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牛肉文化も多様性の時代「土佐あかうし」ブランド誕生のストーリー【ファームジャーニー:高知県】

連載企画:ファームジャーニー

牛肉文化も多様性の時代「土佐あかうし」ブランド誕生のストーリー【ファームジャーニー:高知県】

昨今のグルメ界で注目されているのが赤身肉です。そんな赤身肉ブームを受けて年々評価が高まっているのが、高知県でのみ飼育されている「土佐あかうし」です。かつて飼育数が激減した、高知県での和牛飼育の歴史と、土佐あかうし誕生についてご紹介します。

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「土佐あかうし」ブランド誕生のストーリー

「土佐あかうし」。高知県が誇る、日本でも飼育頭数が少ない、希少な肉用牛です。 かつて、県内で最も多く飼育されていた和牛でしたが、流通のニーズに翻弄され、その数は激減。そこで、平成21年に土佐和牛ブランド推進協議会が「土佐あかうし」ブランドを立ち上げ、平成24年に地域団体商標に登録されました。以降その取り組みが功を奏し、飼育数も増加に転じています。

高知県における、和牛の歴史と土佐あかうしブランド誕生までのストーリーを追いかけました。

関連記事:赤身肉の旨味が光る「土佐あかうし」改良の戦略とは【ファームジャーニー:高知県】

土佐あかうしの特長

「土佐あかうし」ブランド誕生のストーリー

写真提供:山口信吾さん

日本の肉用牛である和牛には、黒毛和種、褐毛(あかげ)和種、日本短角種、無角和種の4種類があり、それぞれのルーツや改良過程が異なります。

黒毛和種の飼育は全国で行われており、農林水産省が平成29年7月に発表した統計(※1)によると、現在日本で飼育されている和牛は全部で166万4,000頭。そのうち黒毛和種は161万8,000頭と、97%もの大部分を占めています。

一方、黒毛以外の和牛は頭数も少なく、産地も限定されることから、地方限定品種とも言われています。褐毛和種は2万1,000頭と、わずか1.3%にすぎません。褐毛和種は、さらに熊本系と高知系に分類され、前者は熊本県を中心に北海道などで飼われ、後者は高知県でのみ飼育され、「土佐あかうし」は褐毛和種高知系に該当します。

土佐あかうしのルーツは明治初頭、褐色の牛のこだわり選抜改良から始まります。昭和30年代後半以降、役用から肉用へ転換が進み、産肉能力を主体とした改良が進められ、現在の褐毛和種高知系が出来上がりました。

土佐あかうしの特長は、青い空や牧草によく映える褐色の被毛。目元と鼻、蹄だけは黒い毛色を持ちます。性格は人懐こく、好奇心が旺盛、じっとしているとそばに寄ってきてペロンと舐めてきたり、愛嬌があります。真っ黒な目と長いまつ毛がとりわけ愛らしく、初めて見る方が「かわいい!」と声を上げることもしばしば。牧場を訪れる方は、その魅力に心を奪われてしまいます。

味の特長は、赤身とサシのバランスの良さにあり、独特の味を持つ赤身は、28ヶ月齢程度まで肥育されることでグルタミン酸やアラニンなど、旨みや甘みを感じるアミノ酸が豊富になります。サシと言われる霜降りは、入りすぎず適度な量。黒毛和種の融点は25℃から33℃なのに対し、土佐あかうしは26℃と低く、さらにサシの目が細かいことから、キレの良い独特の風味を生み出します。

高知県における褐毛和種の推移

土佐あかうしブランドが誕生するひとつのきっかけとして関係しているのが、高知県における和牛品種ごとの飼育頭数の推移です。

高知県が発表した「高知県の畜産(平成28年)」(※2)によると、今から20年以上前の平成5年は8,099頭いた褐毛和種ですが、その後の飼育頭数は減少。平成26年には1,595頭と、平成5年の約2割にまで減ってしまいました。一方、黒毛和種は平成5年の614頭から大きく数を増やし、平成23年以降は約2,300頭前後を維持しています。

これだけ褐毛和種の飼育頭数が減り、黒毛和種が増えていった理由について、高知県農業振興部畜産振興課の公文喜一(くもんよしかず)さんは「牛肉の評価や価値が、“おいしさ”から“霜降り”に転換したから」と言います。

「外国産牛肉との差別化により市場で霜降りの肉がもてはやされるようになり、サシの美しさが特色の黒毛和種の価値はぐんぐんと高くなった。一方、赤身のおいしさが特長の土佐あかうしは、サシ重視で黒毛有利の市場に押され、価値を下げ続けていった。高所得や経営安定を望む畜産農家は、子牛価格や枝肉価格が芳しくない土佐あかうしを諦め、より収益が上がる黒毛和種を選ばざるを得ない状況になってしまったことも大きな要因です」

さらに、小頭数の飼育をしていた高齢農家の離農、後継者不足、牛舎を立てられる土地が不足したことなどが、全国的に和牛産地の課題にもなっています。高知においても、土佐あかうしの飼育頭数減少に拍車をかける結果になってしまったそうです。

「土佐あかうし」ブランドが誕生

「土佐あかうし」ブランド誕生のストーリー

写真提供:土佐和牛ブランド推進協議会

褐毛和種の減少に危機感を抱き、さらに高知県にしかいない褐毛和種高知系を大事に残していきたいという思いが高まり、ついに関係者たちが立ち上がりました。

平成21年。高知県は産業振興計画の一環で、生産者や精肉業者と共に、全農こうち畜産課内に「土佐和牛ブランド推進協議会」を設立しました。そこで、高知県固有の“褐毛和種高知系”を、新たなブランド「土佐あかうし」と命名。高知県を挙げて、土佐あかうしの本格的なブランディングがスタートしました。その後、様々な活動を経て、平成24年8月に、「土佐あかうし」が地域団体商標登録され、全国的な名産品の仲間入りを果たしたのです。

公文さんのお話によると、高知県農業振興部畜産振興課による最新の調査で、平成29年2月時点で土佐あかうしの頭数は1,964頭と、ここ3年間で370頭増。2,000頭が視野に入るまで増加に転じています。さらに、昨今の赤身ブームが土佐あかうしの価値向上の後押しとなり、平成23年に1,434円だった平均枝肉価格は、平成27年には2,392円へと大幅に上昇しています。(※2)

土佐あかうしのブランディングと、市場の好意的な傾向が功を奏し、生産環境はかつてより良くなりつつあります。全国のブランド牛肉と比べ、依然として希少な土佐あかうしではありますが、日本でも一流店として名前が知られる名店でも土佐あかうしを使う店は増えており、今後土佐あかうしの名前がもっと一般的に知られるようになる日はそう遠くないのかもしれません。

次回は、流通、改良などに触れながら、土佐あかうしの今後について迫ります。

関連記事:赤身肉の旨味が光る「土佐あかうし」改良の戦略とは【ファームジャーニー:高知県】

参考
※1 農林水産省 農林水産統計(平成29年2月1日現在) 
※2 高知県の畜産(平成28年度)

参考文書
1高知県農業振興部畜産振興課、平成28 年、「高知県の畜産」
2高知県ホームページ http://www.pref.kochi.lg.jp/
3農林水産省大臣官房統計部、平成29年7月4日、畜産統計(平成29年2月1日現在)

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