こんにちは。オーガニックの魅力を伝え、生活の一部としてもらうためのオーガニック情報専門メディアGON(Global Organic Network)日本語サイト編集長の中村です。この連載では、オーガニックという視点から見た農業について紹介してまいります。今回のテーマは「いのち育む田んぼ米」です。
先月7月29日と30日に、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された「オーガニックライフスタイルEXPO」の新規就農者応援ゾーンには、全国からおよそ50人を超える就農者が集まり、環境保全型農法に関する情報の発表や農産物の展示が行われました。そこで、「第二の『こうのとり米』を目指しているんですよ!」という意気込みを持たれている徳島県小松島市生物多様性農業推進協議会幹事長の石原正裕(いしはらまさひろ)さんにお話をうかがいました。
「こうのとり米」とは
石原さんが目指している「こうのとり米」とは、もともと兵庫県豊岡市が市をあげて環境創造型農業に取り組み、ブランド構築に成功したお米です。豊岡市は日本で最後までこうのとりが生息していた町なのですが、1971年に絶滅が確認されました。その深い喪失感から、再び、こうのとりとともに生きる町にしようと立ち上がり、安心・安全なお米とたくさんの生きものを同時に育む農法を模索しました。そして、長い年月をかけて「こうのとり育むお米」ができたのです。
徳島県小松島市は、こうのとりの豊岡市やトキの野生復帰を目指す佐渡を何度も訪れて勉強を重ねました。そして、2010年に地域の自然生態系と生きものがつくる美しい田園風景を守るために、農薬を除草剤散布1回だけ、または農薬を一切使わないでお米を栽培する「いのち育むたんぼ米」という地域認証制度をスタートさせました。地元のJA「JA東とくしま」もこの取り組みに賛同し、ネオニコチノイド系農薬の使用を大幅に削減してくれました。
小松島市の「いのち育む農法」による「いのち育むたんぼ米」
認証ラベルのイラストにもあるように、田んぼには様々な生き物が棲んでいるのが自然の状態です。しかし、それが農薬や化学肥料が多量に投与されることによって、慣行農業では生き物が棲めない田んぼになってしまったのです。
小松島市の「いのち育むたんぼ米」の認定を受けるためには、「いのち育む農法」を実践しなければなりません。「いのち育む農法」としては、2つの栽培方法が指定されています。ひとつは100%低減として、栽培期間中、化学合成農薬と化学合成肥料をいっさい使わず栽培する方法です。使用可能な農薬・肥料としては有機JAS適合のものと同協議会が認めたもののみとしています。オーガニックの有機JASレベルです。
もうひとつは、1999年に制定された持続農業法に基づいたエコファーマー取得の基準で、化学合成農薬は除草剤1回まで、化学合成肥料を50%以上低減することとしています。こちらは、特別栽培農産物のレベルといえるでしょう。
両栽培法に共通する注意点や実行項目としては、お米を収穫したときにできる稲ワラを収穫後すぐに、発酵鶏糞などの肥料とともに田んぼに鋤き込んで、土中で発酵堆肥化して地力を増進させること、そして、種の消毒にも化学合成農薬を使用しないことが挙げられています。
地域総出の田んぼの生きもの調査で「いのち育む農法」を確認
田んぼの生きもの調査を行うことも挙げられています。
同協議会では、年に数回、田んぼの生きもの調査を実施しているそうです。これに参加するか、各地域が一体となって田んぼの生きもの調査を年2~3回程度行うことが条件に挙げられています。生きものが棲んでいてこそ、「いのち育む農法」の証明となるのです。同市田浦地区・坂野地区では子どもたちも巻き込んで「田んぼの生きもの探検隊」を組織しているそうです。
米農家の取り組みで重視していることは、冬の間でも田んぼに「いのちを育む」ために、各地域グループごとに「ふゆみず田んぼ」を設置することです。ここで重視されている「ふゆみず田んぼ」とは、どんなものでしょうか。
寒い冬を越えて多くの生きものを育む「ふゆみず田んぼ」
「ふゆみず田んぼ」とは、冬の田んぼに水を張る農法です。普通、稲刈り後の田んぼは翌年の田植え直前まで冠水せず、田んぼを乾かしてしまいます。その方が翌春、田んぼに入れた農機の作業がしやすいとか、土が乾いて有機物が分解し、それが翌年の肥料となるからです。「ふゆみず田んぼ」は小松原市の「いのち育む農法」を推進する大切なツールの一つといえるでしょう。一方、水が張ってある「ふゆみず田んぼ」では、水中の生きものが活発に動き、働きを高めて雑草の生長を抑えたり、稲に必要な栄養分をつくったりします。また、渡り鳥の休息地にもなり、生きものが集まって地力が増していきます。小松島市ではホタルも増えたそうです。
田んぼに生きものが増えると子どもたちの目も輝く
協議会の活動によって田んぼに生きものが増えることで、虫や生きもの好きの子は多いので子供たちの田んぼへの関心を引き付けることができました。協議会では田んぼの生きもの図画コンテストもしています。昨年は48人もの子どもたちが参加したそうです。
小松島市では田んぼの生きものが増え、それを子供たちも喜び、その喜びを大人たちが米づくりの支えにしている、そのような自然と豊かな心の循環が石原さんのお話から伝わってきました。
「お米」は、私たち日本人の主食で、いちばん身近な穀物です。お米のために心を込めて栽培して下さっているかを知ることで、昔から言われている「ご飯は最後の一粒まで大切に、残さず食べなさい」という言葉を改めて考えました。