ワイン好きが高じて、会社員からぶどうの栽培醸造家に転身。生まれ育った新潟県でワイナリーを経営する本多孝(ほんだたかし)さんは、小規模のワイナリーながら、少量生産・高付加価値戦略で、着実に顧客を増やしています。
「新潟のワインを世界に!」をミッションに日々、ワイン作りに取り組む本多さんの戦略について、お話をうかがいました。
関連記事:遊牧舎 秦牧場のブタがシェフに選ばれる理由【ファームジャーニー :北海道十勝】
新潟の個性あふれるワインを作る
新潟県内の日本海にほど近い越前浜という土地で、ワイナリー「Fermier(フェルミエ)」を営む本多さん。大学を卒業後、東京で会社員として働いていましたが、ワイン好きが高じて、ワイナリーへの転身を決意。2005年に退職し、新潟のワイナリー経営塾でぶどうの栽培・醸造の基本を学びました。そして、翌2006年にはフェルミエを創業。新潟ならではの個性あふれるワイン作りを始めました。
ワイナリーの場所として、越前浜を選んだのは、「生まれ育ったこの場所が、この海が大好きだったから」。加えて、水はけがよく痩せた砂質土壌がワイン用のぶどうの栽培に適していることも決め手となりました。
栽培しているぶどうは、主にアルバリーニョという品種です。
「アルバリーニョは、スペインの大西洋沿いにある、ガリシア州リアスバイシャス地方で栽培されている品種で、その地は、水はけがよくて海に近く花崗岩土壌が多いなどの特長があります。越前浜の土壌や気候も、アルバリーニョが栽培されている地と近く、この土地の個性が最も活かせるぶどうが、アルバリーニョだと思ったんです」
出来上がったワインは、エレガントな香りのアタックと長い余韻、繊細で優しい味ながらも旨味に溢れています。
ワイン好きの方に絞ったマーケティング戦略
フェルミエは、家族経営の小規模ワイナリーです。大手のワイナリーのように大量生産して、低価格のワインを提供することができないため、価格で勝負はできません。そこで本多さんは、ワイン相応の価値や価格をわかっている、日本のワイン好きの方を顧客と想定し、さらに「脱サラしてワイナリーに転身するという本多さんのライフスタイルそのものに共感してくれる人」に的を絞り、どのようにワインを販売していけばよいか、戦略を立てています。
本多さんがターゲットとする顧客は、かつての彼自身と重なります。
「もし私がサラリーマンで、あるワインに興味をもったとしたら、そのワイナリーを訪ね、畑や蔵を見学し、どのような考えでワイン作りに取り組んでいるのか生産者に直接聞きたい。できれば、自分も畑に入ってぶどう栽培に携わりたいと思います」
フェルミエでは、ワインを定期的に届ける「ぶどうの苗木オーナー制度」や「アルバリーニョ会員制度」を設けています。ワイン好きの会員に向けてワイナリーの取り組みなどさまざまな情報発信を行うとともに、ワイナリーツアーやテイスティングセミナー、ぶどうの収穫体験を開催。自分が作ったワインに、より親しみをもっていただけるように工夫しています。
レストラン併設で商品開発への足がかりに
徹底的に飲み手視点に立つのが、フェルミエ流の経営戦略。ワイナリーに併設されたレストランは、「ワインと食事は、それぞれ単独に提供するより、うまく組み合わせることで価値を高め合うものです。ワイン好きの方なら、その土地の食事にその土地のワインを合わせて飲んでみたいと思うはず」という本多さんの考えから生まれたものです。
レストランは、作り手にとってメリットの多い取り組みだと言います。「お客様の飲む場面が想像できて、ワインの商品開発の参考になります。料理人とワインの造り手も、料理とワインのマリアージュという点において、互いに刺激になり成長できるんです」
あえて販売先を絞り、価値を高める
ワインの販売先は、会員に向けての出荷、ワイナリーでの直販、レストランでの提供、自社サイトでのオンライン直販です。本多さんのワインに興味を持ち、直接購入する方の割合が多いといいます。
「販売先の選定については、ブランドイメージを損なわず、フェルミエの取り組みを作り手に代わって顧客に訴求してもらうことが可能なところがよいと考えています。相互に、長期的な信頼関係を構築できるのが望ましいですね」
あえて販売先を絞ることで、希少価値が生まれ、さらにブランドイメージが高まるという戦略です。
フェルミエでは、「新潟のワインを世界へ!」をミッションに掲げ、これからもこだわりのワイン作りに取り組んでいいきます。
関連記事:遊牧舎 秦牧場のブタがシェフに選ばれる理由【ファームジャーニー :北海道十勝】
ワイナリー&レストラン Fermier(フェルミエ)
新潟県新潟市西浦区越前浜4501
0256-70-2646
https://fermier.jp/
※写真提供:フェルミエ