茶農家のアルバイトで拓けた「農業デザイナー」への道
江藤さんは、都内のデザイン会社にデザイナーとして勤務していました。しかし、デザインが“大量生産・大量消費”される現状に疑問を感じ、退職。その後、農業に関心を持ち、様々な農家でアルバイトを経験し「これが天職だ」と思ったそうです。
就農することを考えたものの、「初期費用は3,000万円」「女性一人での農業は難しい」「新規就農は東京では難しい」などと言われる現状を知り、就農へのハードルが想像以上に高いことを知りました。そこで、就農は最終目標にして、まずは地元近くの農家でアルバイトをすることを考え、2008年、江藤さんは地元、東京都西多摩郡瑞穂町の茶農家「東京の茶工房 西村園」の収穫アルバイトに応募しました。
西村園の西村一彦(にしむらかずひこ)さんは、応募者の経歴や特技を聞き出し、その人が持つ力を仕事で活かすようにしているそうです。そこで、江藤さんのデザイナーとしての経歴に目が留まりました。
「面接で『西村園のロゴを作ってくれないか』と言われて、収穫作業に携わりながら、ロゴマークを制作することになりました。これが農業デザイナーとして初めての仕事でした」。(江藤さん)
手がけた西村園のロゴマークは、人の手でお茶の葉を優しく包むようなシルエットです。「実際に現場で一緒に作業をすることで、人の手で丁寧にお茶が作られていく過程を肌で感じることができました。ロゴマークには、収穫作業を通して得た思いや感動を込めています」。
西村園のお茶をブランディング
ロゴマークの制作を機に、西村さんは江藤さんにデザインだけでなく、コンセプトの相談などもするようになり、関わりは一層深いものになっていきました。
ロゴマークの他にも、名刺、贈答品に添えるリーフレットなどを制作。2012年には、西村園初のオリジナルパッケージ商品として『東京紅茶MIZUHO』、その翌年には『東京狭山茶』の企画開発も行いました。「パッケージは、若い女性にも買ってもらえるようなデザインを意識しました。素材にクラフト紙を起用することで、お茶のこだわりの雰囲気を演出するほか、どこか温かみを感じられるようにしています」。
従来のお茶のパッケージとは一線を画したデザインは、様々な企業や団体の目に留まり、大手自動車販売店のギフト商品に採用されたほか、国土交通省関東運輸局主催の、外国人観光客に訴求する質の高い商品「TOKYO AROUND TOKYOブランド」にも認定され、観光振興奨励賞を受賞しました。
さらに2016年ごろから、『東京紅茶MIZUHO』と『東京狭山茶』をセットで販売することを提案。2017年、西村園と江藤さんが手がけた『東京紅茶MIZUHO』は瑞穂町の地場産品にも認定されました。2016年には、粋な江戸の食文化を楽しむことをコンセプトとした商業施設「両国江戸NOREN」のショップでも扱われるようになり、東京の食文化を伝える一商品として評価されるようになりました。
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瑞穂町の職人の技が光る 「東京みずほ学校」を主宰
江藤さんの活動のフィールドは、農業だけにとどまらず、街作りにも広がっています。2008年8月、瑞穂町の農園と協力し、地元の職人の技をより多くの人に知ってもらうためのプロジェクト「東京みずほ学校」を主宰として立ち上げました。
「地元のホームセンターで、農家さんや和菓子屋さんが作った商品を展示するイベントを開催しました。彼らが先生になり、上生菓子を作る実演や、東京狭山茶の講演なども行ったんですよ。地元の人でも知らないような、瑞穂町の職人の商品や想いが伝わるイベントになったと思います」。
「東京みずほ学校」は地元のホームセンターと相談してイベントなどの開催が決まり、西村さんの紹介で参加してくれる農家や職人が増えていったといいます。イベントを通じて、地域を支える事業主や支援機関と知り合い、この出会いがきっかけとなり仕事の幅が広がったそうです。
農作物や加工品のブランディングや、パッケージデザインを提供する事業者も増えてきました。しかし、ただ単にかわいいロゴや、おしゃれなパッケージを作るだけでは意味がありません。農家が抱える課題意識を共有したうえで着地点を定めて、デザインをしなければ効果はなかなか出ません。予算をかけてデザインを取り入れるなら、より効果的なものにしたいところです。
株式会社コトリコ
https://www.cotoricozue.com/
画像提供:株式会社コトリコ
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