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伝統と革新の間で、守り続け、求め続けた日本酒の姿 白瀧酒造【1】

伝統と革新の間で、守り続け、求め続けた日本酒の姿 白瀧酒造【1】

日本酒好きで「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」を知らない人はいないのではないでしょうか。香り高く、口当たりのよい飲みやすさが特徴の「上善如水」を作る白瀧酒造株式会社の創業は安政年間の1855年。米どころ、水どころ、新潟県湯沢町で伝統を受け継ぎながらも、革新を追い求める酒蔵が「上善如水」を発売したのは1990年のこと。「日本酒の概念を変えた」と言われた日本酒誕生の背景を、同社取締役の山口真吾(やまぐちしんご)さんにうかがいました。

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湯沢の地で、自然と人が作り出す日本酒

日本国内には1,000近くの酒蔵があると言われています。その中のほぼ1割が、米どころ新潟県に集中しています。「上善如水」の酒蔵・白瀧酒造も、かつては越後と江戸を結んだ三国街道の要衝、湯沢町で創業しました。創業者・湊屋藤助(屋号:みなとや)(名前:とうすけ)が、旅人や行商人を相手に、居飲み酒屋と呼ばれた休憩所で、酒を提供したのが始まりです。近隣の弥彦や寺泊などから集まった杜氏の技術集団が作る酒は、評判を呼びました。

谷地にあって、湧き水もゆたか。世界有数の豪雪地帯にたっぷりと積もった雪は、地面に染み込み、数十年の年月をかけて地下水となります。白瀧酒造の敷地内にある3本の井戸から汲み上げる軟水は、酒づくりに最適。杜氏の技術と、自然の恵みが白瀧酒造の伝統を繋いできました。

既成概念からの脱却で生まれた水のような酒

「上善如水」は、日本が好景気に沸いていた1990年に発売されました。経済の好調は若者文化にも影響を与え、湯沢にも多くの若者が温泉とスキーを求めてやってきた時代。日本酒は、若者が好んで飲む酒ではありませんでした。「彼らに受け入れられる日本酒を」という6代目当主の掛け声で、取り組んだ「日本酒の入門者にも飲みやすい、これまでにない新しい酒」づくりが、「上善如水」を生みました。

従来の日本酒は、味が濃く、アルコール度数も高い、飲みごたえのある力強いもの。日本酒好きにはたまらない魅力は、入門者を遠ざける要因でもありました。〝新しい日本酒″は、そのイメージから遠いものを目指して開発されました。

ワインのように香りが高い一方で、口当たりと飲みやすさを追求した〝水のような酒″は、その特徴から古代中国の哲学者・老子の言葉を冠しました。

「人の理想的な生き方は、水のように他と争わず、自然に流れるように生きること」という意味を与えられた日本酒は、それまでの日本酒と対立することなく、それでいて、ただ一つの個性を放ち、狙い通り、若者を中心に支持を集めました。

「既成概念にしがみつかない。同じことをやっていても革新は生まれない」という考えは、パッケージにも反映されました。それまでの日本酒は、茶色のビンに筆文字の商品名が貼られるのが一般的だった中で、「上善如水」は、無色透明のビンに、当時急速に普及していた日本語ワープロの文字を採用し、見た目の「日本酒らしさ」を排しました。様々な新しい挑戦が詰め込まれた「上善如水」は、発売から30年近く経った今なお、日本酒の魅力を伝えるロングセラー商品となっています。

上善如水が変えた酒造り

「上善如水」は、発売当初からヒットし、3、4年に渡って生産量を増やしていきました。そのタイミングで白瀧酒造は、蔵のカラーを一新します。広告展開の手法の変更と、機械の導入による品質の安定化と省力化を両立。従来の「良いものを作れば売れる」「手作りが一番の魅力という神話」。酒蔵の常識からの脱却を図ります。「上善如水」のヒットの要因の一つは、そのパッケージにありました。ステレオタイプの日本酒の形を変えたことで、若者の支持を得られた経験から、イメージ戦略を含めた広告メッセージを発信していくようになりました。

また、杜氏の経験や勘に頼る酒造りから、「機械でできることは機械で行うこと」にシフトしました。話をうかがった山口取締役が電機企業から転身し、入社したのもこの頃。「原料である米の品質、気候、杜氏の判断、酒造りの条件は毎年違う。厳密に言えばおなじ酒にはならないけれど、お客様の期待を裏切らない良い酒をつくるため」の経営判断。「酒づくりに機械を使うなんて」という同業者の声を受けながらも、それを断行したのは「杜氏の熟練の力を最大限に活かしながら、商品の品質を安定させる」という、人気商品を抱えた酒蔵の責任が根底にありました。

山口取締役のような電気機械系の異業種出身者や、広告のプロなど、他分野の才能が集まる。「上善如水」のヒットは、変化を厭わない白瀧酒造という企業に、さらなる大きな風をもたらしました。

【後編はこちら】 伝統と革新の間で、守り続け、求め続けた日本酒の姿 白瀧酒造【2】

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