少量多品種からイチゴを主力に
東京都練馬区でイチゴ農家を営む加藤農園の加藤博久(かとう・ひろひさ)さんに、イチゴの栽培に関して経営面のお話を伺いました。
加藤農園がイチゴの栽培を始めたのは2015年です。それまでは「少量多品種」を標榜し、大根、ニンジン、キャベツ、レタス、白菜、サツマイモ、ジャガイモ、トマト、ナスなど、両手でも収まらない数の品種を育てていました。
いろいろな品種を作るのは楽しいと思う一方、経営のことを考えると効率化が出来ないということが課題でした。それを色濃く感じさせられたのが、群馬の農家が加藤農園の畑を見に来た時の一言。「ジャガイモ、まだ手で掘ってるんですね」。大きな農家だったら、作業は出来る限り機械化しています。しかし、少量多品種だと、すべての品種にそれぞれ違う機械を揃えるためにお金を使うのは難しいことでした。「どれだけ手作業でやろうとも、消費者にとっては手でやっているから高く買う、という理由にはなりませんから」。
イチゴを選んだ理由
効率化のためには品種を絞ったほうがいいと考えて、選んだのがイチゴでした。少量多品種から一転。現在は生産の9割以上をイチゴが占めています。なぜ主力にイチゴを選んだのでしょうか。
「限られた土地のなかでやることを考えたとき、選択肢はイチゴかトマトだったんです。イチゴやトマトって、「美味しいか」、「水っぽいか」などが明確に分かります。同じ品種でも、生産者によって味がまったく違います。野菜って、品種よりも誰が作ったかのほうが大事だと思ってるんです。狭い敷地内でもブランド化できるのは、イチゴだと思いました。東京都内の農地は、減る可能性はあっても増える可能性ってない。狭いなかで効率よくやっていく方法を考えることが必要でした」。
イチゴのシーズンがスタートすると、効率化への思いはさらに強くなります。「イチゴのシーズンは5月まで続いて、6月に片付けをします。夏に作物を育てるとしたら春から仕込みが必要ですが、3、4月はイチゴが一番忙しい時期。両方の作業をすることはできません。多品種を育てることは、余計に中途半端な感じになってしまいました」。イチゴのほかは、東京では珍しいオリーブなどいくつかの作物に絞られました。
それまでに作っていた野菜と違うのは、イチゴがイベント野菜であること。クリスマスやひな祭りのときは一気に人が並びますが、当日を過ぎると行列が出来ていたことが嘘のような状態になります。今まで扱っていたブロッコリーやキャベツなどとは違い、1~2年目は出荷数の計算に苦労したそうです。
イチゴを栽培して現在3シーズン目。加藤さんは、直売の口コミが広がり、マルシェなどにも出店することで認知度が上がってきたという手応えを感じています。効率化を進めた現在、設備投資を回収するまでには至っていないのでビジネス的に成功したとまでは言えなくとも、売り上げ自体は満足がいく数字だとは考えているそうです。
東京で農業をやるメリットは?
農業を始めて8年目になる加藤さんですが、練馬ならではの特徴が、消費者のなかで生産していることだと話します。直売は近所の人が気軽に来ることができますし、近所のイタリアンレストランがオリーブを収穫しに来ることもあります。
「東京のなかでも練馬区は田舎のイメージかもしれませんが、東京にいながら美味しいものが食べられる街だと、住んでいる人には喜んでもらいたいです」。
東京都は食料自給率が全国で最も低い1%とされ、練馬区ではどんどん農地が減少しています。加藤さんも生産緑地の指定解除がされる「2022年問題」などを挙げ、今後も農地が減っていくことは、経営が満足でなければ仕方ないことだともいいます。東京で農業をやるメリットはあるのでしょうか。
「土地はないけれど、人がいることです。見渡してみれば、それぞれ得意なことをする人々がいます。6次産業というのも意識していますが、何でもかんでも自分たちでやろうとは思っていません。たとえばジャムは、敷地内に加工場をもっているのではなく、近くの福祉施設で作ってもらっています。気軽にコラボレーションができるのは東京のメリットではないでしょうか」。
加藤さんが農業を始めて8年目、イチゴ栽培をスタートして3年目。経営面での向上を目指しながら、地域全体の価値向上にも寄与していることが伺えました。
加藤農園のイチゴは、毎日11時から直売を行っています。販売状況はウェブサイトやツイッターなどでチェックしてみてください。
加藤農園
住所:東京都練馬区三原台3-7
ツイッター:https://twitter.com/IchigofarmTokyo(毎日のイチゴの販売状況を確認できます)
【関連記事】東京産のイチゴが食べられる加藤農園。今年も直売を実施【前編】