練馬で人気の直売イチゴ

農園長の加藤博久さん
東京都練馬区で人気の直売イチゴがあるといううわさを聞き、加藤農園を訪れました。加藤農園があるのは、西武池袋線の石神井公園駅から徒歩15分ほどの住宅街のなか。イチゴの収穫シーズンは、毎日午前中から直売を行っています。取材で訪れている間にも、常連と思われる人から遠方からわざわざ調べて来た人まで、加藤農園のイチゴを求めて訪れていました。
イチゴのビニールハウスで、農園長の加藤博久(かとう・ひろひさ)さんにお話を伺いました。
元々会社員だった加藤さんが家業の農業を受け継いだのは、2011年のこと。お父様が病気になったことがきっかけだったといいます。その時から農業について勉強をして試行錯誤を重ね、2015年にはイチゴの栽培をスタートしました。
現在販売しているイチゴは2種類。「章姫(あきひめ)」と「紅ほっぺ」です。苗が9,000本ほどと 大規模農家ではないので、市場には出回らず、畑での直売とネリマナイトマルシェなど都内のマルシェでのみ販売を行っています。
濃い味のイチゴを作るために

採れたばかりの大粒イチゴ
当日は訪れた際、農園のスタッフに「摘果(てきか)」を指示していました。イチゴの美味しさを引き出す作業のひとつです。
「東京は冬でも晴れていて、雪があまり降りません。イチゴに限らず野菜には光合成が重要です。どんなに肥料をあげても光合成には勝てません。そういった面では、東京は作物が育ちやすいといえます。農家の仕事は環境を作ること。太陽の光はコントロールできませんが、温度、湿度、水の入れ方などを調整しています。また、イチゴの花の数も制限しています。先ほどしていた摘果は花を摘んで間引く作業で、残った実に味がいきます。もったいないという方もいますが、うちではこれにこだわっています」
採ったばかりのイチゴをいただくと、どちらの品種も甘さと酸味を感じるしっかりした味に驚かされます。一般にイチゴの美味しさですぐに思いつくのは甘さですが、加藤さんは「イチゴの美味しさには甘さや糖度は大事ですが、酸味やコクといったものも重要。最近では野菜に対しても甘さを求める風潮がありますが、美味しさは甘さだけじゃないというのも丁寧に伝えていきたい」と話します。
「イチゴって、花から実になって収穫するまでが、長ければ長いほど美味しくなります。花から50日目に収穫すると美味しいなって思いますし、30日くらいだと水っぽくてあまり味がしないかなって感じますし、60日だともっと美味しいイチゴができる。だから長ければ長いほどいいけど、収穫までの長さは1日の平均気温の積算で決まるんです。たとえば章姫は、積算が600度になったら収穫時期を迎えます。今の時期の東京は、平均気温が12度くらいですよね。単純に計算をすると、(600度÷12度で)50日ほどで収穫を迎えることになります。春になると気温は15~20度になるので、収穫まで30~40日。暖かくなると収穫量は増えますが、その分、収穫までの期間が短くなり味が薄くなってしまいます。春先はなるべく気温を下げるようにしています」。
量よりもブランド化を目指す

大粒で贈答にも人気
ほぼ毎日完売しているというイチゴ。出荷量を増やしたければ、ハウスを暖かくしてどんどん収穫するという方法もあります。しかし、加藤農園では量で利益を向上させることは考えていません。「今の時点では、量で勝負するよりも味を大切にしています。もっと味をよくしていきたい。たとえば、冬の時期は美味しいけれど、春先に味が落ちてきてしまうことなどがまだ課題です。出荷量か、少量で味にこだわるか、どちらが正解というものでもなく、農家によって経営スタイルが違うだけ」と話します。
味の濃さに加えて加藤農園のイチゴのもうひとつの特徴は、大粒だということ。加藤農園ではイチゴを贈答用に購入する人も多く、大粒であることを意識しています。渡した先で驚かれることも多いようです。ライバルは近所のケーキ屋さんだといいます。手みやげに定番のケーキではなく、大粒のイチゴを選ぶという選択肢を推すというわけです。
量で勝負するか、少量で美味しさや付加価値にこだわりブランド化することを選ぶか。加藤農園は後者を選び、3年目の現在、認知度が上がっています。後半は、イチゴ農園の経営面についても聞きました。
加藤農園
住所:東京都練馬区三原台3-7
ツイッター:https://twitter.com/IchigofarmTokyo(毎日のイチゴの販売状況を確認できます)
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