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赤身肉の旨味が光る「土佐あかうし」改良の戦略とは【ファームジャーニー:高知県】

赤身肉の旨味が光る「土佐あかうし」改良の戦略とは【ファームジャーニー:高知県】

2017年08月18日

「土佐あかうし」は、脂のサシよりも赤身肉のおいしさで勝負をする和牛。高知県が県を上げて実施した、土佐あかうしの改良とブランド化。それは、飼育家たちの安定した収入や新規就農者の増加を促すことで、飼育頭数の増加や販売者も飲食店も潤うような状態を生み出すための取り組みでした。

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赤身肉の旨味が光る「土佐あかうし」改良の戦略

(左:公文喜一さん、右:川原尚人さん)

サシ重視の市場で台頭する黒毛和種に押され、かつては高知県内で最も多く飼育されていた褐毛和種は減少の一途をたどっていました。しかし、この危機に関係者が奮起し、立ち上げたのが「土佐あかうし」ブランドです。

平成21年の「土佐和牛ブランド推進協議会」の結成を機に、高知県は官民一体の「土佐あかうし」の流通、販路の開拓に乗り出しました。この取り組みによる平成24年の地域団体商標登録とともに、今ではおいしさへの評価が高まり、“おいしい赤身肉”としてのブランドを確立しつつある土佐あかうしについて、今回は改良や飼育頭数増加など、生産側の取り組みについて注目します。

高知県農業振興部畜産振興課の公文喜一(くもんよしかず)さんと、高知県畜産試験場の大家畜課課長、川原尚人(かわはらなおと)さんに、土佐あかうし改良増殖推進事業に基づいて、高知県が実施する「土佐あかうし」の改良について、現地で詳しくお話をうかがいました。

関連記事:牛肉文化も多様性の時代。「土佐あかうし」ブランド誕生のストーリー【ファームジャーニー:高知県】

より「求められる」肉用牛へ。「土佐あかうし」の改良・繁殖

現在日本の肉牛の大部分を占めるのが、黒毛和種。サシが入りやすく柔らかい肉質が消費者に好まれることから、高級ブランド牛肉として流通しています。評価の高い黒毛和種の特長に近づけようと、土佐あかうしもサシが入りやすい牛を目指して、選抜を重ねたことも以前はあったそうです。

「現在は、この品種ならではの良さである、赤身のおいしさを追求する選抜も実施しています。多様化する市場で、ターゲットセグメントを見極め、その需要を満たすための、戦略的な改良の模索が積極的に行われています」と公文さん。

公文さんによると、土佐あかうしの改良の基礎となる種雄牛の選抜プロセスには、次のような条件をつけているそうです。

・繁殖雌牛のうち遺伝病因子などを疑われる血統を持つものをリストから除外する。
・子牛の産肉成績がよい雌牛を「基礎雌牛」として牛群の1割程度まで選抜する。
・基礎雌牛と、後継を残したい種雄牛との間にできた雄子牛を一年に4頭選抜する。
・選抜には改良に必要とされる遺伝能力や経済性を数値化し、評価の指標とする。

そして、選ばれた雄そのものの育成試験や、雌牛との試験交配で出来た子牛の産肉成績を調査して、実際に種雄牛として使うかどうかを最終判断しているそうです。

赤身肉の旨味が光る「土佐あかうし」改良の戦略

(土佐あかうしの種牛。雌牛の穏やかで愛らしい印象とは異なり、気性は荒く体も大きい)

過去の選抜方法の積み重ねの結果、産肉成績が向上した一方で、血統が大きく偏るという問題が生じてしまったそうです。そのため10年ほど前から、さらに次のプロセスを追加し、強健性、繁殖性、泌乳性、飼料利用性に特色のある種雄牛の確保もしています。

・雌を1頭1頭、先祖の血統の影響を計算で出して、8系統に分類する。
・特長のある系統の雌を育種素材牛として、基礎雌に追加する。
・同じ系統の種雄牛を交配して、新たな雄(雌でも可)をつくり出す。

この取り組みは系統再構築とも言われ、血統の多様性の確保とともに、長期的な視野に立った改良も行われています。

土佐あかうしの流通と平均枝肉価格

では次に、土佐あかうしの「と畜数」を見てみましょう。平成23年度の褐毛和種の「と畜数」は702頭でしたが、平成26年と27年は共に367頭と、土佐あかうしの「と畜頭数」は減少傾向にあります(※1)。

「そもそも牛の数が減少していたことも理由のひとつですが、平成25年以降はこれまで肥育され、と畜にまわっていたはずの雌牛が、子牛を生産する繁殖雌牛として使われるため、生産者の牛舎に徐々に残っていったことも関係します。一時的には出荷頭数はさらに減少しますが、長い目でみれば飼育数が増加し、最終的に出荷される牛が増えます。高知県だけでしか育てていない牛だからこそ、起ってしまう現象ともいえます。」(公文さん)

「と畜数」が減少していた平成26年頃は、土佐あかうしの魅力が市場で評価され始めた時期と重なります。昨今の赤身肉のブームと、高知県が一丸となったブランディング、及び拡販への取り組みの結果、土佐あかうしの平均枝肉価格が、平成23年では1,366円だったのに対し、平成24年は1,515円、平成25年は1,745円と急上昇。平成26年には1,964円で、ついには黒毛和種の平均1,933円を土佐あかうしが超えたのです。(※2)

赤身肉の旨味が光る「土佐あかうし」改良の戦略

土佐あかうしのと畜数が減少していた平成26年頃は、まさに土佐あかうしの市場評価が上昇気流にのって、受注数も増えてきた時期でした。しかし、出荷頭数の少なさが販売の機会ロスを招いてしまっていました。

土佐あかうしの今後の課題

赤身肉の旨味が光る「土佐あかうし」改良の戦略

土佐あかうしの目下の課題は、ターゲットマーケットの需要を十分に満たせる出荷量を確保することと、肉質を向上させ、おいしさを追求することです。量の確保は、近年の取り組みの結果、飼育頭数はすでに増加に転じ、今後も増産の努力を重ねることで結果が出てきたそうです。

一方、品質の向上では、現行システムへの挑戦が必要となってくるでしょう。ネックとなるのが、日本の食肉の評価です。現在、日本での牛肉の評価は一つの基準で決められており、主に脂肪交雑(BMS等)を12段階で評価するものです。(※3)

しかし、「土佐あかうし」は、脂のサシよりも赤身の旨みで勝負をする牛です。残念ながら、この旨みに関する評価のシステムは確立していません。既存のシステムの評価では、質について正確に評価が伝え切れていないのです。

そのため、肉のおいしさを伝えるためには、実際に土佐あかうしを試食してもらうといったコミュニケーション戦略と、販売戦略がカギとなります。しかし、実際に土佐あかうしを食べると「こんなおいしい赤身は初めて」「甘味もあり、黒毛とは異なる味の魅力がある」など、予想以上の反響があり、生産者も手応えを感じているそうです。

「土佐あかうしの価値が上がり、飼育家たちの生活を支える安定した収入が見込めるようになること。そして、新規就農者が増加すれば、それとともに自然と飼育頭数が増加する。その結果として、販売者も飲食店も、潤うような状態が生み出せればいいですね」(公文さん)

土佐あかうしへの評価は右肩上がりで、多くの料理店などが注目している食材のひとつです。「高知県にしかいない肉牛を残していきたい」という熱い思いと取り組みが土佐あかうしをここまで大きく成長させたのかもしれません。

関連記事:牛肉文化も多様性の時代。「土佐あかうし」ブランド誕生のストーリー【ファームジャーニー:高知県】

※1 高知県の畜産 平成23年度 平成27年度
※2 高知県の畜産(平成28年度)
※3 公益社団法人日本食肉格付協会

参考文書
1 高知県農業振興部畜産振興課、平成28 年「高知県の畜産」
2 高知県ホームページ http://www.pref.kochi.lg.jp/
3 農林水産省大臣官房統計部、平成29年7月4日、畜産統計(平成29年2月1日現在)
4 高知新聞「土佐あかうし商標登録」平成24年8月16日
5 高知新聞「あかうし県外へ売り出せ」平成25年1月8日

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