街で馴染みの店をもつ
「サードプレイス」という言葉を聞いたことがある人は多いかもしれませんが、自分が暮らす街に思いつく場所はあるでしょうか。サードプレイスとは家や学校、職場だけでない、地域コミュニティ内の第三の場所のことですが、江古田にも「街での居場所」について考えるバーがあります。それが、レゲエバーの「コブラ」です。
オーナーの川本繁晴(かわもと・しげはる)さんは、このバーを拠点に「エンゲージメント」という団体を運営しています。エンゲージメントは、川本さんいわく「江古田の地域活性化集団」。イベント開催やフリーペーパーの発行を通して、地域にコミュニティを創ることを目指します。活動の軸にしたのが、区内で生産された練馬野菜と、音楽やアートでした。
「正直最初から農業に興味があったわけではなかった」と話す川本さんに、地域活性化を目指したきっかけや、練馬の野菜をキーワードにした理由を尋ねました。
元々音楽が好きな川本さんがレゲエバーを開いたのが、2001年。隣駅の東長崎で生まれ育ったことに加え、レコード屋がある街でやりたいという思いがあり、江古田を選ぶのは自然なことだったそうです。地域で他店舗やDJと一緒に音楽イベントを開催することもありましたが、イベントを仕切るための組織があったらいいと考えるようになります。さらに地域活性化を形にしようと強く意識するようになったのが、2011年のことでした。
「2011年の震災があったときに店を開けたんだけど、家にひとりでいたくない人が5〜6人店に来ていたんです。家に帰っても携帯電話の地震アラームが鳴ったりして、特に女性ひとりだと心細いじゃないですか。このこともきっかけで、何かあったときに顔を出せるような馴染みの店が地元にあるといいと思った。バーでもカフェでもいいけど、家や学校、職場の往復だけでなくて自分が住んでいる街のお店を使うというのを広めたい」。
エンゲージメントの活動を始める際、「音楽」をメインの軸にすると音楽好き以外にとっては敷居が高いのではないかと考えます。もっと間口が広いイベントにするために、誰もが興味があるものでと考え付いたのが「フード」でした。
練馬野菜を使ったイベント
練馬区ならではのフードといえば「練馬野菜」。エンゲージメントでは練馬野菜を活動のひとつのテーマにすることにしました。
その頃、川本さんは練馬区のまちづくり活動助成に応募し、2014年度から3年間、練馬区からエンゲージメントの活動に助成金がおりることになりました。これをきっかけに、練馬区のまちづくり推進化に、練馬区の農家である加藤農園(https://agri.mynavi.jp/2018_01_30_17756/)を紹介されます。農業と一口に言っても、農業を営むにはそれぞれの理由があります。加藤農園の農園主である加藤さんは、先祖代々引き継いできた農地を守りながらもビジネスとしても成り立たせたいという思いを持ち、熱意に共感した川本さんはフードイベントで加藤農園の野菜を使うようになります。
今までに数回、自身のバーで「EAT LOCAL(地産地消)」をテーマにフードイベントを行ってきました。たとえば「NERIMA PRODUCE SOLD DIRECTLY(練馬野菜直売パーティー)」と題したイベントでは、加藤農園の野菜やパーラー江古田のパンを使った料理の提供や加藤農園の野菜の販売を行いました。DJを入れたり、地元のアーティストを招いたりと、音楽やアート要素も楽しめるものです。
フリーペーパーは「練馬野菜」や「東京のいちご」をテーマに、不定期で発行してきました。テーマは毎回違えど、地元の野菜を食べることだったり、自分が住む街でコミュニケーションすることについて伝えています。たとえば、第1号「練馬野菜」では、農家、料理人、レストランのオーナーへのインタビューを通して、それぞれの立場からの食に対する経験や価値観が語られ、江古田との繋がりについても書かれています。
放っておいたらなくなってしまう「都市農業」
始めはあまり興味がなかったという農業に対しても今は、何かできないかという思いはあります。
「練馬区全体となると大きな話になるが、熱意のある農家を支えたい。都市農業は放っておいたらなくなってしまいますよね。23区のなかでは最も畑が残っている練馬区。何かできないかと考えています」。
「地元に住んでいる人が練馬の野菜を買うというのがいいけれど……東京にはたくさんスーパーがあって、どうしても消費者が手近で安いものを買ってしまうことは避けられない。地元の農家から聞いた話でも、地元の飲食店が意識して練馬の野菜を使い、それを地元の人に食べてもらう、という形での地産地消になっている側面もあると聞いたことがあります」。
確かに練馬区には、練馬野菜を使っていることを特徴にしたレストランがいくつかあります。
「今は練馬の野菜を使っていることをPRしてるけど、個人的にはPRしなくても自然に使っている状態になるのが理想だと思う。その形にしていくにはどうしたらいいのだろうと考えていきたい」。
川本さんが目指すのは、訪れてもらえる街ではなく、「住みやすい街」だと言います。エンゲージメントの活動はただ練馬野菜をPRするわけではなく、暮らす視点から農業や街に対してできることがもっとあるのではないかと考えていることが伺えました。農家でもない、行政でもない、一般の消費者でもない視点からの農業と地域のお話でした。
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