近年、女性を中心に人気が高まっているリンゴの発泡酒「シードル」。2015年には、シードルの普及を目指す日本シードルマスター協会が誕生し、東京都、長野県、北海道で大規模な試飲イベントが開催されるなど、シードル文化が今、広がりを見せ始めています。人気の秘密はどんなところにあるのでしょうか。日本シードルマスター協会統括役員の小野司(おのつかさ)さんに、協会の活動内容とシードルの魅力について、お話をうかがいました。
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80銘柄が参加したテイスティングイベント「東京シードルコレクション」
2017年7月に開催された「第2回東京シードルコレクション」は、日本を含む世界6か国、80銘柄以上のシードルがテイスティングできる、日本最大級のシードル試飲イベントです。400名の一般参加者を動員し、大盛況となった本イベントの仕掛け人が、日本シードルマスター協会の小野さんです。
「東京シードルコレクションの開催は今年で2回目。2016年11月には北海道、2017年5月には長野県でも地元の企業や団体にご協力いただき実施しました。回を追うごとに、参加スポンサー、スタッフ、一般来場者が増えてきています」。
協会設立からわずか2年で、4回ものイベントを成功させたところに、シードル文化の盛り上がりを感じます。
シードルを「いつでも、どこでも、おいしく」飲めることを目指して
日本シードルマスター協会は、「シードル文化の発信」と「シードルの正しい知識を持つ人材の育成」を目的に、2015年に設立されました。試飲イベントであるシードルコレクションの開催のほかに、シードル文化の情報発信を担う「シードルアンバサダー」認定試験を実施するなど、精力的に活動を行っています。
「シードルアンバサダー試験では、知識が単なるウンチクにならないよう、実践的な知識の習得を目指しています。例えば、シードルを飲食店や一般の方に紹介する際、どういう話をしたら興味を持ってもらえるか、どんな点を気にされるか、ということも学んでもらいます」。
「シードルを、いつでも、どこでも、おいしく飲める」ことを目指す、日本シードルマスター協会。その活動が、少しずつ広がり始めています。
世界的な人気を追い風に、シードル作りに参入する農家や醸造家が増加
少しずつ知名度を拡大するシードル。そのきっかけはあったのでしょうか。
「世界的に見ると、シードル、サイダーの生産量は2000年以降、年間4%ずつ伸びています。例えば、イギリスでは大量生産の時代を経て、アメリカでは健康志向や過去の禁酒法政策で失われたサイダー文化の復活を願って、地元産のリンゴを使った丁寧な酒造りが見直されています。そういった取り組みが、消費者のニーズと合致し、消費が伸びているという背景があります」。
世界的なシードルの盛り上がりと共に、日本でも国産リンゴでシードルを作る農家や醸造家が増えてきたと言います。「シードルの醸造を請け負うワイナリーや、リンゴをシードルに活用したいという農家が増えてきました。シードル専門の醸造所も誕生し、地域に密着した特色のあるシードルが作られるようになってきたことが、きっかけになったのではないでしょうか」。
2012年にキリンビールから『ハードシードル』が発売され、シードルを置く飲食店が増えたことテレビドラマでニッカシードルが取り上げられ、興味を持つ人が増えたことも追い風になりました。
世界的なムーブメントと大手酒造会社の市場参入、農家や醸造家の取り組みが実を結び、生まれたシードル人気。今後も、国産シードルの快進撃が期待されます。
リンゴや作り方の多様性を楽しむのがシードルの魅力
地シードルの魅力は、どういったところにあるのでしょうか。
「シードルは、3つの品種のリンゴをブレンドすることで、風味の違いが生まれます。『ふじ』などのスイート種、『紅玉』『グラニースミス』に代表される酸味が特長のクッキングアップル、渋さが特長のシードル用品種など、甘い、酸っぱい、渋いを、どうブレンドするかでシードルの個性は大きく異なります」。
そのため、同じ醸造家が作ったとしても、リンゴの生産者ごとに違った特長を持つシードルができるのです。「この多様性こそ、シードルの魅力」だと小野さんは言います。「飲み比べてみると、シードルごとの個性の違いに驚きますよ。同じシードルとは思えないほど、個性が豊かなんです。ワインのように格付けがあるわけではなく、様々な個性を認め、リンゴの違いや作り方の違いを楽しむのがシードル。多様性を大切にする文化なんです」。
東京シードルコレクションで世界のシードルを提供したのも、多様性を楽しんでほしいという気持ちからだと、小野さんは言います。地域や作り手ごとの豊かな個性を楽しめるのが、シードルの人気の秘密と言えそうです。
今後、ますます過熱しそうなシードル人気。しかし、小野さんは急激な盛り上がりには懸念を見せます。「国産シードルは、ようやくスタートラインに立ったところ。急にブームになっても、生産が追いつかなくて一過性で終わってしまっては意味がありません。協会が目指す、いつでも、どこでも、おいしくシードルが飲めるようになるには、生産者が安心して自分たちのシードル作りに取り組めることが大切です。多くの人にシードルを知ってもらうことは重要ですが、生産や流通とのバランスも考えながら、普及に取り組みたいですね」。
そのためにも、小野さんは丁寧な情報発信を心がけています。日本シードル協会のホームページでは、シードルが飲めるお店や醸造所の紹介も行っています。シードルの魅力を味わってみたい方は、ホームページをチェックして、実際にシードルを飲み比べてみてはいかがでしょうか。
写真提供:小野司さん
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