脱サラして8年前に就農した大皿一寿(おおさらかずとし)さん。専業の小規模農家として、現在は奥さん、研修生2名、パート1名と共に、5人で生産活動をしています。
今年5月、加工商品の改良のために「クラウドファンディング」にチャレンジして強い手ごたえを感じたと言います。結果的に、資金集めだけでなく「マーケティング」や「商品PR」としても、6次産業化に成功しました。
■はじまりはオランダ人に託されたケールの“種“
なぜカーリーケールを栽培しているのですか?
知り合いの八百屋に「オランダから神戸に移住してきた男性がケールを栽培できる人を探している」と聞いて、そのオランダ人と会ってみました。ケールと言えば青汁のイメージが強かったのですが、欧米ではメジャーな野菜で、キャベツのように食べているようです。日本のスーパーで手に入らないため、オランダから輸入した種で栽培して欲しいと頼まれました。
さっそく育ててみると葉が縮れていて、私が知る青汁のケールとは品種が違うことに気づきました。実は“カーリーケール”をそれまで知らなかったのです。柔らかくて苦味がなく、栄養価もかなり高い。幼葉は生のままサラダにしても美味しくて、素晴らしい野菜だと思いました。それから約5年間、自家採種で生産量を増やしています。
■6次産業化と加工会社との出会い
そのままで美味しいカーリーケールを加工した理由は何ですか?
カーリーケールを卸しているスーパーがドライチップスに加工して商品化していると聞き、自分でもやってみようと思いました。やはり欧米ではケールチップスも定番品で、外国人に需要が高いそうです。
商品開発はスムーズに進みましたか?
まずは温風で乾燥させたものに味付けをして商品化しました。欧米人やインド人に売れたのですが、日本人にはまったく受け入れられず売り上げが伸び悩みました。
それで改良されたのですか?
たまたま知り合ったドライフルーツの加工会社が、真空フライ製法をしていると聞き試作を依頼しました。約60度の低温でじっくりフライしているので、温風乾燥とは食感が全然違います。サクサクと軽い口当たりで後味も良く、薄味でも実に美味しいのです。ひと口食べた瞬間「これなら日本人の口にも合うはずだ」と確信し、製法を変えることに決めました。
■クラウドファンディングのきっかけ
どうしてクラウドファンディングを始めたのですか?
商品を改良するのにお金がかかりましたし、パッケージをリニューアルしたかったので、その資金をクラウドファンディングで集められないかと考えたのです。神戸にはクラウドファンディングがきっかけで飲食店を開いた方がいて、まずはその方のセミナーを聞きに行って知識を得ました。
現在クラウドファンディングの会社は約200社もあるのですが、私は商品販売に強い“Makuake”に出品しました。
■クラウドファンディングのノウハウ
掲載の手順はどうされているのですか?
運営会社によって手順も手数料も違うのですが、商品の審査や販売方法をコンサルティングしてもらう所からスタートし、非常に役立ちました。リターンの内容、サイトのデザインにも綿密なアドバイスを受けました。今でも“Makuake”のページがデジタルカタログとして重宝していて、ケールチップスの商品説明をする際に使用しています。
■「知名度アップ」と「ダイレクトな反応」
具体的にどんな成果がありましたか?
身近な人に「クラウドファンディングを始める」と伝えただけで想像以上に興味を持っていただけたので、告知力とインパクトの強さに驚きました。会ったことがない方からの支援もあり、結果的に商品の知名度アップになりました。
商品に対する反応もダイレクトに来ました。無農薬のケールチップスは貴重なので、潜在的な需要があることがわかりました。今は品揃えにこだわりを持ったスーパーとのやりとりもはじまっています。
■農家にクラウドファンディングを浸透させたい
農業ではクラウドファンディングの話題が少ないのでしょうか。
農家がかかえる一番深刻な課題は、資金繰りです。初期投資に高額の費用を費やしても、野菜は単価が数百円ですから、すぐに利益はでません。銀行の融資も年々厳しくなり、正直なところ、私たちも決して経営は順風満帆ではありません。
そんな状況ですから、先に商品に協賛してもらい、インターネットで資金を集める手法は農業に適しているのではないでしょうか。これからは、多くの農家に勧めていきたいです。実は私も、2度目のチャレンジを考えています。
写真提供:片岡杏子、トランクデザイン