トキが佐渡島の農家をひとつに「佐渡米100%減農薬栽培」実現への道のり – マイナビ農業

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生産者の試み

トキが佐渡島の農家をひとつに「佐渡米100%減農薬栽培」実現への道のり

トキが佐渡島の農家をひとつに「佐渡米100%減農薬栽培」実現への道のり

2017年11月06日

新潟県佐渡市は、東京23区の約1.5倍という広大な土地を誇る離島で、米どころとしてコシヒカリ系の米を全国に出荷しています。しかも、佐渡地域における慣行基準から化学農薬、化学肥料を5割以上減らした減農薬栽培に取り組み、現在ではJA佐渡のコシヒカリ全量が減農薬米といいます。その取り組みについてJA佐渡の米穀販売、渡部学(わたなべまなぶ)さんにお話をうかがいました。

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自然災害をきっかけに 島全体でのブランディングを決意

1995年以降、それまでの「新潟米」という販売区分から、魚沼、岩船、佐渡、一般という県内地域別のブランディングをはじめ、佐渡市でも少しずつ「佐渡米」のブランディングに取り組み始めていました。しかし2004年、佐渡市全体が大変大きな台風被害を受け、塩害で品質は大きく下がり、収量も半作程度まで減少するという苦しい自然災害を経験します。佐渡米がほとんど出荷できないという辛い状況が、JA佐渡として取り組み方を変えるきっかけになったそうです。

JA佐渡は、佐渡島の米作りを大きく2つの方向性で行っていくことにしました。

1つ目は「自然災害に強い米作り」を行うこと。2つ目は、より良いものを作って販売力を上げ「佐渡米というブランディングを確立すること」。さらに、それらを島全体で一緒に揃って取り組もうと決意しました。

米農家で協力して農薬・化学肥料3割減

自然災害に負けない米を作るために「化学肥料だけに頼ることをやめよう」と、米農家に提案しました。有機肥料に変えたり、地力を上げる工夫をしたり、といった新たな指導をしながら「まずは農薬や化学肥料を3割減らそう」と全農家に呼びかけたのです。

当初は、「農薬を減らして病気や虫が発生したらどうするんだ」「肥料を減らして収量が減ったらどうするんだ」など様々な不安が農家から寄せられたそうです。しかし、農薬や化学肥料を減らしても病気などが発生せずに生産できるよう、JAの職員が丁寧に説明と指導を続けていきました。

観光から環境へ トキと暮らす島の米作り

当時、佐渡市の行政が環境保全への取り組みを検討していたことも大きく影響します。佐渡の代名詞といえる存在が、特別天然記念物であり国際保護鳥であるトキ(朱鷺)です。

過去の乱獲が原因で一時期は絶滅したと言われていましたが、野生のトキが佐渡島で保護されて以来、トキを守るための特別施設などで保護活動が行われていました。2008年に10羽が放鳥されて以来、田んぼに降り立って水を飲んだり、虫をついばんだり、優雅で美しい姿が見られるようになっています。

そんなトキの存在が、新たな減農薬栽培に「佐渡の農家みんなで」取り組むことに一役買ってくれました。一部の農家の田んぼだけで減農薬栽培をしていても、佐渡の田んぼ全体で取り組まなければ、トキが自由に空を舞って田んぼに降り立つこともできません。田んぼで過ごすトキの姿を見ると、化学肥料や農薬を減らすことに不安を抱えていた農家たちも、「トキのために減農薬に挑戦してみようか」という前向きな気持ちに変わる方が多かったといいます。

「まるでトキが減農薬栽培の営業活動をしてくれたみたいでした」と渡部さんはにこやかに言います。佐渡の人々の優しさが伝わってくるお話です。

こうして台風被害の翌年、2005年にJA佐渡が減農薬栽培を決意してから、2006年春には新方針として減農薬栽培を発表。島内各地での説明会を1年以上続け、ついに2008年から佐渡の減農薬栽培「生きものを育む農法」がスタートしました。

新しい取り組みは不作付けを出さないための「自然栽培」

JAと農家の努力によって、化学農薬、化学肥料の3割減を達成したのち、さらに「減農薬」の基準となる5割減に取り組み、2012年にはJA佐渡のコシヒカリ全量が減農薬栽培となりました。個々の農家でさらに減農薬を進め、8割減や無農薬で米作りをしている農家も増えたそうです。

このような取り組みが功を奏し、トキの数も現在は約300羽まで増加。

(※1)佐渡の「生きものを育む農法」を開始した2008年当時のJAや農家の苦労は並大抵のものではなかったかと想像しますが、減農薬栽培の取り組みから10年弱を経て、素晴らしい環境戦略の成功事例となりました。

2017年には、JA佐渡として「自然栽培」の研究会を開始しました。これは完全無農薬、無施肥での米作りを意味しています。

「5割減達成の3歩先を目指す」というきっかけで始まった自然栽培への取り組みは、佐渡市における社会課題にも関わっており、高齢化や人口減少、農家減少などによる不作付け水田や耕作放棄地の増加を防ぐことが狙いにあります。

「水田は水田のまま保ちたい。佐渡らしい農業をきちんと続けていきたい」と、渡部さんは地域における未来への抱負を語っています。

環境負荷を軽くする農業に地域全体で成功した佐渡市は、常に先を見据えた取り組みを行い、年々、米のおいしさに磨きをかけてきました。行政や農協、農家といった隔たりを超えて取り組んだことで、素晴らしいブランディング成功へと飛躍したのです。佐渡の人々の優しさがたっぷり込められた佐渡米を是非、召し上がってみてください。

(※1)環境省 トキ情報

http://www.env.go.jp/nature/toki/index.html

JA佐渡

http://www.ja-sado-niigata.or.jp/

 

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