鹿は草食性で、田畑の葉や根、果実も食べてしまいます。2m以上のジャンプ力があり、防護柵を飛び越えてしまうことも…。農作物被害はどんどん深刻になり、狩猟や駆除による捕獲数は近年増加。平成26年には全国で58万8000頭もの鹿が捕獲され、その命のほとんどが廃棄処分されているという厳しい現実があります。
この問題に立ち向かうため、鹿肉料理をリーズナブルな価格で提供し続ける「鹿鳴茶流 入舩」(ろくめいさりゅう いりふね)。野生動物の命を有効活用するための、衣食に関わるさまざまな取り組みを追いました。
鹿の革はバッグや靴に、肉はジビエとして
「鹿鳴茶流 入舩」を運営する(株)メリケンヘッドクォーターズの代表 入舩郁也(いりふね・いくや)さん。もともとは、フィッシングツールやアウトドアファッションなどを扱う洋服屋の店主です。
釣りが趣味で昔から山に行くことが多かった入舩さんは、何度となくハンターを見かける機会がありました。十数年前、たまたま出会ったハンターと話をしていると「捕獲した鹿のほとんどが処分されている」という衝撃の事実を聞きます。洋服屋として何とか有効に活用できないかと思い、当時ほとんど市場に存在しなかった野生鹿の革(皮)の加工を地元兵庫県のタンナー(動物の皮をなめして素材としての「革」に加工する人)と共同で開発。数年間の試作を経て、その革を活用した製品の展開をはじめます。
柔らかくて軽いという鹿の革の特性を活かした靴は、履き心地の良さも抜群。バッグやコインケースといったアイテムも次々と生み出されていきます。シャツの革ボタンにも鹿の革を活用し、ディテールにもとことん鹿の革が登場します。
さらに、鹿の肉も活用されていないという状況を改善するため、同社のプロジェクトでもある“ニホンジカ一頭まるごと有効活用”の実現へ向けて鹿肉料理専門店「鹿鳴茶流 入舩」をオープンしました。2013年のことです。同時に、アパレルショップ「ハイカラブルバード神戸」もオープンし、ニホンジカにまつわる衣食業態プロジェクトを加速させました。
たくさんの人に食べてもらうために
当初はジビエブームも今ほどではなく、はじめて鹿肉を食べるというお客さんばかりでした。他店にはない低価格と、「鹿シチュー」(850円)や「鹿の焼肉丼」(800円)といった親しみやすい豊富なメニューが話題となり、今では多くのリピーターが訪れる人気店となっています。
高級フランス料理のジビエとは異なり、気軽に食べられるメニューにこだわる同店。そこには、「たくさんの人に鹿肉を食べて欲しい、鹿肉は美味しくてヘルシーだと知ってもらいたい」という強い思いがあります。
今どきの鹿肉は臭みもなく本当に美味しい!
鹿肉と言われると、臭みがありそう、肉が固そうというイメージはありませんか? それはもう過去の話。現代の鹿肉料理は驚くほどの美味しさです。狩猟後すぐに、適正な処置と血抜きをして熟成させると美味しくなることが分かり、処理技術がどんどん向上しているのです。
超ヘルシー!脂質は牛肉の約20分の1
野性で育った鹿肉は脂身が少なくとってもヘルシー! 牛肉に比べて、カロリーは約3分の1、脂肪分は約20分の1、たんぱく質は1.2倍と、高栄養、低カロリーの素晴らしい食材です。女性に不足しがちな鉄分もたっぷり含まれています。
野生動物の命を大切に活かしたい
鹿を食べればすぐ獣害が減るわけでもなく、野生動物の問題は簡単ではありません。鹿肉の流通が増えないのは、安定供給に向けた解体処理加工施設等の体制が整っていないこと、他にもたくさんの要因があります。
しかし、まずは鹿肉を食べる文化が広がらなければ、解体処理加工施設を新設することも難しいのです。需要がなければ猟師の収入源も増えませんし、鹿肉の処分量も増える一方です。
とにかく一度、鹿肉を食べてみてください! その美味しさの根底には、入舩さんやスタッフたちの熱い思いが込められています。真のジビエとは何だと思いますか? 野生動物と人間の未来を考える第一歩が、そこにあるのではないでしょうか。
◆「鹿鳴茶流 入舩」(ろくめいさりゅう いりふね)
住所/兵庫県神戸市中央区元町通1-9-8
時間/日~木 11:30~15:00(LO 14:30)、17:00~23:30(LO 23:00)
金・土 11:30~15:00(LO 14:30)、17:00~24:00(LO 23:30)
定休日/水曜日
URL/http://rokumeisaryu.com/
予約・お問い合わせ/078-321-0295
※料金はすべて税込価格です。
※材料の入荷状況により盛り付け等は変更になる場合があります。
▼ニホンジカの有効活用について詳しく知りたい方はコチラをご覧ください
http://hyogoshikanet.wixsite.com/hyogoshikanet
写真提供/株式会社メリケンヘッドクォーターズ