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八百屋だから伝えられる野菜の魅力【八百屋ファイル:三茶ファーム】

八百屋だから伝えられる野菜の魅力【八百屋ファイル:三茶ファーム】

近年、無農薬や産地直送の野菜を販売する八百屋が都内を中心に増えています。彼らはどのような思いをもって八百屋を営んでいるのでしょうか。今回ご紹介するのは、東京都世田谷区三軒茶屋にある「三茶ファーム」です。有機栽培の野菜や、スーパーでは見かけないような珍しい野菜を扱うこだわりについて、オーナーの千田弘和(ちだひろかず)さんにうかがいました。

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「おいしい」を追求して出会ったこだわりの野菜を販売

オーナーの千田さん(左)と店長の佐々木さん(右)

「この街に住む一人として、おいしい青果が食べられる八百屋がほしかった」との思いから、2013年1月三軒茶屋に「三茶ファーム」をオープンした千田さん。

「自分たちが食べて『おいしい』と思う野菜を扱うことを大切にしています。自然と農薬を極力使わない野菜や、有機栽培の野菜が多くなってきましたね。もう一つのこだわりは、直送であること。農家さんから直接仕入れることで、栽培方法も味も把握出来るので、お客様にもきちんと説明が出来ます。おもしろいことに、農家さんごとに味の特長があるんですよ。土や地域、肥料の使い方によると思うのですが、たとえばAさんの作る野菜は味が濃くてはっきりしているとか、Bさんの野菜は甘いだけじゃなくて酸味やほろ苦さもきちんとあるとか。『Aさんの野菜が好き』と、その農家さんの野菜を目当てに購入されるお客様もいらっしゃいます」。

多くの品種を揃えて野菜の多様性を伝えていきたい

三茶ファームでは、季節に即した多彩な野菜を数多く取り扱っています。そこには「野菜がどんどん、面白くなくなっている」という千田さんの懸念があるそうです。

「野菜はスーパーに並んでいるもの以外にも、本当にたくさんの品種があるんですよ。ただスーパーの流通上、棚持ちがいいこと、つまり日持ちがして調理方法もわかりやすく、販売回転のいい野菜が重視されます。すると、作られる品種がどんどん限定されてきてナスもキュウリもカボチャも、どこで買っても同じになってしまい、野菜自体の魅力が半減しているように思えるんです。だからうちの店では一つの野菜でも数種類の品種を扱っています」。

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手間暇かけた野菜を普段の食卓に並べて欲しい

三茶ファームでは、珍しい野菜であっても「特別な野菜と思わず、普段使いをしてほしい」と価格をなるべく抑えるように努めています。しかし、価格設定には八百屋経営の難しさもあるといいます。

「野菜の価格は基本的には生産者さんに決めてもらい、送料と私たちの利益をプラスして値付けしています。八百屋を経営するのは難しいとよくいわれますが、その理由の一つが野菜の価格。栽培も配送もすべての工程で大変な手間がかかるのに対し、野菜自体は本当に安いと思います。手間暇かけた野菜と大量生産した野菜を比べても数十円ほどしか変わりません」。

関東近郊の農家を中心に仕入れることで送料コストを下げるなど、価格を抑える努力も怠りません。千田さんは元々システムエンジニアで企業の代表を務めていました。そのため、SE(システムエンジニア)のスキルを活かして、POS(ポス)システムを独自開発して導入しています。それによって、年間を通じた売上動向を把握できるようになり、ロスが少なくニーズにあった仕入れが出来るようになったそうです。

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管理栄養士のレシピ提案で野菜への興味を喚起

店長の佐々木碧(ささきみどり)さんは、管理栄養士として働いた経験の持ち主。野菜に関する知識はもちろんのこと、栄養バランスや食材の扱い方についても知識が豊富です。

店頭では販売している野菜のレシピを配布し、レシピサイトでも公開しています。「うちのお店は珍しい野菜が多いので、どう使えば良いかわからないという声も多いんです。店長が、『これはさっと茹でて使うと良いですよ』『卵と一緒に炒めるだけで一品になりますよ』などと、手軽に使える方法を紹介しているので、『それなら買ってみようか』とお客様が手にとるきっかけ作りをしてくれています」。

『おいしい』の背景にあるストーリーを伝えていきたい

産地直送にこだわると、スーパーのように品物が揃えられないこともあり、開店当初はそれをウィークポイントと感じていたそうです。

「たとえば、夏に『ホウレンソウはありますか?』と聞かれると、ホウレンソウの旬は冬なので、うちでは扱っていません。でも、『夏特有の濃い味わいのあるツルムラサキもおいしいですし、ホウレンソウと同じ調理法で使えますよ』と一言添えて提案すると、『なるほどね』と興味を持って購入してくださることもあります。これは対面販売ならではの強みですね」と佐々木さん。

「今はさまざまな種類の野菜が揃わないことも良しとしているんです。季節感のないものを無理に並べるよりも、その時にいちばんおいしい旬の野菜を食べてほしいです」と千田さんは言います。

千田さんは、お客さんとの会話によって伝えられることがあると考えているそうです。

「食べ物を食べて『おいしい』と思うには、背景にあるストーリーも重要。対面販売ならそれを伝えられるんです。IT出身なので通販のシステムを整えることも出来るのですが、それよりも会話をしたり、店頭のPOPやレシピを通して情報を伝えていくことを大切にしています。いくら珍しい野菜を置いていても調理方法がわからなければ売れないし、どんなにおいしい野菜でも間違った調理ではおいしくない。ストーリーを伝えることで、『おいしい』体験をサポートしたいんです。野菜を食べてもらうまでが仕事、それこそが八百屋にできることだと思っています」。

野菜が「揃っていないこと」さえ個性とし、強みにしている八百屋さん。訪れるたびに見たことのない野菜が並ぶ楽しい三茶ファームは、三軒茶屋に暮らす人にとって不可欠な存在となりつつあります。

三茶ファーム

http://sanchafarm.com/

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