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ネギで描く未来。生産と流通にイノベーションを。

ネギで描く未来。生産と流通にイノベーションを。

農業法人「アルファイノベーション」代表の山田浩太(やまだこうた)さんは、経営コンサルティング会社で農業分野のコンサルティングを行ってきた。「天候などの変動要素が多いからこそ、農業にも一般の製造業のような緻密な計画が必要」と考えた山田さんは自ら会社を起し、2012年から埼玉県白岡市でネギの生産を開始した。
農業の現場で、プラスアルファのイノベーション(改革)に挑戦する山田さんが目指す姿とは。

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農業をマネジメントする

山田浩太さん
事業は「始めること」より「続けること」が大切であることは言うまでもない。今、変化が起きているのであれば、この先にだって変化はある。チャンスをもたらす場合もあれば、逆風となる場面もある。その変化にどのように向き合い、対応していくのか。または、そこでいかに磐石な体制を構築するのか。今、目の前で起きている事象に向き合う力と、将来に備える構え。事業を発展させ、続けていくためには「マネジメント」という視点を持って、組織を運営していく必要がある。それは企業経営に限ったことではない。農業にだって当てはまる。いや、むしろ農業にこそ求められていることかも知れない。

求められることに応える

農業経営者
山田浩太さんはコンサルティングを通して、様々な農家や農業経営者、これから農業を始めたいという人に出会ってきた。「どの人も農業のエキスパートで、手掛ける農作物はどれもすばらしいもの」だからこそ、市場のニーズに応える、マーケティングの視点を持ったら、彼らはもっと強くなると感じた。「誰に対して、いつ、何を届ける」。より明確なビジョンを持って農作物を生産する。山田さんは、農業が産業として成熟するタイミングだと捉えた。
「農業をビジネスとして捉えれば、同じものづくりの現場である製造業の常識を照らし合わせることができる。そこには、顧客のニーズにどのように応えていくかという計画もあるだろう」。
これまで生産者は、自然との闘いの中で農産物を作ることに集中してきた。できあがった農産物を売るのは他に任せざるを得ない状況もあった。しかし、流通網の発達と消費者のニーズが細分化した今日においては、生産者にも作ることに集中するだけでなく、自らが販売することも考えることが要求されるようになった。
無理に売るのはつらい。欲しい人に、欲しいときに、欲しい数をきちんと届ける。求められることに応えることが、何よりビジネスの原点。農業に経営という姿が求められる時代がやってきた。
 
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マーケットを調査した結果のネギ生産

ネギ生産
山田さんが生産品目に「ネギ」を選んだのには理由がある。マーケットサイズと投資リスクの二つの観点を重視した。
日本人の野菜別の消費金額のトップは断トツでトマト。次いでネギ、キュウリがトマトの約半額、その後にレタスやキャベツが続く。新規参入を検討するに当たって、トマトやキュウリはハウス栽培が主流で設備投資額が高い。そのリスクを回避するためにも、露地栽培で収益も望める「ネギ」に注目したのは必然のことだった。
通年で安定した需要が見込めることもネギの魅力だった。
ネギを生産する上で心がけているのは「新しいやり方を自分たちで作っていくこと」。既存の経験に基づいたルーティンの繰り返しでは改善につながらない。むしろ、ノウハウの継承が、かえって停滞というリスクを生むことになる場合もある。変化は必ず訪れる。これが成功モデルだと呼べる最終形態はないという経営者としての信念を持っている。
製造業なら、繰り返し作ることにも改善点を見出し、次の開発につなげる。毎日、そのチャンスはあるが、長年農業に従事している人の考えは異なる。ほとんどの農作物の生産は年一回。完成したプロセスを繰り返す以外の選択肢を持たない。「農作物の生産現場だって、日々の検証が明日の改善につながるはず。気がついたことを実践する」ために、スタッフは柔軟性を持つ若者を採用している。
例えば、ネギの一大ブランド「深谷ネギ」はそのほとんどが冬場にしか市場に出回らない。「旬にこだわるのも判断。ネギという野菜は、ネギそのものが食材になる場面と、薬味として業務用に使用される場合がある。後者のニーズは一年中ある」。また、白岡市はナシの名産地で、秋の声が聞こえ始めるころに出荷のピークを迎える。繁忙期と閑散期の差が大きい作物は、自身の法人で取り扱うのは不向きであるという判断もあった。
「通年を通して、ネギを安定供給していくこと」にビジネスチャンスを見出した。

いかに労働力を確保するのか

労働力

山田さんがネギの生産と販売の安定・拡大を目指すもう一つの原動力は、農福連携のビジネスモデルを確立することだ。山田さんはネギを生産する「アルファイノベーション」代表のほかに、障がい者就労継続支援B型事業所の認定を受けるNPO法人「めぐみの里」の理事長という顔も併せ持つ。

コンサルティング会社に勤務していた2006年に、障害者自立支援法が施行された。その中に盛り込まれた就労継続支援事業は、一般企業で働くことが難しい障がい者に就労の機会を提供し、就労するために必要な知識の習得と能力の向上の訓練を行うもの。

かねてから、農福連携に関心を持っていた山田さんは、当初から自身の農業経営のプランに、その事業制度を取り入れることを考えた。「どの分野も共通する課題であるが、農業は特に労働人口の減少が深刻。一方で、障がい者人口が増えていることも事実で、そこを繋げることができないか。農作業や出荷作業を通して、彼らが自立していくこと。いつか一般就労も可能になれば、彼らにとっても、地域社会や、我々事業者、ひいては消費者にとってもプラスになる」。その思いをめぐみの里で具現化した。

 

農福連携で切り拓くそれぞれの未来

農福連携
ネギの生産・販売の一連の業務の中で、特にコストが集中するのは出荷作業だ。その機械化と人件費の縮減は、収益の確保を維持するための企業課題となる。事業を安定化し、継続するために、アルファ社はめぐみの里に栽培・出荷作業を依頼する。めぐみの里の利用者は職員とともに、就労訓練として農作業を行うことで、互いに恩恵を享受する。利用者は農作業の現場で、知識や経験を積んで、一般社会で活躍できるスキルを研鑽し、工賃を得る。「障がい者が携わっていることを特別視していない。彼らには社会的、経済的に自立した生活を送ってもらうことを目的にしている」。そのため、彼らには、製造業・サービス業の現場で用いられるスローガン「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」を徹底する。組織として当たり前に行うことを彼らにも理解してもらいたい。他の組織でも通用する心構えを身につけて欲しいという考えから、作業の効率化のための設備改善は行うが「障がい者にとって優しい」改修は行わないという姿勢を貫く。一般就労を志すということは、与えられた職場で仕事をすること。「利用者がつまずかないように、作業場の段差をなくすことは簡単なこと。でもそれは本質的なことではない。彼らの人生を考えたとき、つまずかないように気をつけることを教えることのほうが重要」。
ネギの生産を通しての農福連携。山田さんが手掛ける障がい者の一般就労への取り組みは、農業と福祉の親和性を証明する機会でもある。

ネギでつながるネットワーク

ネットワーク
生産したネギの販売先は、大手の外食チェーンや食品加工会社など約30社。品質はもちろん、安定した価格と供給量が求められる。そのニーズに応えるために、年間計画を立て、年間の売上げ予測と経費の調整を図っている。その情報をスタッフ間で共有し、全員が経営に参画するかのように、自ら考えることを求めている。常時栽培実験を行い、安定供給への対策を怠らないのは、その意識の表れだ。
しかし、どれだけ綿密に計画しても、農業の変動要素はゼロにはならない。その対策の一つとして、流通を専門に行う株式会社アグリジョインを設立した。山田さん自身がコンサルティングで関係を構築した全国30の農家・産地と連携し、必要な場所に、必要な量を提供する体制を強化した。「スケールメリットと、リスクの回避。近い場所から届けるという相乗効果を生んでいる」。
アルファイノベーション、めぐみの里、アグリジョイン。三つの組織のネットワークを構築し、ネギという農産物の生産、出荷、流通のシステムを確立した。
後発の農業経営者としては、従来の農業経営者との差別化は必然。山田さんは「この企業姿勢そのものが差別化になっている」と自負する。

より高い地点へスパイラルアップ

スパイラルアップ
コンサルティングからスタートして、自ら農業経営に携わって5年。「今後は食糧自給率の本質に迫って行きたい」と話す。日本国内の食糧自給率は40%という数字が出ているが、山田さんはその数字に疑問を持つ。農作物を生産する上で使用する化学肥料は輸入に頼っているのが現状。「不確定要素はできる限り排除したい」。コンサルティング会社で、食品リサイクルビジネスを担当したことが農業に関心を持った原点。安定を標榜する立場では、他者に依存する農業はしたくない。「家庭から出る生ゴミを肥料として活用する食品リサイクルを実現し、原材料からの地産できる循環型農業を実現したい」。堆肥の悪臭や利便性など、現状は問題が山積しているが「いつか地域の有機的な資源を肥料として、100%地産のネギを届けたい」という夢もある。
スタッフと共有する夢、今は自分の中に秘める希望。それらに近づくために、一部門、一スタッフが突き抜けて成長するのではなく、相互が面として拡大し、少しずつ上昇するイメージ、スパイラルアップしていく体制を作っていきたい。
今ある経営資源と、今後構築していく資源が混ざり合い、今日より明日、より堅実でより良い経営環境を構築していくことが、山田さんの農業経営の真髄だ。求める将来像に向けての現在地。山田さんの「想い」と「現実」には距離がない。現実に寄り添いながら、掲げるビジョンを更新していく。そこに完成はない。山田さんの挑戦はいつも途上にある。

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