異業種から多い新規参入の相談
武蔵野銀行は2008年から農業支援チーム(現在は農業担当)をスタートさせています。担当として、県内すべてを見ているという土屋仁志さんに話を伺いました。
「参入の話はコンスタントに出てきますよ」と、土屋さん。特に、建築土木関係の会社は多いとのこと。
もともと重機を扱っているということもありますが、会社によっては高齢化が進む中で従業員の再雇用という面もあるそうです。土木では働けそうにないけれども、農業ならどうかと。大きく儲けるためではなく、従業員の給料分を産み出せる可能性がある産業として、農業に着目された事例があります。
農業の世界はそもそも商品単価が安い
しかし、土屋さんは話します。
「異業種から新しく農業を始めたいという方へ、まずアドバイスしたいのは、はっきり言ってしまうと、そんなに甘い世界ではないということ。やりようによっては儲かるかもしれないけれど、非常に可能性が低い」。
例えば、建築土木ならば、1億、2億を稼ぐのは普通かもしれません。しかし、農業の世界は100万や1,000万の世界。利幅にはかなりの差があります。
そもそも、農業の商品単価は安いものが多い。ある程度、値段が張る畜産関係と考えても、参入コストが大きく、入り込むのは難しいでしょう。このような単価感を持たずに参入検討を始める方が、わりと多いそうです。
参入前に考えておきたい農業のゴール
それでも「農業をやりたい」という強い思いがあるならば。考えてほしいのは、ゴールです。
「ゴールを決めれば、作らなければならないものや売り先が自ずと決まってくると思います。農業によって再雇用の場とするのか、はたまた新事業として会社の別の柱にしたいのか、本業との相乗効果を狙うのか」。
ゴールが決まると、それに向けて体制を整えることになります。
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体制づくりで重要な技術と売り先
市場が大きい埼玉では販路の心配は少な目
新規参入を考えるうえで「作ったところで売れるのかなあ」と迷う方もいるでしょう。
「埼玉の場合は、スーパーの直売所や民間の直売所があるので、売り先にはそんなに困っていない印象です」。埼玉は約730万人の埼玉県民と、約1,360万人の東京都民が近くにいるという、強いアドバンテージがあるためです。
大事なのは作る技術
一方で大事なのは、農作物を作る技術です。
経験がモノを言うところも大きく、新規参入では、特にこの技術を早いうちに身につけなければなりません。物が作れなければ売れず、売れる物が作れなければ、食べていけません。極端な話、売れるか分からない農作物でも作ってみると買ってくれる場合も。珍しい野菜を大量に作ったら、大量に持つ生産者が少ないために買ってくれた事例もあったそうです。
また、作るうえで、よくある悩みが、地域ごとの気象や土壌条件がちがうこと。例えば、他の都道府県で、研修を積んで勉強をしてきても、土地が変われば同じやり方では上手くいきません。第一、同じ地域の畑ですら、隣合わせたこちらの土壌は粘土質で、あちらは砂地などと異なります。
参入を決めたら早くに飛び込むこと
異業種から新しく農業を始めるには苦労の一方、強みもあります。地域で何代も続いていて一番大きかった生産者に、7~8年で追いついた会社もあったそうです。
なぜか。「異業種のほうが、物事の考え方がロジック化、根拠に基づいて理路整然と行動しているという感じがします。スピード感も早い」。
農業は基本的に1年に1回の収穫を待ちます。下手すれば2~3年に1回の農作物もある。1回タイミングを逃すと、次は1年後という世界です。先ほどのとおり、農業は経験がモノを言う世界。異業種からでも、いかに早くやって、いかに経験を積むかが、後からの参入企業との差を開きます。
飛び込むスピードが早いか遅いかは、とても重要なことです。
協力者がいる大切さ
「一番の近道は、地元の方々に教えてもらえて協力してもらえる関係を築くことだと思います」と土屋さんは話します。
その土地での栽培技術を知れたり、近くでの開業であれば困ったときに助け合えることにもなるからです。実際に一緒に働いてみると、技術以上にその信頼関係の構築が糧に。もちろん、生産者や販売者同士でなくてもいいでしょう。
武蔵野銀行でもビジネスマッチングには力を入れていますし、定期的なセミナーなど勉強の機会をつくっています。こういった支援者もまた、大切なパートナーです。不安の大きな新規参入。ぜひ、その土地でパートナーを探してみてください。