1:住民同士のコミュニケーションが少ない
集落環境診断の効果が出にくい地域は、住民のまとまりがよくない傾向があります。草刈りなど、集落としてやるべき必要最低限の活動がままならないほど、まとまりが失われている地域もあるそうです。家の戸数が多く、かつ分散している集落も、住民の意見がまとまりにくいため、診断後の対策実行が難しいケースもあります。
「集落環境診断は、集落で協力して実施する必要があります。畑地が点在しているなど、地形上動物が入りやすい集落の場合、集落全体で対策を練らないと効果が出ません。一部の畑で対策したとしても、動物たちは別の畑に行ってしまいます。
また、住民をまとめるにはリーダーの存在が不可欠です。獣害対策の勉強会や診断への参加を呼び掛けたり、率先して行動し、集落全体の団結を促していく人が必要なのです」(山本さん)。
2:対策後の検証と改善を行わない
集落環境診断でつまずくポイントは地域によって異なります。動物の個体数密度や加害群度が高かったり、出没する獣種が多かったりと地域ごとに様々な悩みを抱えており、診断が一筋縄ではいかないこともあります。
「防除柵による対策をしても破られてしまい、常にいたちごっこの状態が続いている地域もあります。獣害対策は、一度やったら終わりではありません。計画、実行の後は、効果を検証して改善する、というプロセスを繰り返して取り組んでいかなければなりません」。
3:対策のための費用がかかる
獣害対策に必要な予算がネックになる地域も珍しくありません。そんな時は、補助金なども検討します。
「獣から農作物を守る電気柵に関しては、農水省や市町村の補助金があるので導入するのは比較的難しくありません。
最も大変なのは、集落に近い藪や耕作放棄地といった場所の草刈りや間伐をして、見通しを良くするなど緩衝帯を整備することです。林野庁の『森林多面的補助金』というものもありますが、使える場所は民有林に限られています。補助金はあっても1度目の整備にしか使えないため、緩衝帯の維持管理を支援してくれる補助金はありません。
使える補助金は、各都道府県あるいは市区町村によって違うので、地域の役所の職員と相談しながら検討していくとスムーズです」。
その他、森を管理したくても持ち主がわからなかったり、空き家の管理を持ち主がしてくれなかったりという問題もあります。これらについては、まだ根本的な解決策がないのが現状です。
【関連記事はこちら!】
>野生動物による被害を徹底分析 狩猟・捕獲とは違う獣害対策「集落環境診断」
平均年齢80歳以上の地域でも獣害対策が成功した事例
集落環境診断は、行政を含め、地域全体で取り組むことが大切です。一見、実行が困難な地域でも住民たちが自発的に対策を決め、一体感を持って実行していくことで集落環境診断を成功させることができます。
新潟のある集落で、サルの被害対策のため集落診断の会議が開かれました。集まった住民は、平均年齢が80歳以上。自己流で電気柵を設置していましたが、賢いサルに破られていました。
当初、住民たちは「3日間に渡って行われる集落診断は体力的に厳しい」と消極的でした。しかし、診断が進むと少しずつ前向きになり、最終的には共同の畑を電気柵で囲い、周辺の藪を刈って、住民みんなで管理していくことになりました。電気柵の設置は、山本さんたちが正しい方法を教えます。
ただ、この集落には草刈りをする労働力が十分にありません。そこで、外部の人材を導入して住民たちと一緒に行うことになりました。草刈りができないおばあさんたちには、地元の野菜で芋煮を作ってもらい、協力者に振る舞うことでコミュニケーションを深めてもらいました。
翌年、山本さんがこの集落を訪ねると、「10年間被害に遭い続けて、全く収穫できなかったスイカを食べられるようになった」という声をかけてもらったそうです。
「集落環境診断は、環境調査に基づいた診断を行う過程を、私たちのような獣害対策の専門家と住民とが一緒に行います。専門家は道筋を示し、対策は提案しますが、最終的に決めて運用していくのは住民のみなさんです。住民のみなさんが自発的に動けば、高齢化が進む地域でも結果を出すことはできるのです」。
獣害にお悩みの方は、地域のみなさんと一緒に「集落環境診断」を検討してみてはいかがでしょうか。地域で一丸となって取り組むことで、解決策が導かれるはずです。
関連記事:野生動物による被害を徹底分析 狩猟・捕獲とは違う獣害対策「集落環境診断」
ふるさとけものネットワーク
http://furusato-kemono.net/
写真提供:ふるさとけものネットワーク