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農業の勉強は生命に学ぶ 西多摩名物・瑞高祭からのメッセージ

農業の勉強は生命に学ぶ  西多摩名物・瑞高祭からのメッセージ

東京西部に広がる山間の広大な敷地に立つ都立瑞穂農芸高校では、2017年11月4日(土)・5日(日)の二日間、学園祭(瑞高祭)が開催されました。東京都内で唯一、畜産科学科のあるこの高校では、収穫物やその加工品の販売、そして近年注目を浴びつつあるファームケアの要素を含む楽しい行事などを通して、農業が人間の育成にどんな力を持っているかをさりげなく発信しています。

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動物とのふれあい

畜産

子豚と高校生

ピキキキキキイーッ!ピギャーッ!と、甲高い声をあげてジタバタする生後3週間の子豚ちゃん。大きさはトイプードルなどの小型犬くらい。抱き上げているのはグレーの作業着を着た高校生たち。体重を聞いてみると「正確に計っていないけど4キロちょっとくらい」という返事が返ってきました。
そんな動物を扱いなれた生徒たちに促され、小さな子供たちが集まってきて恐る恐る子豚に触り、やさしく撫でています。

畜産科学科

よく見ると耳には「耳刻」という切れ込みが。これによって個体識別が可能となり、生年月日や両親の情報なども分かります。さらに去勢(オス豚の睾丸の除去)も済ませているとのこと。こうした養豚の基本ともいうべき仕事は、この「ふれあいコーナー」担当メンバーら、畜産科学科の生徒がすべて自分たちの手で行います。

羊やポニーも

同校では豚・牛・鶏のほかにも羊やポニーを飼育しており、この瑞高祭では総出でお目見え。子供たちがポニーに乗れる引馬体験も提供しています。こうした風景には大人も心を癒され、近年静かに注目されている一種のファームケア(農場の動物による精神治療)にもなっています。

毎年大盛況の瑞高祭

畜産

正門前には長蛇の列

JR八高線・箱根ヶ崎駅から徒歩20分ほど。西多摩郡瑞穂町にある都立瑞穂農芸高校では、2017年11月4日(土)・5日(日)、学園祭(瑞高祭)が開催されました。
同校によると、この2日間の来校者数は4千人以上。朝10時には正門前に長蛇の列ができていました。並んでいた高齢者のお一人に聞いてみると、いつもこの時期、楽しみにしているとのこと。食べるものはすぐに売り切れてしまうので、できるだけ早くくるというお話でした。

地域の人たちが待ち望む一大イベント

入口付近の食品科のテントでは味噌やジャム、肉まん・あんまんなど、生徒らが手作りした農産物加工品を販売。
道路を挟んだ別棟では、園芸科学科が校内の畑で栽培・収穫した野菜や草花・ブルーベリー苗などを販売。
そして畜産科学科では豚汁や牛乳・キャラメルなどを販売。もちろん、校内で生徒が飼育した豚の肉や、牛の乳を利用したものです。
さらに冒頭でご紹介したふれあい体験もあり、美味しいものを食べられる、動物に心を癒される、そして元気な高校生らと触れ合えて爽やかな気分になれる、とこの地域の人たちにとって一石二鳥の一大イベントになっているようです。

豚2頭分の豚汁づくりもわくわくする作業

一方の生徒たちは、中間試験が終わった10月下旬から瑞高祭モードにシフト。さらに残り1週間を切ってからは、食べ物の仕込みなども含めて準備作業に集中。
たとえば豚汁の場合は、2日分の肉を約120キロ(通常、豚一頭は枝肉にすると60~70キロなので、豚2頭分に相当)用意し、ダイコンなどの野菜といっしょに朝から代々伝統の大鍋で煮込みます。そうしたわくわくする準備も含め、本当にこの瑞高祭を心から楽しんでいます。

瑞穂農芸高校の理念 生命(いのち)に学ぶ学校

畜産

卒業生の進路

瑞穂農芸高校は、都内唯一の畜産科学科をはじめ、園芸科学科、食品科、生活デザイン科と、4つの学科があり、その中でもそれぞれ専門のコースに分かれて学習します。基本的には農業を中心に、産業社会を支える人間の育成に重点を置いた教育を行っています。
卒業後の進路は、就職3割、大学進学2割、専門学校進学5割弱という全体比率。ただし、畜産科学科の場合は、高卒ですぐ現場に就職するのは難しいという現実があります。近年、進化の著しい高度な技術が主流になっている畜産業界では、高校3年間の基礎的な勉強だけでは習得しきれない、より高い技術・広範な知識が必要とされるため、その習得を目指して農業系の大学進学を志望する生徒の割合が高いそうです。

家畜慰霊碑が語ること

畜産

私がこの瑞高祭を訪れ、最も印象に残ったのは、乳牛の飼育に携わる、畜産科学科・酪農類型の生徒らがガイドする「牛舎ツアー」の中で見せてもらった「家畜慰霊碑」でした。
この瑞高祭の終了後(片付けの日)には収穫祭が開かれ、生徒と職員らで収穫物を食べるのですが、その際、この慰霊碑の前で線香を立てて手を合わせ、一人一人が生き物に対する感謝の思いを胸に刻むようにしているのです。
同校では生徒が豚や牛を屠畜解体することはありませんが、鶏の解体実習は行います。また、食品科では枝肉になった豚を切り分けるという授業もあります。もちろん植物に対しても同様ですが、私たち人間は他の生命をいただくことによって生活しています。農業に携わり、仕事にすることは、その現実を強く意識せざるを得ないということでもあります。それを踏まえた同校の理念「生命(いのち)に学ぶ学校」は、とても胸に響くものがありました。

農業系高校における教育の目的

瑞穂農芸高校がみずからの課題とする「生命(いのち)に学ぶ学校」。類する言葉は他の教育機関でも使われます。しかし、農業の勉強を通して動植物の生命に向き合う高校生たちが、若い瑞々しい感性でそれを体感し、得たものをおのおのの人生に還元する。実用的な知識や技術の習得以上に、そうした自分の生命を膨らませるための経験こそがこの学校、ひいては農業系高校における教育の最も大切なものと言えるのではないでしょうか。

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