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インターネット通販・ホームページ・広告も不要 神奈川野菜の行商人が求められる理由

インターネット通販・ホームページ・広告も不要 神奈川野菜の行商人が求められる理由

2017年08月23日

スタートは50歳のときから。神奈川県の野菜のみを扱う行商人となった三好さんは、13年間移動販売を続けています。それらの野菜は、極力農薬を減らすか、無使用で作られたものばかり。「野菜が人をつなぎ、思いをつないでいく」という三好さんの野菜販売スタイルに迫ります。

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大型バンで神奈川県内を巡り、生産者から仕入れをして野菜を移動販売している人がいます。三好豊(みよしゆたか)さん。この販売スタイルになってから13年になりますが、神奈川県の安全でおいしい野菜とのつきあいは30年になります。

仕入れは週2回、販売は週5回、県内10カ所以上で行っている三好さんですが、ホームページもなく、SNSもやっておらず広告も出していません。インターネット通販もなし。店名も屋号も持っていません。販売場所は目抜き通りなどではなく、住宅街の中の雑居ビルや、駅から離れた美容室の駐車場、グループホーム前、個人宅の玄関前などで、マルシェやイベントなどにも出ていません。

しかし、どの販売場所でも多いときは30人から40人が野菜を購入していきます。しかもその9割以上がリピーターです。このスタイルでなぜ、販売を続けていられるのでしょうか。

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コミュニケーションの場でもある販売場所

三好さんが仕入れをする農家は主に9人の生産者。その野菜はいずれも、三好さんいわく「命を賭けて」極力農薬を減らすか、無使用で作られたものばかりです。ひとくち食べると、スーパーなどで売られているものとの味の違い、特にその野菜ならではの味の濃さや香りに驚かされます。

どこの販売場所でも、三好さんが野菜を並べ終わる前に、次々とお客さんがやってきます。
みんな口々に「こんにちは〜」「これはどうやって食べるの?」など三好さんに話しかけて会話が弾み、無言で買い物していく人はほぼいません。

「小沢さんの人参、農薬使ってないけど今日はお安く100g40円、深瀬さんのスイカ、神奈川のスイカは来週が最後だよ」というように、会計のときも生産者の情報や旬の話などを交えます。

三好さんが販売する場所は、「ここで野菜販売をしてほしい」と雑居ビルのオーナーや美容室のオーナーなどに依頼された所で、賃料は無料。その代わり、お礼として三好さんが販売するおいしい野菜をおすそ分けしているそうです。


三好さんの朝は8時から始まります。横浜市の自宅を出て、仕入れのため三浦半島から伊勢原、小田原まで生産者を回り、次々に野菜をバンに詰め込み、販売場所へ車を走らせます。販売は午後4時半から5時ぐらいに開始し、午後8時過ぎぐらいで終了。後片付けなどで全てが終わるのは夜9時過ぎで、これを全部一人でやっています。体力の消耗は相当なものだと思いますが、「生産者と会って元気をもらって、お客さんからも野菜からも元気をもらってるから、やめられないですよ」と三好さんは笑います。

作る人と食べる人をつなげる試み

三好さんは高校卒業後、民衆演劇で知られる劇団「展望」に劇団員として所属していました。市井に生きる人びとの日常を通し、社会の矛盾や差別などの問題について考えるような演目が多かったそうです。

7年目に退団し、劇団時代の演目を通して「その土地に根付く仕事・生き方」に興味を持っていた三好さんが就いた職は、生産者が消費者に直接野菜を販売するシステムを、生産者自らが編み出した神奈川農畜産物供給センターの職員でした。

この会社ができた1970年代、神奈川県は東京のベッドタウンとして急ピッチで開発が進んでいた頃。農地はどんどん宅地化され、沿岸部は工業地帯へと変貌。国としても県としても神奈川の農業者を守るような施策はありませんでした。それに加えて、日本各地で公害問題が勃発。環境汚染や農薬問題など、食の安全性が危惧される中、優良な野菜を作りたいと思う生産者たちが四方八方から追い込まれていたのです。


「こんな時代だからこそ、安全な土で育ったおいしい野菜を求める人たちがいるはず。自分たちで販路を開拓し、農を守ろう」と立ち上がった生産者たちの心意気に応じて会員になった人の多くは、子どもを持つお母さんたちでした。こうして、現在の生活協同組合の宅配と同じような販売システムができあがりました。

三好さんにとって、可能な限り農薬を減らそうと努力している生産者たちの姿勢や、育てられた野菜のおいしさは、心を揺るがすものでした。生産者と会うたびに野菜作りに関して質問し、個々がどのようなこだわりを持っているのか。それによってできあがった野菜にどんな個性が生まれるのかを学び続けました。こうした繰り返しが三好さんを野菜の目利きに育て、生産者からも一目置かれる存在になっていったのです。

50歳で「個人の神奈川野菜専門の行商人」へ


神奈川農畜産物供給センター入社から17年目、三好さんにまたもや転機が訪れます。新しい挑戦に向けて、会社を退職することにしたのです。「そのとき、50歳でした。自分ができることは何かと考えたとき、神奈川の生産者限定の農産物のみを扱う移動販売をやってみようと思ったんです」

その話を聞いた誰もが「神奈川県産限定の移動販売なんて成り立つわけがない」と言ったそうです。しかし、生産者として三好さん自身が尊敬し、この人が作るものなら間違いないと思っていた9人の生産者が「三好さんがやるなら応援するよ」と、支えてくれたのです。

三好さんとのつきあいが30年になる、小田原でキウイやブルーベリー、梅などを作る農家は「三好くんとはお互いの子どもが同じような年齢ということもあって、『子どもには安全でおいしいものを食べてもらいたい』とよく語り合っていました。自分たちと同じ思いを持っていることはわかっていたので、彼なら私たちの農産物と消費者をつないでくれると確信していました」と話しています。

野菜売りは表現の1つの手段


「野菜を売るのは、自分にとって表現方法の一つ」。三好さんが言った印象的な言葉です。

三好さんは、里山と人のつながりをふたたび取り戻そうと、山・森・畑などでの活動などを行っている、横浜市のNPO法人「よこはま里山研究所(略称:NORA)」の副理事長も務めています。そこで三好さんは、戦時中の体験を描いた作家・郷静子の「れくいえむ」や宮澤賢治の作品などを、紙芝居や絵本の読み聞かせなどで次世代に伝えています。そのような題材は、私たちが忘れてはならない自然とのつながりをテーマにしたものが多く、三好さんが扱う野菜の背後にあるものと共通しています。


時には、三好さんが扱う野菜を使った料理を食べる会も開かれます。野菜の味を再発見したり、そのおいしさに驚いたり、食のコミュニティーの場になっているそうです。野菜が人をつなぎ、思いをつないでいくのです。

三好さんから野菜を買うことは、農薬をできる限り使用しない生産方法を守ることになります。それは、環境問題や地域コミュニティー、子育てなどの課題に向き合うことにもつながっています。

演劇人だった時代から、三好さんが追い求めていたのは「誰でも当たり前に幸福に暮らせる社会」であり、みんなが関わってつくっていくこと。現在、三好さんは野菜を売ることを通して、それを表現しているのでしょう。

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よこはま里山研究所(NORA)

横浜市南区宿町2-40大和ビル駐車場
三好さん野菜販売時間は毎週火曜日17:00〜19:00頃
http://nora-yokohama.org/
三好さんのコラム(ペンネーム:おもろ童子)
http://nora-yokohama.org/reading/archives/category/okogenoohanashi/

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