災後には、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。先端施設園芸を軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。イチゴビジネスに構造変革を起こし、ひと粒1,000円の「ミガキイチゴ」を生み出す。著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『甘酸っぱい経営』(ブックウォーカー)がある。

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