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女性ならではの視点で稼げる農業を実現する 姉妹でつなぐ家族の歴史

女性ならではの視点で稼げる農業を実現する 姉妹でつなぐ家族の歴史

広島県廿日市(はつかいち)で、父と姉妹で運営する前川農園。農家ではない職業に就いていた二人の姉妹が、なぜ農園を始めたのでしょうか。意識している女性ならではの視点とは。前川農園副代表の池田淳子(いけだじゅんこ)さんにお話をうかがいました。

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-池田さん姉妹が運営している前川農園について教えてください。

前川農園は、広島県廿日市にある農園です。実家の土地を引き継ぎ、2015年に姉と二人でスタートしました。お米の他に、タマネギやニンニク、唐辛子などを中心に季節に応じた少量多品目の野菜も作っています。農園は誰でも気軽に遊びに立ちよれるスタイルで、私たちの新鮮な野菜でつくってもらったジェラートなども用意しています。

こだわっているのは、女性ならではの視点を取り入れることです。例えば、バターナッツという品種のかぼちゃを作っているのですが、めずらしい野菜なので普通に置いているだけではなかなか売れません。そこで、目や鼻をつけて顔に見立てて販売すると、かわいいと話も弾み販売にもつながりやすくなります。他に意識していることは、女性でも食べやすいように小ぶりの野菜をつくること。持ち帰りやすいので、女性だけでなく高齢の方にも人気です。食べきりサイズなので、無駄にもなりません。

自分たちで農園を経営しながら、農林水産省の行っている「農業女子プロジェクト」にも所属しています。その中で、女性目線の農業機械の開発にも関わりました。農業機械って、基本的には男性向けに作られているものです。例えば耕運機。大きすぎて、ちょっとした作業をするためにわざわざ倉庫から出すのは少し面倒です。しかも、私たちのように、小さい面積の畑をいくつも持っている農家にとっては、斜面から落ちるリスクもあり、大きいと危ないのです。

そこで、メーカーとタイアップして女性にも扱いやすいようなミニ耕運機を作りました。女性に使いやすいということは、農業に慣れていない初心者や体力が衰えてきた高齢者の方にも使いやすいということ。そういう道具が増えたほうが農業を始める人も増えます。メーカーの人とつながって、自分たちにとっても使いやすい機械を作れるのは嬉しいことです。

-女性ならではの視点を農業に取り入れることで、より多くの人が農業に関わりやすくなるということですね。前川農園を始めたのは2015年ということですが、以前は何の仕事をしていたのでしょうか。

私は保育士で、姉はデパート関係の仕事をしていましたが、実家が兼業農家で小さい頃から毎年田植えや収穫の手伝いをしていました。田んぼ仕事をする父の背中を見て育ったので、農業がいかに大変なのかは実感していました。

仕事を引退してからの父は、米だけでなく野菜も作り始めました。ところが商売っ気は全くなく、せっかく苦労して作ったのに近所の人にあげてしまうのです。おいしい野菜を作ること以外に興味がなかったのかもしれませんが、それでは生活は成り立ちません。

このままいくと、誰も継ぐ人がいなくなりやがて田んぼや畑だった場所は失われてしまいます。その土地は、やがて私たち姉妹のどちらかが継ぐことになります。実家の農業を稼げるようにしなければ、土地を残していくことはできない。私たちの思い出の場所である田畑や実家を手放したくはないし、父が元気なうちに農業を教わらなければいけない。そう考えて、姉妹で父の農場を継ぐことにしたのです。

-自分たちの慣れ親しんだ土地を守るために農業を本格的に始めたのですね。
最初から専業農家としてスタートしたのでしょうか?

最初はパートに出ながら畑仕事をしていました。ただ、両立するのは難しかったです。パートをしていると、どうしても決まった時間に出社しなければいけません。その日に終わらせなければならない収穫作業があるのに終わらない日々が続き、パートをやめて農業に専念することに決めました。

その分、農業で安定した収入を得ることが必要となり、販路を開拓するため姉と奮闘する日々でした。最初は、2軒のスーパーに野菜を置いてもらうことから始まりました。小袋にしたものを荷造りをして、自分で値段をつけます。初めてのことなので、どのくらいの価格にすればいいのかわかりませんでしたが、手探り状態でで続けました。

それから、マルシェやレストランなどに営業しました。姉は営業が得意でしたが、地元を離れて仕事に出ていたので、地元の人とのつながりは深くありません。逆に私は話すのは苦手でしたが、地元で保育士として勤めていたので、地元の人には顔が効きました。そこで、二人一緒に野菜を使ってもらえないかお願いして回りました。

最初は反応が悪かったんですけど、レストランを経営している人が保育士時代に教えていた子どもの親御さんだったりと、少しずつ野菜を取り扱ってくれる場所が増えました。そして、介護施設の給食に使ってもらえることも決まりました。しかも、とれた野菜によって献立を考えていただけるので、安定した取引ができます。

一方で、販路を開拓しても、価格が安すぎて商売にならないこともあります。収益化するために品種を絞ったり、地道な営業を続けています。大変なことも多いですが、自分から売り込まないと収入にはつながりません。

-稼げる農業を実現するために、農業に関わっていない一般の方にどのようなことを伝えたいですか?

農家を続けていくために適正価格を知ってほしいです。農業はなくなってはいけない産業です。若い人が農業で稼げるようにするためにも、価格を守るという意識を持ってほしいのです。

地域の産直市場には、いろんな農家が野菜を出していますが、専業ではなく兼業でやっている方もたくさんいます。そういった方たちは、適正価格よりも安い値段をつけることもあります。悪気がないことはわかっていますが、専業農家がつけられる値段ではないので、やはり安い野菜が選ばれて高い野菜は売れません。それでは、専業農家の私たちが商売を続けられなくなってしまいます。

作物の価値を感じてもらうためには、実際に農場に来てもらうことが大切だと考えています。畑でどんなことが行われているか体験していただき、直接買っていただける繋がりを作れたらと思います。

また、加工品も広げたいと考えています。今は、ニンジンや玉ネギ、大根などを乾燥野菜にしたり、もち米でお餅を作っています。お餅はタンチョウという品種のもち米にこだわり、今では珍しい台唐(だいがら)という木製の足踏み式の杵でつく、昔ながらの製法で作ったものをわが家の商品として販売しています。

今後は、加工専売の野菜を作ることも検討しています。加工場がなかったり、加工方法がわからなかったり、パッケージを作る技術がなかったりと、課題は山積みです。野菜をつくることに専念して、後はそれぞれの分野のプロフェッショナルの方たちと連携しながら加工品を作っていきたいです。

-大変なことも多いと思いますが、農業で感じるやりがいや楽しさはどのようなことでしょうか?

野菜が育つ過程を見るのが好きです。種から芽が出て、すくすくと育って大きな実をつけることは、とても神秘的なことだと思います。立派に育った実を見ると楽しいですし、達成感も感じます。雨や風に晒されても立ち直る姿にも、本当に感動します。

買われた野菜がどうやって使われているかを姉と一緒に想像するのも好きです。買った方が、どんな調理をしてどう食べているのか。想像するだけで、ウキウキします。

大変なこともありますが、私たちの土地をこれからも守るため、「稼げる農業」を目指し続けます。

前川農園Facebookページ
https://www.facebook.com/maekawanouen/

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